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【No.021】

日本全国一万劇団計画

5.「利益を出す演劇」以外の価値観

前回、「演劇が儲かるようになった」ことのマイナス面を強調しました。じゃあ、儲かっちゃいけないのでしょうか。断言しますが、そんなことはない!

企画によっては儲かる、という「新しい状況」が生まれたのなら、それを利用しない手はない。儲けてください。動員してください。天下取ってください。

問題としているのは、「価値観」がひとつになることです。

演劇が「エンタテインメント」の選択肢の一つになったことは素晴らしい。他のどのジャンルと比べても、負けない感動と体験を提供できるのが演劇なのですから、どんどん映画やテレビと戦って、お客を集めまくっていただきたい。当サイトも、そういった大きな動員を目指すエンタテインメント系の劇団を応援していきます。儲ける仕組みも公開していきたいと考えます。友達の芸能マネージャーが、「舞台の企画出してよ」とは昔っから言ってましたが、最近、確かに口だけじゃない感じがします。かつてはどう考えても口だけでしたから。他の機会でも、企画に乗って成功した事例が出ていますし。

じゃあ、何が問題なのか・・。というか、心配しているのです。「ガーディアンガーデン演劇フェスティバル」がなくなり、「パルテノン多摩小劇場フェスティバル」がなくなり、「インターネット演劇大賞」がなくなっちゃったもんですから。

・・・心配でしょ?

儲かるほうの、エンタテインメント系の演劇が注目され、「成功事例」として認識されてもかまわないんです。一方で、儲からなくてもすぐれた舞台がきちんと評価されていれば。朝日舞台芸術賞や読売演劇大賞が対象とする「万人が認めるクオリティの高いもの」だけではなく、才能と勢いだけでやっちゃってる小劇場のアホな芝居もきちんと評価されていればいいんです。そんな評価の目安だったのが前述の三つの演劇祭。いつのまにか、なくなっちゃいました。

「なくなった事実」が問題なわけではありません。なくなる前に、すでに状況の変化は起きていましたから。小さな劇団の動員が伸びなくなり、劇団存続が厳しくなり、活動の環境は悪化していました。一方でエンタメ系の動員が伸び、タレントや有名俳優の舞台進出が盛んになっていきました。その後で、三つの演劇祭がなくなったのです。「こっち側」の評価の指標が、なくなっちゃったのです。一方だけになっちゃったのです。状況の悪化に追い討ちがかかったのです。

ということで、重要なのは、状況の悪化であり、そこを変えることが大切。その意味で、「お客さんが求めていない」のかもしれないという点が重要なのです。お客さんは、わかりやすく楽しめるものを求めているのが「時代の気分」のようなのです。それが変わらないとしたら、状況は変えられないだろう、というのがこの連載の論旨なのでした。

小劇場に勢いがなくなったから、三つの演劇祭はなくなったのでしょうか。インパクトのある劇団が見つからないので、三つの演劇祭は必要なくなったのでしょうか。待っていてすごい劇団が登場すれば、三つの演劇祭は復活するのでしょうか。応援して待っていれば、そんな劇団は登場するのでしょうか。時代のニーズがないかもしれないのに・・・。根本原因は劇団ではなく、もっと深いところにあるかもしれないのに・・・。

寺山修司は「演劇は、社会科学に横槍を入れる」と規定しました。芸術方面の人文科学ではなく、時代を映す社会科学と対峙するんだ、という意味でしょう。鴻上尚史も「演劇だけが時代を問われる」と言ってます。多くの演劇人が「時代と切り結ぶ」ことを言ってきています。「時代に合わせる」のが、「時代のニーズに応える」ことであり、「歌は世につれ」の歌謡曲の世界です。エンタテインメントです。それとは違う面があるのも演劇なのです。こんなに時代がこっち側の演劇を求めないという状況は初めてのことじゃないのでしょうか。そんな時代に、新しい劇団の登場を待っているだけでは、状況は変わらないと思えてなりません。

ひとつひとつの劇団だけが頑張っても、どうにもならないところまで時代は来ていると思うのです。さて、どうすればいいのでしょうか・・・。

週刊StagePower編集部
神保正則
2006.5.23


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