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【No.020】

日本全国一万劇団計画

4.利益の出る演劇が可能となった意味

この連載は、「小劇場不況」が言われる今、何をなすべきかを考えることを目的としてスタートした。前提として、現在の演劇状況を把握し、小劇場が「どうなっているのか」を確認したいと考えた。はたして「生きのいい劇団の登場を待つ」と期待し応援しているだけでいいのか、疑問だったから。

前回までは、現在の厳しい創作環境について説明した。次回からは具体的な提案を行おうと考えるが、その前に、演劇界の「新しい状況」について、ひとこと。

筆者は1980年以来、演劇と関わっているが、この「新しい状況」は初めての経験。演劇は「儲かる」らしい・・・。

確かに、一部の大手劇団は利益を出していた。ロングランや映像進出など、利益を生むための工夫も提案されていた。しかし、普通の小劇場で、短期かつ一回限りのプロデュース公演で利益が出るようになるとは考えられないことだった。「芝居は儲からないもの」と20年以上聞かされてきたのに・・・。

近年、芸能事務所の演劇への進出が顕著である。ジャニーズ事務所やアミューズ、ホリプロなど。しかし、それほど大きな事務所でなくても、舞台企画に乗ってきている。演劇をやってるものが出した企画に対して、「別になんでもいいよ。こっちは儲かるんなら、それだけでやる意味あるんだから。」と答えるとか・・。

もちろん、そこいらで普通に行われている公演で利益が出ているわけではない。そこそこ名の知れたタレントが出演し、わかりやすいエンタメ系の芝居であることが求められる。それでもこれまでは「全ステージ満員」というのは難しかった。黒字にするためには数百人規模の劇場で、何千人という動員が必要なのだから。いや、企画によってはそれが可能となっているのだ。お客が入るのだ。満員になるのだ。

なぜそんなに入るのだろう? 「演劇」に対する一般の人の認識が変わったのだろう。「小劇場」に対するイメージが変わった。いかがわしいものでも、キケンなものでもない。まさに映画で言われている「新しいっぽいスタイルのものをわかりやすく見せる」ことが演劇でも可能になったのだ。また、感動や笑いを求める観客に十分応えられるものが演劇でも提供できるようになったのだ。「演劇」は「楽しく泣けるもの」と認識する人が増えているので、満員になるのだ。それが利益へとつながっているのだ。

このことのもたらす影響は計り知れない。いい影響だけではない。

大劇場のプロデューサーが利益の出る環境になったことを喜んでいるだけなら問題ない。小劇場で活動する演劇人が、その利益モデルを「成功事例」と感じ、「勝ち組」として認識するとしたら、小劇場はますますピンチとなろう。お客のニーズに応える「わかりやすく、笑って泣ける」ものばかりになるとしたら・・・。

かつてハイレグ・ジーザスの河原雅彦氏が劇団解散の理由として、「劇団が大きくなり、お客さんの期待に応え、お客さんに受けるものを作るようになったら、なんか楽しくなくなった。」と言っていた。「自分たちが面白い」と思うものを作るのが楽しかったのであり、動員のことを考えないといけない規模になったことが創作にマイナスに働いたのだった。動員が創作のクオリティとなんら関係がないことは、視聴率と番組の質が関係ないのと同じ。視聴率に左右されるようになったことが、テレビをダメにした。演劇もまた、動員で論じられるものではない。意味がない、とは言わないが、動員が第一の基準になることは間違いであり、「動員が多いこと」「利益が出ること」が「勝ち」ではないのだ。それを「勝ち」とする価値観が問題だと思えてならない。

大丈夫だよ、大部分の小劇場は儲からないのだから、と反論されるだろうか。しかし、動員できる劇団や利益を上げることが「勝ち」であり、「儲からない」ことが「負け」と判断される「価値観」がとても怖いのだ。そこから面白いものは生まれてこない。テレビや日本経済が陥った失敗がそこにある。今、演劇界は岐路に立っているのだ。これ以上、その価値観が蔓延するなら、引き返せないところへ行ってしまう。

週刊StagePower編集部
神保正則
2006.5.17


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