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にんじんボーン特集 (1)

1999.11.19
宮本勝行インタビュー

by 一寸小丸

約二年ぶりぐらいで公演を行うにんじんボーンを取材した。にんじんボーンはFSTAGEやインターネットのえんげきのぺーじにもファンは多く、少ない動員のわりには評判の高い劇団だ。主宰の宮本勝行さんは、にんじんボーンの前身の「TEAM僕らの調査局」の頃から素晴らしい作品を輩出してきた。「小津のまほうつかい」や「東京コンバット」は伝説の舞台として、90年代を代表する作品と言っても過言ではないだろう。ほんと、動員が少ないのが不思議だよ。

宮本さんは、97年に映画を撮っていた。もう、芝居はやめちゃったのかと心配になった。が、98年2月に一回だけ復活した。そしてまた、長い間が開いてしまった・・・。なんか、じれったい気がしてならない。すごい才能がそこにあるのにぃ。

なんて思っていたら、今回の公演の告知で、シアターガイドがインタビューしていた。珍しいことだ。めったに情報誌に取り上げられることがないのだから。こりゃあ、この機会にがんがんプッシュして、宮本さんを芝居以外できない身体にしてしまうしかない、とか思ってしまった。だもんだから、使命感に燃えて取材に行って来ましたよ。個人的には村上さんとか山口さんにも話しを伺いたかったけど、なんか長くなっちゃって、今回は宮本さんだけになった。たぶん、次回はもっと聞けるだろうな。

このインタビューは、荻窪にあるにんじんボーンが借りている稽古場にて行われた。一緒にえんげきのぺーじの西角さんも。9時過ぎまで続いた稽古のあと、宮本さんと向かい合う形ではじめられた。(1999.11.19. 21:15〜22:15)


宮本さん ダメ出し中

小丸:
今回、シアターガイド12月号に宮本さんのインタビューが出てて珍しいなって思ったんですけど、いままで情報誌とかに載ることってあったんですか?
宮本:
僕ね、情報誌みたいのって買わないんで、わかんないんですけど
小丸:
自分たちが出てるかどうか知らないんですか
宮本:
ええ。
小丸:
今回、リキ入れて情宣したとかそういうのは
宮本:
いえ、全然。なんか、「僕らの調査局」(にんじんボーンの前身)の時代を観ていた人がその後劇団作って、そんで動員を集めているとかってんで、今回、話しが来たみたいですね。
小丸:
ああ、なんかそんなことが書いてあったですね。
西角:
彼らの紹介というか、影響を受けた、とかってアレみたいです。
小丸:
そんなこと書いてありましたけど、ほんとなんですか。
宮本:
なんか、猫さん(猫のホテル)とかアサスパさん(阿佐ヶ谷スパイダース)とかが言ったみたいですね。
西角:
にんじんボーンとしての公演は、ずいぶん間が開いてますよね
宮本:
ええ。二年ぶりぐらいになっちゃうんですよね。
小丸:
映画、やってましたからねえ。
宮本:
やってました。もう、とことんやってましたからねえ。
小丸:
僕、ヴァンテ見に行きましたよ。
宮本:
あ、どうもありがとうございます。すみません。
小丸:
すみませんってゆうか、もう、帰ってこないのかと思って心配しましたよ。
宮本:
ああああ、ねえ。
小丸:
僕らの調査局の人たちとはもう、やらないんですか。
宮本:
そうですね。やらないですね僕はもう。
西角:
今回、芝居のテーマというか、僕調の頃のことが舞台になってますが、これは「区切り」とでもいうのがあるんですか。
宮本:
いや、特にそういうことじゃないです。ただ、ホントに、飼ってた猫が亡くなっちゃって、村上と、(この猫が)来たのはいつ頃だったかなあ、って話してて、「小津」を書いてた頃で、ちょうど、抜けたかったころだなあって思い出して、で、その頃のことを自然に書いてみようかってなって、だから、ほとんどみんな実在する人物が登場するんですよ。
西角:
当時のメンバーがみんな出てるんですよね
宮本:
そうそう。だから、当時のメンバーが見たらキツイなって(笑)
西角:
来ないでしょう(笑)
宮本:
来ない来ない、ぜったい来ない
小丸:
でも、あれですよね。僕調は解散したんだけど、その前に僕調から宮本さんが抜けたんですよね。
宮本:
そうそう。
小丸:
すごい話しですよね。宮本さん(主宰)が抜けて、それで1回ぐらい公演やってるんですもんねぇ。
小丸:
映画はどうなんですか。やらないんですか。
宮本:
やらないです。もう、絶対やらないです。お金もかかったし、才能がないのもわかりましたし。もう、絶対やらないです。

ダメ出し中 ダメ出し中

小丸:
僕らの調査局って、芝居のパターンが三つぐらいあって、「缶みかんシリーズ」と「小津」とあと、「東京コンバット」みたいのと。
宮本:
ええ。
小丸:
私は「東京コンバット」がすごく好きだったんですけど、あれは他のと全然違う芝居でしたけど、で、宮本さんは、どれがやりたいんですか。
宮本:
僕は芝居がやりたかったですね。
小丸:
なるほど(笑)
西角:
それは、コントじゃなくてという意味ですか
宮本:
いや、なんていうか、喜劇がやりたかったんですけど。でも、「笑い」っていうとみんなコントに行っちゃうってのがあって、僕の中ではちょっと嫌だったですね。
小丸:
そういうのありますねえ。
宮本:
だから、「小津」はコメディですし、「東京コンバット」もめちゃくちゃコメディですしね。その意味で、三つとも同じって自分の中では考えてました。
小丸:
同じですか。小津も東京コンバットも同じ!
宮本:
全部同じですね。作品としては違いますけど、「笑い」としては同じで、こういう笑い、こういう笑いという違いで、まあ、笑いを三つに分けたとしたら違う笑いというのがあるだけで、
小丸:
なるほど。
宮本:
でもまあ、コントの方が見やすいってのはあるんでしょうね。ちょこっちょこってやれるからなあ。
小丸:
「東京コンバット」はニフティでもすごく評価されたんですよ。93年のシアターフォーラム演劇ベストテンで3位に入りました。
宮本:
そうなんですか。
小丸:
観た人はみんな高得点をいれたんですけど、なんせ観た絶対数が少ないもんだから3位でした。
宮本:
そうでしょうね。
小丸:
93年の「東京コンバット」って初演じゃなかったんですね、シアターガイドにちょっと書いてありましたけど。
宮本:
そうです。最初は初台のSKスタジオで89年にやったんです。それで再演が駅前劇場だったんです。
小丸:
あの戦車は初演のときもあったんですか。
宮本:
いえ。初演はなかったですね。初演では原っぱにしようというのがあって、駅前では学校にしようってのがあったんです。
小丸:
新聞敷いたのは
宮本:
あれは前からありました。
小丸:
西角さんは「東京コンバット」は
西角:
私はにんじんボーンになってからです。
小丸:
宮本さんは談志が好きなんですよねえ。
宮本:
好きですよ僕は。「ダンシ」なんて言っちゃだめですよ。
西角:
談志師匠
宮本:
談志師匠ですよ。大好きです。練馬の武蔵関に引っ越したとき、「田舎に来ちゃったなあ」ってへこんだんですけど、近くに談志師匠の稽古場があったんですよ。歩いて100歩ぐらいのとこに。
小丸:
稽古場、ですか。
宮本:
お弟子さんとかとの事務所があったんです。それで感動しましてね。田舎、なんですけど談志師匠がいたんで、嬉しかったですねえ。
西角:
(談志師匠に)会いましたか
宮本:
会いましたよ、よくスーパーとかで。
西角:
落語一般ってわけじゃなくて、談志師匠が好きなんですか
宮本:
いや、落語が好きなんですけど、落語家の中では談志師匠が一番好きなんです。とにかくもう、うまいしね。ほんとうまいんですよ。
西角:
実際に寄席とかにも行かれるんですか。
宮本:
いまはねえ、ここんとこちょっと行けないんですけど。村上は志らくとか行ってるみたいですけど。
西角:
舞台とか映画とか寄席とかありますけど、割合的にはどんな感じですか。
宮本:
舞台はねえ、いまは見ませんねえ。昔は見たんですけどね。自分のスタイルが決まってないときは観てました。僕調やってるころまでですね。まだスタイルが決まってませんでしたから。でも、だんだんスタイルが決まってきて、「このスタイルで行こう」ってのが見えてくると、そうすると見なくなっちゃいますねえ。勉強にならないし。興味がなくなっちゃうというか、「いいなあ」って思わなくなっちゃいますから。役者さんを見に行くというのはありますけどね。
西角:
昔見たうちで、影響を受けたというのはありますか。
宮本:
舞台からの影響というのはほとんどありませんねえ。テレビのバラエティとか落語とか映画とか本とかの影響はありますけど。舞台を見て影響されたというのは、ないですねえ。
小丸:
確かに、にんじんボーンの芝居ってのは、ほかと似てないというか、どっかの芝居の影響ってのを感じるものはないっていうか、まあ、他にないですよね。
西角:
まあ、確かにないですね。
小丸:
今日、稽古を見てて思いましたもの。微妙な間(ま)を要求しまくってるなって。
宮本:
まあねえ。間は大事にしてもらわないと、ほんと困るんですよ。間だけは。どうも僕は、芝居の間と日常の間の間の間(あいだのま)が欲しいんですね。だから、芝居の間ってあるじゃないですか(やたらテンポの速いやつのことだろう)。あれもちょっと気持ち悪いんですけど、日常の間ってのも長すぎちゃったりするんでだるいなって思うんで、その間の間が欲しいんですよね。それをやって欲しいんですけど。
小丸:
だから、その間を開けろっていっても役者はわかんなくて、気持ちも入れてごく自然に開く人と、それができない役者とがいるんで
宮本:
ほんと間だけは・・・よその芝居見ると間もなにもなくやってるのあるから、もうかんべんしてくれって感じになるんです。
小丸:
あとね、間も微妙なんですけど、それよりも見てて思ったのが、芝居がみんな中途半端なんですよね。
宮本:
ちょ、ちょっとまってくださいよ。
小丸:
いやほんとに。中途半端っていうか、99の次は100って断言する芝居がありますけど、つまり、「99の次は100である」ってきっぱり言い切りますよね。そういう芝居って多いというか、まあ、99の次は100ですからいいんですけど。でも、にんじんボーンの芝居ってのは、99の次は100・・・って、なんかその後に続きそうなんですよ。なんかありそうなんですよ。そんなことを要求はしてらっしゃらないんですか。
宮本:
それはまあ、言われるんですけどね、自分の中では、そんなに要求ってのは
小丸:
山口さんの芝居とか見てると、なんか、その場だけで会話してないってゆうか、気持ちは別のとこにあるってゆうか、
宮本:
ええまあ、
小丸:
なんか、あるんですよね。そこがうまいってゆうか
宮本:
普段言ってるコトバって、いろいろ省略しますけど、そういうのも言ってしまわないと気持ち悪いっていうか、そういうのはありますね。あなたが好きだ、っていうのも、なんで好きなのか、こうこうこういうわけで好きだってのを徹底して言わないと気が済まない。それで、だから好きなんだよって言うんですけど。
小丸:
人間ってのは、実際に会話しているときに、いろんなこと考えてますよね。何か別のことが気になってて、それでもこっちに向かって会話しているんですけど。芝居ってあんまりそれをやらなくて、会話として必要なことだけセリフに書かれるってのもあるんですけど。でも、山口さんの芝居とか見てると、言ってることとは別のところになんかがありそうなのが伝わってきて、何があるんだろうってすごく気になります。まあ、さっきは全体の一部の稽古を見ただけなので、なんなのかがわからないんですけど。
宮本:
全体を見るとですね、面白いですよ。(笑)
小丸:
いやもう、全体を見ると、そういうのがわかってくるんだろうなあって。
西角:
間もあるんですけど、独特の言い方っていうか、イントネーションもあると思うんですけど、それは指示しているんですか。
宮本:
いや、そんなには。コトバ選びはやりますけど、単語も選びますけど、あと、語尾の上げ下げとか、おっきな音で入ってこられるとちょっと待てよ、ってのはありますけど。音もやっぱり大切だから。
西角:
日常会話ってのですけど、ことばを途中で切るのの切り方とか、いろいろありますけど、そういうのは意識的に変えているんですか。
宮本:
いや、意識的にはないです。
西角:
舞台向けに変えてるってのはないですか。
宮本:
いや、全然ないです。
西角:
んじゃあ、わりと日常の喋っているコトバを
宮本:
そうですね。
小丸:
なんていうか、セリフの入り方も中途半端っていうか、上からどーんじゃなくて、すっと入ってきて、そのまま抜けてくみたいな終わり方で、こーゆー方法論ってのはたぶんないと思うんですけど、これってなんなんでしょうかねえ。
西角:
さあああ?
小丸:
うーん。
西角:
さっき、日常と芝居の中間の間ということをおっしゃってて、すごく印象に残ったんですけど、確かに日常的な単なる会話でも客に印象づけることができてるように思うんですけど、その正体がなんなのかはわからないんですけど、なんだろうこれは、ってのがあって、これがたぶん、にんじんボーンが他の劇団と違うとこだと思うんですけど。
宮本:
はあ。
西角:
芝居のストーリーとか別にして、純粋に会話だけで楽しめるってのが特徴だよなって思うんですけど。
小丸:
一個一個の会話だけで楽しめる、ってのが私なんかあるんですけど、でも、そこを楽しめない客はもう、だめなのかなあって気もしますけどね。楽しめないかもなあって。意識が別のとこにある会話とか、中途半端ってコトバは悪いんですけど、どっちつかずの状態の会話ってのが、ワタシは楽しいんですけど、そこを楽しめない客ってのもいるだろうし、そうすると、きついのかなあって思います。そんでもって、その芝居を役者に要求するのって、かなり高度な要求だって気がするんですけど。
宮本:
そうなんですか。
小丸:
いや、ごく普通なんですけど、人間がそういうもんなんですから。
宮本:
そうですよね。
小丸:
日常において、いろんなとこに意識が行きながら会話してるんですけど、それを再現するのっては、けっこう難しいとは思うんですよ。
宮本:
まあ、そうでしょうか。
小丸:
昔っからやってる山口さんとかはできちゃうんでしょうけど。今回、新しい役者さんが多いですよね。
宮本:
ええ。新しい方が多いんです。もう、一人、リーチかかっちゃってて大変です
小丸:
もしかして、私の知ってる方では(笑)
宮本:
そうです。今日、いないんですけど、たぶんお知り合いの方かと。
小丸:
聞いてます。ひえーぃ。(笑)

山口雅義

西角:
演出的に、他の方の影響とかってのは
宮本:
ないですね。完全にオリジナルだと思います。
西角:
オリジナルっていうか、我が道ってんですか
宮本:
そうです。ほんとに影響ないです。
西角:
昔、加藤健一養成所にいらっしゃったわけですよね。
宮本:
そうです。私の先生になるのは大杉祐っていう演出家さんで、あの人にだいたいの芝居の作り方を教わったんですけど。
西角:
何年ぐらい。
宮本:
3年間です。芝居の組み立て方とかです。一般的な基礎を教わっただけで、そっから先はオリジナルですよね。
小丸:
加藤健一には何もおそわってないと。
宮本:
そうですね。あんなやつには、とか言っちゃいけないんですけど。
西角:
大杉さんに、ということですね。
宮本:
そうです。それまで芝居のことをなんにも知らなかったんで。
小丸:
それまで何をやってたんですか。
宮本:
それまでは人形劇です。NHKのほうで。舞台ってのは始めてだったんです。
西角:
人形劇の何をやってたんですか。ホンとか演出とか。
宮本:
いや、人形遣いの方です。
西角:
人形劇もあれですか。演出とかってあるんですか。
宮本:
ありますよ。こういうふうにしてくれ、とか。セリフはプロの声優さんがいて、それに合わせるんですけど。動物の動きとかってみんな違うわけで。
西角:
それは長くやってたんですか。
宮本:
そうですね。19から始めて、養成所入ってからもやってて、25ぐらいまでか。
西角:
今日の稽古は、見せていただいたんですけど、かなり厳しい・・・
宮本:
ええまあ。でも、とことん遊ぶんですけどね。ほんと、ずっと遊んでたんですよ。午後1時ぐらいから始めて、ずっと遊んでて、で最後に短期集中で、ぎゅって稽古するんです。そこのときに入ってらっしゃったんで。その30分前まで「どびんちゃびん」で遊んでたんですけど。
西角:
その遊びは作品とは全く関係ないんですか。
宮本:
ええ。リズムをまず作るという・・・。各役者全部リズムが違うんで、それをね合わせるってほどじゃないんですけど。
西角:
台本からは離れてですか。
宮本:
全然関係ないです。で、作るときには二時間集中して、ガッと行くわけです。そのガッて作るときに乗ってこれないと、ダメなんですけど。
西角:
その遊びには体系とかはないんですか。メニュー化されたものとか。
宮本:
ないです。いろんなのをやりますから。10円落としやったりとか、いろいろですから。もう、徹底的に遊ばないとだめなんです。
西角:
それは、さっきの厳しい稽古の反動っていうか。
宮本:
アメとムチですか(笑)。そーでもないです。っていうか、全然ないんですけど。やっぱりねえ、あんまり稽古やっても疲れちゃうんで僕も。あと、いろんな役者がいて、バラバラで、わかんないんで。
西角:
コミュニケーションですかね。
宮本:
ええ。そういうとこがあるんです。
小丸:
ホンはやっぱあてがきですか。
宮本:
ええまあねえ。
西角:
今回はオーディションですよね、役者は。
宮本:
今回はそうですね。ですから、新しい人が多いですよ。
西角:
映画やってたときの人脈とかもあるんですか。
宮本:
それはあります。誰か、いい役者がいないかって(常に)ありますから。この子は文学座の人なんですよ。
小丸:
えっ、それはすごい。缶みかんの頃の山口さんのネタを見せたいですねえ。
宮本:
文学座で、小劇場を見たことがない人なんですよ。だから、そういう人もいると面白いですよねえ。
西角:
それはやっぱ知り合いとか。
宮本:
いや。まあ、知り合いの知り合いの知り合いとか。僕、あまり舞台を見て、それで決めるってなくて、会って、波長が合うなあってのがあると、お願いしちゃうんです。たまーに、ハズレもあるんです。波長が合ったのに芝居はねえ、とか。
小丸:
宮本さんはホンは書かないんですか。
宮本:
いや。来年の4月は「い・い・ひ・と」の再演ですけど、7月は新作をやります。あと、冬にもあるかもしれません。それで、再来年は三鷹でやります。「やらないか」って来たんで、「いいですよ」って。
小丸:
宮本さんの書くのと、村上さんの書くのは、かなり違いますよね。
宮本:
違いますね。
小丸:
村上さんのはかなり、ソフトだなあって感じます。
宮本:
僕の方がソフトですよ。
小丸:
えっ、そうですか。
宮本:
僕の方が全然ソフトですよ。
西角:
宮本さんのホンだと、登場する人がわりと破綻しているというか、おかしい人が多いですよね。
宮本:
ああ。まあ、ありますねえ。でも、僕のホンは、僕が実際に会った人物を登場させているんで、実在の人物ですよ。が、多いですよ。
西角:
でも、「悪意」みたいのを感じますよね。イジメたりとか。
宮本:
ええ。そうですね。
西角:
コトバの暴力みたいな。
宮本:
それは出ますねえ。
西角:
ストレートに出るんだけど、ソフトっていうか、そんなにはきつくないみたいな。
宮本:
ああ。僕は茨城の出身で、コトバがすごく汚いんですよ。語尾に「バカ、百姓」ってのが必ずつくんですよ。これはホントで。だから、「何言ってんだよ、ばーか。うっせぇ百姓、ばーか」って。それを当ててるんで、その流れでね。
小丸:
でも、悪意は快感なんですけどねぇ。
西角:
悪意が出てるんですけど、見終わった後で、おだやかな気持ちになれるという、まあ個人的な印象なんですけど。
宮本:
それはまあ。あんなにどぎついことを言ってるのに、おだやかとか言われると、みたいのはありますけど。
西角:
いい意味でですけど。
小丸:
日常でも、やさしい世界の中にも悪意はあるわけで、
西角:
バランスがいいんでしょうね。どっちかに寄っちゃうと、いい話しにはならないわけで、
宮本:
そうでしょうねえ。
西角:
露悪的な話しもできるっていうか。
小丸:
バランス取ろうという意識は
宮本:
ないですねえ。意識しちゃうとできないでしょうね。考えちゃうと。

稽古中 ダメ出し中

小丸:
今度、落語を舞台にした芝居をやってくださいよ。
宮本:
いや、やったんですよ。調査局の僕の最後の芝居で「キャプラ」っていう。
小丸:
それは見てないなあ。
宮本:
調査局を抜けるときの最後のやつでね。見てないですか。
小丸:
まさか、抜けるとは思わないですから。
宮本:
それは、前座の若手がお金がないのでウソの葬式を出して、香典を儲けようというのが、シャレで通じるかな、というお芝居でした。結局、シャレにならなかったというのを、落語の世界で描いたんです。
小丸:
にんじんボーンのテイストが僕調の時の宮本さんのテイストとつながっているものは多いと思うんですけど、それでも僕調の作品をやるのはダメですか。
宮本:
ちょっとダメでしょうねえ。やっぱ役者がねえ。あのときの役者がベストだと思いますから。
西角:
やっぱそういう思いはありますか。
宮本:
やっぱ、あのときにいた役者だからできたという思いがありますから。変わっちゃうともう、
小丸:
みたいなあ。
宮本:
まあ、やれないことはないんだろうけど、でも、自分でやっててきっとつまんないだろうなって思います。
小丸:
そりゃあきっと、見てる側も比べたりして、同じ思いかもしれません。
小丸:
ナイロンとか大人計画はご覧になりませんか。
宮本:
最近は見てないですねえ。
西角:
結構、共通するとこはありますよね。見た目は違いますけど、
宮本:
昔は見てましたけど、
小丸:
昔は大人計画とかぐちゃぐちゃでしたし、ナイロンはナンセンスなことやってましたけど、最近はけっこうにんじんボーン的な世界を描いているんですよ。両方とも。ナイロンもストーリーとか入ってきてますしね。それを「ぬるい地獄」系って呼んでるんですけど。平和を描いているようで、実は地獄っていう。これって、にんじんボーンが昔っからやってたことのような気がするんですけどね。一見、平和でのん気なんですけど、破綻した人物がいて、壊れてて、追い詰められていて、みたいな。
西角:
宮本さんは芝居の影響はないと言ってましたが、映画の影響とかはないんですか。
宮本:
僕は映画がすごく好きで、いっぱい見てますけど。僕はサム・ペキンパーという監督が好きで、バイオレンスの。だから、映画と作るときは、笑いなしのバイオレンスにしたわけです。
小丸:
あれが、バイオレンスですか・・・まあ。
宮本:
したら、笑えない作品になったわけで。
西角:
それでもそっちでは影響があったわけですね。
宮本:
映画は自分の仕事じゃないなあ、という思いはあったんで、モノマネでもいいってのがあって撮りました。芝居となると、モノマネできませんからね。
西角:
宮本さんが第一人者ですからね。
宮本:
ええ。
西角:
舞台ではその嗜好は出ないんですか。
宮本:
出ないですね。あの、ドンパチが好きなんですけど、舞台じゃできないんですよね。
西角:
うそっぽくなっちゃいますよね。
宮本:
そしたらねえ、ダメだなあって思うんで。映画だとカット割りでかっこいいなあって思えるものができるんですけど、舞台はカット割りができないんで、一幕一景の芝居とかになっちゃうんです。よく舞台とかって、暗転して次が海の中とかありますけど、どう考えたっておかしいんで、ファンタジー系の芝居だと、いきなり「さあ、火星に着いたぞ」とかありますけど、うそだよーとか思っちゃうんで。
小丸:
アクションってあるけど、銃自体にリアリティないですからね。
西角:
銃が出てきた時点で、ウソっぽいですよね
宮本:
そうなんですよ。
小丸:
でも、その意味ですごかったのが、「東京コンバット」なんですよ。
宮本:
あれはねー、演出は、とりあえず怒鳴れ、あと、かっこ良く、それだけでしたよ。
西角:
宮本さんの言う「かっこいい」というのは、どんなことなんですか。
宮本:
映画だと、かっこいい死に方、ですけど。舞台だとなんでしょう。いい芝居すると、いい芝居がかっこいいじゃないですか。舞台だとそれになっちゃうのかな。
西角:
そうですか。
宮本:
舞台だと、わざとかっこ良く見せるじゃないですか、なんか、胸張って、ポーズ決めて、かっこ悪いのに。だけど、なにげない芝居とかの方がかっこよくて、タバコ吸って、ケムリ吐いた後に、ぼそっと言ったせりふが、かっこいいなあって思いますよね、うまいなあって。それがやっぱかっこいいんですよ。クサイ役者じゃなくて、うまい役者です。
小丸:
でも、小劇場の決め決めの芝居じゃなくて、宮本さんがかっこいいと思ってるような芝居ができる人って、そんなにはいないですよねえ。
西角:
いわゆる、小劇場のうまいといわれている役者を集めて芝居をするってのは、宮本さんはやらないんですか。
宮本:
いや、それは言われればやりたいですよね。いろんな役者をいじってみたいですもんね。
小丸:
でも、うまいと言われている役者がうまいかどうか。
宮本:
難しいでしょうねえ。
小丸:
っていうか、ほんとうにうまいかどうかが全部わかってしまうでしょうけど。
西角:
今回のホンは村上さんが書いてますが、さっきの稽古で、何ヶ所か宮本さんが口立てで加えてましたね。
宮本:
そうですね。なんか、演出する上で、なんか、会話が足りないっていうか、やっぱあるんで、気になったとこだけ足す、という。
西角:
それはあれですか。第1段階で、ホンは完成してるんですか。
宮本:
ええ。決定稿をもらってからスタートしてます。それで、ここをこうしようって相談しながら作っていくんで。
西角:
実際の稽古でホンを作るっていうのは
宮本:
今回はないです。7景まであるんですけど、景3だけは僕が書いたのかな。あとは村上が全部書いてて。
西角:
オーディションの時点では、ホンはあったんですか。
宮本:
それはなかったですね。オーディションでは、てきとーにその場で書いて、これしゃべって、みたいなんで。
小丸:
ゲネやらないってのはホントですか。
宮本:
やらないです。コントやってたんで、ハプニングが面白いってのがあって、あんまり固めちゃうと、事故とかを無視されたりするんで、それはつまらないなって思って。稽古場の流れでやったほうが面白いんです。稽古場は稽古場だからってのもありますが、ハプニングとかにつっこむんです。それが、本番だから、劇場だから、って言ってなくなるのはつまらない。何かが倒れても、それを無視して芝居やられるのが怖いって思って。ゲネやらないで、そのまま行っちゃうという。
小丸:
それでスタッフは大丈夫なんですか。
宮本:
大丈夫ですよ。もう、僕調の頃からのスタッフですんで。
小丸:
倉本さんはオペをやってるんですか。
宮本:
いや、もうえらくなっちゃったんで、オペはやんないですけど。
西角:
そうすると、アドリブがあるように見えるんですけど、あれはハプニングに対するものぐらいなんですか。
宮本:
そうですね。アドリブってのは100%ないです。
西角:
ハプニングをリカバーするので入るぐらいですか。
宮本:
そうです。ゲネってね、お客もいないのに、役者使って昼やって、夜本番やってって、かわいそうだなって。
小丸:
裏方が大丈夫なら、それはそれでいいでしょうね。
宮本:
役者さんがね、それじゃ困るとか言ったとするなら、それじゃ出ないでくれってぐらいです。
西角:
でも、そうすると、初日と楽日では変わったりするんじゃないですか。
宮本:
初日が一番面白いんじゃないですか。
西角:
稽古のペースはどんな感じですか。
宮本:
毎日やってまして、一景三日のペースで作ってます。その景に出ない人は休み、って感じで、今日が最後の景で、明日からは通しに入る予定で。
小丸:
宮本さんは今回出ないんですか。
宮本:
そのつもりだったんですけど。僕、身体の調子が悪くて、すぐウンチしたくなっちゃうんですよ。よくわかんないんですけど。すごくみんなに迷惑かけるんで、今回出ないつもりだったんですけど、まあ、どうなるかわかりません。もしかすると出るかもしれません。
稽古風景も面白かったので、その様子もレポートにまとめる。↓

■にんじんボーン稽古場レポート
■第五回公演「オヅ君が来た日」

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