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MODE稽古場訪問
2000年10月公演「秋のエチュード」@スズナリ

「じゃ、セックスの話しはあとにしようか。」「売春のやつ先にやるからね。」「キミはロリコン専門のウリをやってるって設定にして」「だから、伏字はあるけど、他はきちんと言うの」「オナニーの前にパンツ脱ぐの忘れたろ、台本に書いてあるよ」・・・稽古が始まるなり、なんだかとんでもないことになっている・・・。


松本修氏の一人劇団であるMODEは1989年に設立された。なんでも、その設立の直前に作った芝居がこの「秋のエチュード」という芝居だそうで、ある意味でMODEを孵化させた記念碑的な作品である。それが12年を経て、全く新たなキャストで蘇ろうとしている。それも、共同演出にイデビアン・クルーの井手茂太氏と、指輪ホテルの羊屋白玉氏を迎えた、異種格闘技として蘇るという・・・。

2000年9月25日(月)の午後4時にMODEのアトリエを訪問した。有楽町線小竹向原にあるこのアトリエは、かつては上海劇場のアトリエであり、いくつかの劇団により公演も行われていた劇場であった。現在も時々、公演が行われている。ちょっと懐かしい思いに捕らわれていたら、冒頭のような会話が炸裂してきたのであった。MODEの稽古場でこのようなフレーズが飛び交うとは思ってもいなかった。だってMODEって・・・。

「MODEはオトナに観てもらいたい。MODEはコドモには観てもらいたくない。」というのは、MODEの公演チラシに毎回書いてあるキャッチコピーだ。オトナ向けのおしゃれな会話劇が多い。時として設定はエッチだったりするけど、まるで翻訳劇のような、チェーホフとかベケットとかの芝居のような「ハイソ」なものが提示されていた。「ハイソ」ってのはまあ、私が勝手に感じてるだけかもしれませんけど。

役者さんも、90年代前半はかなり固定しており、久保酎吉、有薗芳記、小嶋尚樹、梅沢昌代、伊東景衣子、黒木美奈子、などなど、大人のおぢさん、おねーさんが務めていた。なもんだから、冒頭のようなフレーズが飛び交い、そこにいる役者さんたちも若い子がいっぱいいるという状況は、かなり意表をつかれた感じで、とまどってしまうものだった。そこいらへんを松本さんに直接聞いてみた。つまり、「今回のはどういうことですか」と・・・。

「最近は、世田谷パブリックシアターの芸術監督の佐藤信さんに誘われて、あそこで芝居を作ったり、ワークショップをやったりしてるんですけど、MODEの創作方法の原点であるところの『違った才能が集まりワークショップを重ね、新しいアンサンブルを作り出す』を徹底してやってみたわけです。」ということだ。考えてみれば、役者がある程度固定していた時期はあったが、MODEはずっと松本修氏の一人劇団であり、毎回、様々な才能と出会い、コラボレーションを生み出してきたわけである。常に変わりつづけていたとも言えるわけだ。それにしても、なぜ井手さんであり、白玉さんなんだろう。


構成・演出の松本修氏

「やってることは同じなんですよ。井手さんを始めてみたとき、とっても面白かったんですけど、MODEでも役者が舞台をぐるぐる歩き回るだけとかやってましたし、共通するものを感じました。で、過去のビデオとかを取り寄せまして、それで神田うのを使ったアリスを世田谷パブリックシアターでやるとき、井手さんと始めて一緒に仕事したわけですけど、とてもよかったわけです。羊屋さんもそうです。MODEでも、エッチなネタは多いわけで、下着姿とか、生着替えとかやってました。」

まあ、言われてみると確かに動きのあるシーンが思う浮かぶし、エッチなイメージもかなりある。共通項は少なくない。それにしても・・・。

だいたい、スズナリって劇場とMODEのイメージが合わない。「スズナリは昔やってるんですよ。旗揚げのころ。確かに久しぶりです。かなり久しぶりです。」

そうは言っても、スズナリで羊屋白玉となると、かなりの猥雑さがイメージできてしまう。チラシをみると、これまたいままでのMODEのイメージからはかけはなれたインパクトあるものになっている。若いおねーちゃんが下着姿で笑っているなんて・・・。何かが起きるんじゃないかって期待してしまう。

稽古風景

テキストとして採用するのは、ゴダールのシナリオだ。思わず「古いんじゃないのか」と心配してしまう。「いや、全然そんなことなくて、今に通用するものが多いんです。男と女のあれやこれやですから。」とか。実際に稽古が始まると、ゴダールだけを使っているわけじゃなくて、援助交際やってるジョシコーセーとかが登場して、ウリを語ったりしている。まさにエチュードだ。そこに挿入されるゴダールは全然違和感がない。

だんだん、これまでのMODEとは違うものが生まれてくる期待感が私の側に生まれてきた。かと言って、何がどうなるのかは、松本さんにもわからないようだ。白玉さんは、前日まで公演だったとかで、本格的な参加は明日以降だという。「白玉さんのパート」は三つぐらいらしいが、どんなものが出てくるのかはわからない。また、松本さんのパートとしてゴダールの断片を使って作っている部分も、キャスティングはまだまだ未定のようで、二人芝居、三人芝居を、キャストを交換してあれこれ試している。本番までにどんどん変わる予定だし、「たぶん、公演中も変わると思います」だそうだ。


稽古風景

ちょっとイジワルな質問をしてみた。「MODEの芝居は、おしゃれな感じだけで、物足りない点があるという意見も聞きますが。」とか。松本さん曰く「まあ、エッチなものは大好きですけど、あまり生っぽいのは苦手かな。別に意識してセーブしてるわけじゃないんですけどね。」・・・どうやら、平気みたいである。そうなると、羊屋さんが野放しになる可能性はあるわけで・・・楽しみになってきたぞ。


稽古風景

さらに聞いてみた。「最近、面白い芝居ってありますか。気になる劇団とか?」。これの答えによっちゃ、私の期待はしぼむわけなのだが・・・。

曰く、「それを聞かれると困るんだよなあ。正直、ないんですよ。ほら、かつての第三エロチカとか青年団とか、すごく刺激的だったでしょう。そういうのが、今の若手の劇団に感じないんですよ。逆に聞きたいぐらいで、今、どこが面白いんでしょうか。」

・・・いいじゃないですかあ。私も同じ思いだ。だもんだから乗ってしまった。「いわゆる若手劇団で、面白いって言われているとこあるんですけど、彼らが1000、2000って動員を伸ばしていくという状況が生まれるとは思えないんですよ。結局、キャラメルとか発砲とかが人気を集めているという状況は全然変わっていない。それで、宮沢さんが休み、ピスタチオが解散し、というようなことが起きてきている。これってどうなんでしょうか。」とか尋ねてしまった。松本さんは考え込みながら、「たぶん、細分化していくということなんでしょうね。若手がマニアックなものを表現しすぎているわけで、で、マニアックな観客を動員しているけど、それじゃ広がっていかない。趣味的なものに走りすぎているんでしょう。」

話していて、なんか、煮詰まってしまった。が、そこでMODEが井手さんとコラボするという外向きのことを始めた点が重要になる。松本さんは勢いこんで言い出した。「そうそう、ダンスが面白いんですよ。今、ダンスが面白い。イデビアンクルーとか、あと、Hアールカオスとか。カオスは井手君は苦手とか言ってたけど。あと、海外ではピナ・バウシュとかが好きです。」それでコラボしちゃう点はすごいぞ。

チラシの印象や断片的な情報から、今回の企画はそこそこ面白そうだとは思っていたけど、知れば知るほど期待は高まっていく感じ。これ、めちゃめちゃ面白い企画だよ。でもって、一旦インタビューをやめて、18時から稽古を見学させてもらった。この稽古、延々23時まで続いたのだけど、ほんと、楽しかったよー。

そこで始まったのが、本文の冒頭のやつだ。「伏字もの」とか、かなりやばいっす。あんなことやこんなことをしている人々がいっぱい登場します。男と女の会話バトルです。あるいはオンナとオンナの罵り合い。エッチの詳細をおとなしく聞く男たち。これに、羊屋さんの衣装が乗ると、いったいどうなるんだろうとか・・どきどきしちゃうぞ。

しかし、役者はキツイだろな。例えば二人芝居があると、キャストを代えて試してみる。どっちがいいか、競争だ。サバイバルだ。キャストが変わるだけで、男女の関係性までが変わっちゃうんで、選ぶのも大変だし。だけど、ベテランの小嶋さんや田岡さんに混じっている若い子がいいんだよな。編集部イチオシは石村さんって子だ。めちゅめちゃうまい。稽古の途中から、私の目はずっと彼女を追っていたことを告白しておきます。いや、すごいっす。

稽古風景

さて、羊屋さんのパートがまだできていないことは前述したが、井手さんのダンスはできていた。これが・・・びっくりしたよー。すごくかっこ良かったんだ。もう、クオリティ高いぞ。イデビアン・クルーの水準にかなり近い瞬間もある。やっぱ、役者の要素を要求しているイデビアン・クルーのダンスを、役者がやれば面白くならないわけがないってことか。池袋コミュニティカレッジで井手さんから直接指導してもらった私が言うのだから間違いない。このダンスは一見の価値があります。ある部分、イデビアン・クルーを超えてます。特に小嶋さんは素晴らしい。

思わず、どのくらい稽古したのか聞いてしまった。三つのダンスは、それぞれ3回ぐらいずつしかやってないとか。それでこのクオリティに到達したというのは素晴らしいぞ。若い女優さんは、「まだまだです。もっともっと踊り込まないと」と決意していた。それも素晴らしい。私は「いや、このダンスはめちゃめちゃ面白いですよ。」と言うと、彼女は「はい。もう、井手さんが・・・」と。本人たちも面白がって踊っているのはますます素晴らしいぞ。

さて、本番まであと10日。芝居パートは、まだまだ整理する必要があるのもあるし、まだまだ会話になっていないものもあった。ゴダールのしちめんどくさいセリフが伝わってこないため、何言ってんだかわからないものもあった。まだまだこれからだ。まあ、逆に言うなら、ゴダールのセリフを、今時のおねーちゃんの普通のコトバにしてしまっている役者もいるわけで、それはとってもすごいことだと感心させられた。新劇女優が言いそうなセリフなのに、あれが今時のねーちゃんのセリフになるんだもんなあ。フレーズを変えなくても、表現できちゃうというのは素晴らしいよ。

さてさて、この9月25日の段階は、白玉パートも入ってないし、スライドとか衣装とかの感じもわからない。さらには、舞台美術の加藤ちかさんの存在も忘れてはいけない。加藤さんが何をやらかしてくるのか・・・。当然のように、思いっきり飾り込んでくるだろう。スズナリだしね。いやまったくこの企画、マジで異種格闘技だと思いますよ。イデビアン・クルーの装置って、いつもシンプルなものでしたから、加藤ちかさんの装置の中であのダンスがどう見えるのかだけでもドキドキもんです。早く見たいよ。

うん。確かにコドモには刺激が強いかもしれない。


編集部イチオシ:石村実伽さん(フリー)


MODE「秋のエチュード」

2000.10.4〜9 下北沢ザ・スズナリ

料金:指定3500円、自由3000円

問:03-5454-2133(ぷれいす)

公演情報HP


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