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世田谷パブリックシアター演劇ワークショップ

世田谷パブリックシアター演劇ワークショップ
演劇ワークショップの未来を考える実験ワークショップ「明日のために」

文責:編集部 じんぼまさのり


「演劇ワークショップ」は当然、「演劇のワークショップ」だと思ってた。同じものだと思ってたのだ。なので、「演劇ワークショップの未来」を考える実験ワークショップというのはどんなものなのかと、とても興味を引かれた。

問い合わせてみると、「とにかく実験」なので、取材しても面白くないよ、という返事。

「いや、実験ならきっと面白いと思います」と食い下がって、強引に取材させてもらった。「もしかすると、当日来られても、出席者や講師の方がNG出すかもしれないので、そんときはそのままお帰りいただくことになるかも」と。「もちろんOKです。」と答えたが、よく意味がわからなかった。その実験性に理解が及ばなかったからだ。冒頭で述べたように、「演劇ワークショップ」が「演劇のワークショップ」と同じだと思ってたし。

会場で、その違いに気づくのに時間はかからなかったが、なぜ「面白くないかも」と気にしているのかを理解するのは、ワークショップが終わりに近づいたころだった。終わってみて、すごいものを見てしまったと感じたわけで・・・。


■6:30 はじめに

2006年5月25日(木)の午後6時半に会場の世田谷パブリックシアター地下2階の稽古場Bへ行くと、すでに20名ほどが集まっていた。このワークショップの定員は15名(参加費無料)なのだが、最終的には30名ほどになった。ちなみにこの稽古場はシアタートラムの地下であり、その日もトラムでは公演中ということで、「外の廊下はお静かに」と何度も注意していたのだった。

最初に講師の方を紹介された。講師というか、ここでは「進行」と呼んでいるみたい。そして、「取材だ」と告げたら、その進行役の方も、「今回のは実験なので面白くないですよ。」と恐縮してる。この時点では、なぜそんなに気を使うのか理解できなかった。そもそも、「演劇のワークショップ」って、見ていて「面白い」もんじゃないと思っていたし。いろんな劇団の稽古は見てきているので、「面白いもなにもないだろうに」と思ってしまった。というか、「実験すぎて面白くないとするなら、そこが面白い」などと思っていたわけで・・・。で、このワークショップの最後に、その「面白くない」という意味がわかるのだった。

■6:35 全員でゲーム

6時35分、開始。全員が丸くなって、名前(呼び名)の紹介。「●●って呼んでください」みたいなの。以下、ゲーム系の稽古が始まる。この時点では24人。うち男性は3人。役者をやってる人は半分ぐらいの印象。どっから集まってきたのかは、不明。まだ固い感じが残るが、初対面にしてはなごんでいる感じがした。実は、この実験ワークショップは今日が三日目で、22日と23日に別の講師の方が別の実験ワークショップをやってたのだ。で、どうやら三日連続で出席している人がほとんどだったらしい。

■6:45 共通項探しでコミュニケーション

6時45分。4人×6班に分かれ、「4人の共通項を探す」というのを班ごとに開始。それぞれの班ごとに「共通項」を探す話し合いが始まった。知らない人同志だが、これでコミュニケーションがとれる。出てきた共通項は「日本人」「オンナ」「携帯を持ってる」など、4人じゃなくても共通じゃん、というものから、「目が悪い」「肉より魚派」など、やたら具体的なものも。

6時50分。今度は5人ずつに分かれ、共通項探し。ただしテーマは「嫌いなもの」で。このテーマだと、かなり盛り上がれる感じ。うまいテーマだ。「人ごみ」「ゴキブリ」「消費税」「地震」「数学」「満員電車」「タバコ」「おばけ」などなど。

■7:00 25人でリレー雑談会

7時。全員で丸くなり座り、「言いたい事を言う大会」。発言者は円のセンターに行き、そこに置いてあるマラカスを手にしてしゃべる。なんでも自由にしゃべっていい、ということだが、前の人の発言を受け「●●で思い出したんだけど〜」という感じでリレーされていった。出てきた話題は「髪を切る」「桐野夏生」「霊感」「ブックオフ」「ロハス」など。まさに25人でやる雑談。普通は数人でやるのが雑談だが、それを25人でやった。まんべんなくしゃべっていたようだが、やっぱりしゃべる人としゃべらない人がいたんだろうなあ。というか、赤の他人の集団で、こんなに積極的にみんながしゃべるもんだろうか。オレなんかだと、変に受けを狙っちゃうだろうし・・・。受け狙いのやつって、サイアクなんだよなあ、こういう場では。

■7:20 「フォーラムシアター」第一段階

7時20分。「紙とクレヨン」が用意され、全員がこれまでの人生を振り返り、「ほんとはやりたかったこと」「言いたかったこと」あるいは逆に「やらされちゃったこと」を描く。絵入りで描いてた。約15分。これがこの日の最後まで続くネタとなる。一番最後にはこれを使って5分間の芝居を作るという「フォーラムシアター」が行われるわけだが、この段階では、なんのことやらわからず、一生懸命、画用紙に向かっていた。

7時35分。5人ずつの班に分けられ、それぞれが描いたものを班内で発表し見せ合う。(5人でシェアすると言ってた)

7時45分。ある班が指名され、その中の一人の人の話を5人で発表することに。つまり、一人が「演出家」役になり、ある人が「やりたかったこと」の状況(シーン)を、他の4人の体を使って描き説明する。過去のそのワンシーンを、4人のストップモーションで作るのだ。場合によっては演出家役も中に入る。

で、このシーンを見て、演出家役が説明する前に、周りで見ている20人が、何を表現しているのかをあれこれ予想する。「状況」と「何をやりたかったのか」である。「状況」は類推できても、「やりたかったこと」に関しては、さまざまに意見が分かれたりする。

で、次に、シーンを演じている人に「ひとこと」ずつ、その状況下でのセリフを言ってもらう。これにより、状況はより明確になる。そして、最後に正解発表となる。

このあたりで、この「演劇ワークショップ」の異質な点が、ようやく理解できてきた。と同時にびっくりしていたのだった・・・。

■「演劇のワークショップ」と「演劇ワークショップ」の違い

そもそも「演劇のワークショップ」というのは、劇団や演出家などが開催する。そこで行われるのは、その劇団や演出家の方法論の実践であり、参加者もまた、その劇団や演出家の演出法に直接触れることが目的となる。自分で見て面白いと思った劇団の、実際の稽古を体験できることが最大のメリット。それにより、スキルアップや他の役者との出会いが得られるものである。劇団側も新しい才能との出会いが得られ、明確なメリットがあるものである。

ところが、ここで行われているものは全く違う。「演劇ワークショップ」は「演劇」を利用した「なんか別のもの」である。講師の人も「演劇を使う」と何度も言っていた。

世田谷パブリックシアターでは、年間を通じ、小中学生や地域社会向けの演劇ワークショップを開催している。子供や地域の大人を対象とし、「演劇を使ったワークショップ」をやっているのである。それが「演劇ワークショップ」だ。これは子供向けには「教育」の一環と位置づけられるものだろう。地域コミュニティ向けでは、「参加型の演劇エンタテインメント」とでも言うものか。もちろん、地域社会の大人にとっての、コミュニケーション能力や表現能力のスキルアップという教育効果も期待できる。これはまさに「インプロ」がビジネスの現場で研修に用いられているのと同じだ。ビジネス研修での「ロールプレイイング」は、例えば営業なら「営業役」と「お客役」に分かれ、接客のシミュレーションを行い、経験者などが評価するものだが、まさにこれと同じだろう。コミュニケーションが苦手な人が、この演劇ワークショップを体験すれば、能力アップが充分期待できるわけだ。

普段行っている「演劇ワークショップ」は、地域社会の人々や子供たちを対象としており、講師の方はワークショップ自体を「楽しいイベント」にするのだろう。きっと盛り上げまくっていることだろう。だからこそ、「今回は面白くないですよ」という気を使ったコトバがでてきたのだ。だからこそ、今回のワークショップは無料なのだろう。「楽しいイベント」にすることが目的ではない。実験的なことをすることで、「盛り上がらない」こともありだと考えているのだ。

■8:00 エチュードのノウハウ

第2班の発表となった。前と同じに、メンバーが一つのシーンを作る。周りの20人がさまざまに解釈したあと、今度はそのシーンの5分前のシーンを作らせた。さらには、登場人物の中から二人を抜き出し、会話をさせる。別の二人の会話も。さらには、見ていた側に交代で参加させ、会話させたり、シーンを演じさせたり。

このあたりは、エチュードで芝居を作る劇団のノウハウが使われている。最近の劇団の中には、脚本家がきっちり台本を書いてくるのではなく、あるテーマで役者にエチュードを演じさせ、そこから展開して芝居にしていくものも少なくない。もちろん、エチュードというのは、与えられたテーマ・シチュエーションから、即興でどこまで芝居を広げられるかが重要であり、役者の資質が大きく関わるものだ。よって、どこの劇団でもできるものというわけではない。また、さらに重要なのは演出家などのツッコミであり、作られたシーンをどう展開させるか、何に注目するか、などですべてが決まるものである。今回の演劇ワークショップでも、進行役の方のツッコミがポイントとなっていた。周りのノリもそれで左右されるのだろう。

作られているシーンは「あのとき、あれをやれればよかったのに」という思いのものだ。同じような体験をした人や、反発する人などがキャストを交代で演じ、さまざまなセリフが生み出されていった。

第3班に移った。「駅のホームでの別れ話。カレがアタシを振った。にもかかわらず、今後はカラダだけの関係は続けたいとカレは言った。そのとき私はカレを線路に突き落としたかったができなかった。」というもの。無言で立ってるだけでは理解不能だったが、それぞれの立場の人がひとこと言うだけで、状況がとんでもないことが明らかに。とくにカレ役の男のひとことで稽古場に悲鳴が!

時間軸をずらしたものや、キャストを変更したものが演じられた。さらに、「この悲惨な状況を変えるためには、何をどう変えればいいでしょう」という問題も出された。人によっては、カレを説得する手段を提示したものもあったが、みんなの共感を呼んだのは、カレにチカンの濡れ衣をきせて逮捕してもらう、というものだった。・・・むごい!

これが芝居を作る場であれば、別の人物を登場させたり、とんでもないキャラクターに変えることでどんどん面白くできるだろう。しかし、ワークショップでは「作る」のが目的ではなく、みんなで考えることや、その変化を楽しむこと自体が目的。生まれ出るセリフもそうだし、「自分ならこうする」を考えたり、交代でやってみたり、が目的。さらにこの日は「実験」なので、もっともっと面白くなるかもしれないけど、ある程度やったら、次へと移っていった。芝居作りと違うのは、あまり発想を飛ばさない、長くしない、要素を変えない、ということか。

■8:30 「フォーラムシアター」で5分芝居を作る!

休憩をはさんで、8時半。5人ずつの5組に分かれ、今度は5分間の芝居を作ることに。「やりたかったのにできなかった」の状況を選び、それを説明する芝居を作るのだ。配役し、どのあたりから初めて、どこまで描くのかを決める。与えられた時間は30分。これまでの「シーン作り」で理解したとおり、その状況を伝えることが目的となる。進行役の方はあらかじめ、できあがったものをまた「展開する」と言っていた。キャストチェンジや状況のチェンジもするのだと。

この5分芝居を作ることを「フォーラムシアター」というらしい。その場で決められた仲間で芝居を作ることだ。・・・「シアターフォーラム」でなくて良かったと私は思った。この週刊SPは「シアターフォーラム」のサポートを受けて・・・。

しかし、「フォーラムシアター」というコトバがあり、今回の進行役の人はワークショップの「ファシリテータ」と呼ばれる人だという。コトバがあるというのは重要なことだ。

一般にビジネスでのファシリテータは「進行役」の意味。プロジェクトマネージャ的な扱いだ。リーダーの素養と、問題解決能力、聞き役的な要素が求められる。ビジネス講師なら「時給8万円のファシリテータに」なんてサイトもあるし・・・。

■9:00 「フォーラムシアター」各班発表!

さて、9時になり、A班の発表に移った。そこで問題が起きた。参加者が「フォーラムシアター」を理解しているため、やたらと完成度の高い芝居を作ってしまったのだ。つまり、紙に描かれたシーンの「状況を説明する」芝居にとどまらず、やたらと「見て面白いもの」を作ってしまったのだ。「●●をやりたかった」シーンの5分前から始めればいいのに、前日ぐらいからはじめ、途中で夢の中に飛んで、夢の中では実現してたりしながら、最後の冒頭に戻る、みたいな芝居に。別の班だと、4場ぐらいの転換のあるもの。作り込みすぎだろうに・・・。

進行役の方は、「面白いし、完成度高いけど、これだと展開のしようが・・・」と困惑してた。確かに、普通のワークショップでここまでのものが出るのだろうか、とも思った。

これが普通のワークショップなら、「素晴らしい!」とか言って、さまざまに展開するのだろうが、今回は「じゃ、次の班に」と進行した。

C班は「バレエの稽古を続け、発表会を前にいい役をもらったが、勉強に専念する時期だからと、母親に無理やり辞めさせられた」というもの。「続けたかった」がテーマなのか、「続けたいと言えなかった」のがテーマなのかが不明だった。で、これをどんどん展開した。キャストも代えたが、状況も変えた。母親に友達みんなで交渉させたり、「続けたい」と言ってしまったり。あまりにも大きく変化したため、母親役の子が困惑していた。

見てて思ったのは、「いまいちだな」ということ。そりゃ、芝居の人間からすれば、物足りないと感じるわけだ。というか、演劇的な意味での「面白くしよう」という概念がないため、展開と即興の面白さはあるけど、欲求不満が残ってしまうわけだ。これが芝居の稽古なら、もっと劇的な変化を与えるだろうし、非現実的であってもかまわないわけだから展開の幅が広がる。さらには、「伝わるのか」ももっとシビアに問われるだろう。もちろん、そこが「演劇を使ったワークショップ」のポイントでもあるのだ。そこまで行かずに、「考える過程」を重視しているのだから。

■「今の演劇」を反映するのが「演劇ワークショップ」

そもそも、演劇の稽古で得られるのは演技力や表現力であり、作る作業の中では発想力などが鍛えられる。イメージ貧困なやつは使えない。そして、ビジネスや教育への応用では、コミュニケーション能力や自己表現、プレゼンテーション能力として活用される。また、「即興」が注目されるのは、さまざまな場面での「対応」であり、「聞く」ことと「表現する」ことが基本となる。この時代に「使われる演劇」とは、そういった要素を持つものとなっている。大昔のような「書いてあるセリフを、素敵な声でしゃべる」ものはすでに「演劇」とは言わないのである。「今の演劇」を使うのが「演劇ワークショップ」なのだ。そこんとこは、ちょっと感動ものだった。

さらに言うなら、発声・カツゼツ・柔軟体操を稽古しているものは「演劇ワークショップ」では「演劇」とは呼ばないのだろう。「あめんぼあかいな」とか「せっしゃおやかたともうすは」とか言ってるものは、すでに「演劇」ではないということだ。素晴らしい!

この演劇ワークショップが行っているのは、エチュードベースなどで演劇を作っている劇団が普通にやっていることだ。シチュエーションを決めてワンシーンを演じてみて、そこを展開し、ふくらませていく。要素や状況をどんどん変える。実は、台本があっても同じだったりする。同じセリフでも、見方を変えたり、意味を変えたりすることは可能であり、どれを選択するのかを稽古で決めるのだ。発想力や、イメージ力が問われているのが、今の演劇なのだった。

■9:30 未来へ

9時半。とりあえず終了。その後、参加者に感想を聞いた。「始まったものがフォーラムシアターだと知っていたので、作りこんでしまった」という反省もあれば、「そんな名前は初めて聞いたので、何が目的なのかがわからなかった。子供たちを相手とした実際の現場で、どこへ導けばいいのかわからない」とも。導くもなにも、あの「展開」ってのは、誰でもできるってわけではないようにも思う。劇団なら演出家の資質が問われるところだ。どこに着目し、どっちへ展開すればいいのかってのは、技術が必要となるものだ。それが「ファシリテータ」の技術というやつだろう。「演劇ワークショップ」の「ファシリテータ養成講座」ってのは、ビッグビジネスになるんじゃなかろうか・・・。だって、マーケットは教育、ビジネス研修、地域コミュニティ講座、カルチャー講座、などなどと大きいし。新しい「参加型のエンタテインメント」として楽しむ人もいるだろうし。

すでにビジネス研修で応用されている「インプロ」は、「フォーラムシアター」のような用語が多数作られている。ゲーム系のものも、全部名づけられている。そこでポイントとなることも決められ、体系化されている。何もわからずに、インプロのゲームを稽古場でやってる劇団もあるが、だからこそ体系化の意義は大きい。指導者も増えている。「インプロ」は演劇とは別のジャンルになりそうな勢いである。同様に、この「演劇ワークショップ」も、演劇とは別のものとなる可能性がある。子供やビジネスや地域コミュニティを対象とし、もっと体系化され、洗練されることで、質のいい指導者が育つだろう。今回の「演劇ワークショップの未来」を推し量る実験の狙いはそこにあるのだろう。「仲間が欲しい」と進行役の方が最後に語っていた。関心を持った人はぜひお知らせください、と。

これが教育の現場などで利用されることを期待する。「コミュニケーション能力」の向上というだけではなく、例えば「いじめ」をテーマにフォーラムシアターを作ってみることで、「考える能力」「相対化能力」「相手のことを思いやる能力」などが醸成されるだろう。教育は、「国を愛する」とか言ってるヒマがあるなら、こういうものにもっと目を向けてもらいたいと思うが、どうだろうか・・・。

(2006.5.29)


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