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平田オリザ公開ワークショップ&シンポジウム

演劇教育でガッコーを面白く!の会 vol.1
「演劇人が、ガッコーを変える? 学びの場の最前線」

文責:編集部 じんぼまさのり


2007年6月17日(日)午後17時〜21時@渋谷・ヨシモト∞ホール

とにかく事前の案内がよくわからないイベントだったので不安でした。mixiに紹介されてたそれは、「平田オリザの無料公開ワークショップ」と「平田オリザ・宮台真司・寺脇研・鈴木寛」の4人によるシンポジウム、というもの。で、討論のテーマが「演劇と学校教育」・・・どうよ? 確かに平田オリザのワークショップは見てみたいし、宮台や寺脇という知る人ぞ知る存在の論客のシンポジウムは魅力的だ。が、いったい何について話すのかわからないし、この論客たちと平田WSがどう関係するのかも不明。だいたい鈴木寛って人を知らないし・・・。イベントの最後には懇親会があるという。ますますわからない。目的がわからない。


■渋谷@17時

つうことで、とりあえず行ってみた。日曜の渋谷の夕方はにぎやかで、これから見る予定のイベントとは不釣合いな街の喧騒。だってキーワードは「演劇」「教育」「学校」「ワークショップ」だもの・・・。

会場に到着すると、ほぼ満員の客席は、見事にバラバラな種族。ネクタイ姿のリーマン・OLがいれば、むさくるしい演劇関係者もいる。学校関係の先生もいる。さらには通りすがりの若者もいる。きっとヨシモトのお笑いがあると思ったんだろうね。・・・すみません。

17時15分、ちょっと遅れて開会。まずは平田オリザの演劇ワークショップ(以下WS)だ。司会者は「近未来の学校教育の現場を想像してお楽しみ下さい」と紹介したが・・・何を言ってるんだか、と思った。その時点では意味がわからなかったから・・・。終わってみると、こっちが予想していたものの100倍ぐらい面白いイベントだった。

■第一部 平田オリザ公開ワークショップ

平田オリザは全国の学校や地域社会の要請に応じて演劇ワークショップを行っているらしい。相手は小中学校の子供のときもあるが、大人や障害者や老人の場合もあるそうだ。さらには平田は現役の大阪大学教授(2006年から大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授に就任)であり、大学生を相手に演劇ワークショップの授業を行っているという。その「さわり」を1時間見せる、というのがこの日のイベントの第一部だ。

平田に言わせると、阪大でやってるのは、将来医者や弁護士や看護士になる学生は「演劇をやっておかねばならない」という考えの実践だとか。近い将来、すべての阪大生の必修科目にしたいと。「コミュニケーション」や「表現」は学ぶべきテーマなんだと。で、その実際のワークショップのさわりを見せてくれた。

そこで行われたことはいわゆる「演劇ワークショップ」と同じもの。欧米で盛んに行われている演劇ゲーム系のものだ。「仲間探し」や「番号配布」、「イメージ共有」など。30人ほどの参加者を相手に1から50までの番号を書いた札を渡し、その数字の大きさで「明るい趣味暗い趣味」を決める、というやつは、野田秀樹がやってた「数字の大きさで身分を決める」のと同じ。これは「犯罪の大きさ」とか「病気の重さ」などのバリエーションがあるんだと。生徒の事情に合わせて選ぶ。

1時間のワークショップはあっという間だったが、内容は濃かった。盛りだくさんだった。初めて見る人はとまどったかもしれない。私はいくつか見てたし、世田谷パブリックシアターの「演劇ワークショップ」はここでも紹介したっけ。>企画室「世田谷パブリックシアター演劇ワークショップ」

■第二部 シンポジウム

休憩をはさみ、第2部は問題のシンポジウム。ここで鈴木寛という人が何者であるかが明かされる。すべてはこの人のたくらみであった。

平田オリザ以外のパネラーは宮台・寺脇・鈴木。宮台真司は社会学者であり、首都大学東京教授。「援助交際」で名を馳せた。寺脇研は先日「韓国映画ベスト100」を上梓した映画評論家として有名だが、京都造形芸術大学教授でもある。もともと文部官僚出身(2006年11月に退職)。「ゆとり教育」や「総合学習」で暗躍したみたい。

で、鈴木寛だ。参議院議員(2001年初当選)。民主党の「次の内閣文部科学大臣」。教育問題がライフワークだとか。あるとき、平田オリザと出会い、意気投合して始まったのが「演劇教育でガッコーを面白く!」の会だ。そして、ナゼ「演劇」なのかというと・・・このヒト、元・ネヴァーランドミュージカルコミュニティだった。知ってる?>ネバラン。

劇団ネヴァーランドミュージカルコミュニティ(1978〜1990)は、1980年代に活躍した東京大学の人気劇団。作・演出は現在プラチナペーパーズやラフカットで活躍している堤泰之。東大の劇団というと野田秀樹の「夢の遊眠社」が有名だが、ダンスや音楽を使ったポップな芝居のネバランも良く知られた存在だった。確か「純情波乗少年」とか見た記憶が・・・(タイトルはカタカナだったような)。

鈴木寛氏はそのネバランで「音楽監督」だったとか。芝居にはまってた時期があったのですね。その後、通産省に勤務し、大学教員もやって、「演劇と教育」にこだわるようになったようです。

■このイベントの真の目的!

18時30分から始まった4人によるシンポジウムは、まずは平田WSへの感想。司会は鈴木寛。そしてこのイベントの主旨が徐々に明らかになっていった。ようするに「演劇WSを学校教育の現場に導入させたい」ので、その活動(4人を発起人に)の「キックオフミーティング」なんだとか。話し合う内容は、「どう展開していくべきか」という具体的なもの。教育界のえらいヒト(おじいさん)をどう口説けばいいのか、という戦略が練られた。以下の順番で論議は進行。

1、平田WSの感想
2、教育の目的とは?
3、学校教育の現状
4、学校教育と「コミュニケーション教育」
5、なぜ「コミュニケーション教育」が必要か?
6、欧米の「コミュニケーション教育」の現状
7、「コミュニケーション教育」展開の戦略
8、指導者としての「役者あがり」の人々
9、質疑応答

ここで注目すべきは2番と7番。教育の目的について寺脇氏は「簡単に言えば人をちゃんと愛せる人を作るってことだ。言わば、いいセックスをするために教育があるんだ」と。これは実にわかりやすい。そのために「コミュニケーション教育」が必要で、現状ではそれが欠落しているから「いいセックスができない」のだ、と。

「演劇WS」というのは「コミュニケーション教育」であり、「表現」や「構成(デザイン)」も学ぶもの。獲得するのはコミュニケーション能力や表現力。決して「芝居を作る」のが目的ではない。やはり世田谷パブリックシアターでやってた「演劇WS」と同じで、「演劇のWS」と「演劇WS」は別のものなのだ。「演劇」が持つ様々なノウハウを教育やエンタテインメントに利用するのが「演劇WS」なのだ。言い換えると、「コミュニケーション能力」や「表現力」さらには「いいセックス」のためには「演劇WS」が「最適」だし、「使える」のである。

で、7番の「どう展開しましょ」「おじいさんたちをどう口説きましょ」という話になった。平田さんが口火を切ったが、「第一には国際化でしょう」と。いやおうなく「人的な国際化」が今後は進展する。わかりきっているが誰も声高には言わない。しかし、来るべき未来のために、コミュニケーション能力は必要不可欠だろう、と。これでおじいさんを口説けるものかしら・・・。

おじいさんより強敵なのは、官僚。あるいは勝ち組。国際化しようが、世間でコミュニケーションが必要になろうが、別にどうでもいいという層が確実にいる。コミュニケーションを苦手とする彼らが大きな障害になりうるだろう。「格差社会」というのは、コミュニケーション断絶を容認する社会でもあるのだろう。すでに教育の現場では先生も生徒も、「コミュニケーションの必要性」を感じられない層が生まれているんだとか。かなりヤバイところまで進展しちゃってるようだ。

だからこそ、今必要なんだろうけど、えらい人も現場でも、それを「必要」と思ってないとしたら、戦略的な展開は難しいかもしれない。いや、だから戦略を練らねばならないんだ。自然に普及するってことはありえないってことだ。

シンポジウムでは「演劇WSをやると成績があがる」とか、「大学の授業の次は大学入試で演劇WS」とか、いくつかの具体的戦略が提案された。最近の学校では「学芸会や文化祭や運動会が減ってる」らしい。末期症状だ。

■最後に

私はずっと、演劇が国語の授業で、ダンスが体育でやられていることに暗澹たる思いを抱いていた。世田谷パブリックシアターで「演劇WS」を見たとき、「可能性」を見た気がした。学校に壁があるなら「日本全国一万劇団計画」と思った。演劇の浸透は、コミュニケーション能力と「相対化」の能力を強化する。それで「世界が変わる」と思えてならない。その具体的な動きを実際に見ることができた気がするイベントだった。このイベントはあくまでも「Vol.1」であり、メーリングリストで「次」の展開が始まっているようだ。期待したい。ムーブメントになることを祈りたい。

最後に感じたことを付記しておこう。

  • ようは「社会のありよう」と思えてならない。人々が世の中をどうしたいと思っているのか、が問われているんではないのか。

  • 演劇界は演劇人のセカンドキャリアを用意してこなかった。その回答もここにあるんじゃなかろうか。「演劇WSの指導者」だ。

  • 国際化とか成績アップとかじゃ説得できないかもね。「いいセックスのために」というのはどうでしょうか? いや、少子化対策ですよ。

  • その授業に「演劇」というコトバは似つかわしくないかも。「コミュニケーション能力」略して「コミュ力(こみゅりょく・こみゅりき)」はどうでしょう。あるいはコミュ学。関係学。表現学。交流学。対話学。・・・学校の授業ですからね。

(2007.6.28)


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