さあ、いよいよ4月というわけで、年度が変わって新たな動きがあちこちで始まりますが、月光舎も結成から12年目に突入です。まぁ、6・3・3制の義務教育でいえば、高校三年になるわけで、社会に踏み出す一歩手前といったところでしょうか。思えば螳螂は12年間の活動で88年の本多劇場公演(『螳螂版・森は生きている』)を最後に解散したんですが、月光舎の今年は秋のタイニイアリス・フェスティバルと韓国[ソウル・安山]公演、来年も春の横浜公演や釜山公演の予定があるし、中国、台湾、香港などの東アジアの他に、近い将来にはモンゴル公演やバングラデシュ公演も考えているので、当分は頑張らねば、って感じですね。しかしまぁ、こんな御時世ですから、いつどうなるかわかりませんけど。
さて、先週は芝居を2本観て来ました。1本は紀伊國屋ホールで青年座の『乳房』。出演する予定だった西田敏行が倒れていろいろ大変だったようですが、作品はなかなか良かったです。というか、私の好みとしては好きな作品で、久しぶりに新劇の舞台でおもしろい作品に出会ったと思いました。まだこの舞台の劇評を読んでいないので、いわゆる劇評家の人たちが、これを観てどう思ったか、じっくり読んで自分の評価と比べてみたいですね。
脚本は市川森一。西田敏行との『淋しいのはお前だけじゃない』は大好きなんですが、この『乳房』も、まず脚本がおもしろいと思いました。主な登場人物は、次期学長の座を狙う大学教授・光岡とその助手で愛人の北原凛、そして、教授の教え子で故郷の生月島で鯨の博物館に勤めている中浦武雄とかくれキリシタンの父・伊作の4人。この4人の複雑な関係が、乳房にまつわる聖と俗のエピソードを軸にミステリータッチで展開していくんですが、そこに自分探しと同時に人間の業というものが見えてきて、最後までまったく飽きることなく観ることが出来ました。それにはもちろん演出や役者の力もあるわけで、宮田慶子演出は、しっかり役者たちをそれぞれのキャラクターとして生かした上で(誇張し過ぎてるという意見もあるかもしれませんが、私ははっきりしていてわかりやすくて良かったと思います)遊ばせている感じで、そこが新劇らしからぬ楽しさになっていたんじゃないかと思いますね。音楽を含めた照明や装置の演出効果も良かったです。役者もみんないいんですが(青年座の役者のいいところは、みんながみんな同じような類型的な演技をしないところだと思ってるんですが)、中でも楽しみにしていた猪野学はやはり良かったですね。まじめで人を疑うことすら知らないと思われているのが、実は……というキャラクターが自然に演じられ、いや、素直に感じられました。西田敏行が出られなくなり、キャンセルも多く出たという話も聞きましたが、災い転じて…ではないかもしれませんが、作品としてはとてもいい舞台に仕上がっていたのでもったいないですね。ところで、魏涼子演じる凛の胸はかなり強調されてましたが、あれって本物だったのかな?
もう1本は、北九州を拠点にしているうずめ劇場の『黄金の壷』。うずめ劇場のことは前から噂で聞いていたのですが、今回、地元・神奈川の横浜アートLIVE2003に来てくれたので、ようやく観ることが出来ました。いやぁ、私のお気に入りの劇団がまたひとつ出来ました! しかし、これも地方だ。少年王者舘は最近は東京に来てくれるからいいけど、維新派は大阪まで行かなきゃ観れないし(秋に関東でやるらしいけど)、うずめ劇場を観に北九州まで行くのは、ちょっとしんどいかな。9月には東京でもやるらしいからそれを待つしかないですね。
作品は、私も大好きなホフマンの短編『黄金の壷』を原作に繰り広げられる不思議な物語で、その内容や演出の仕方、役者の演技(決して、いわゆる巧い演技じゃないんだけど、変なリアリティと味がある)などを観ていると、昔の螳螂のような感じがして、なんか懐かしい思いがしました。中でも私は、えりか役の後藤ユウミ(まだ18歳ってホント?)が大のお気に入りになってしまいました。進行役の赤藻を演じた藤沢友も、独特の間のある話し方で飽きることなく話に引き込まれました。全体としては、何カ所か寓話を長々と話すシーンでちょっと中だるみする感じもありましたが、その辺りもただ話すだけじゃなく、何か見せる形にしてくれれば、もっと引き込まれたと思います。テアトルフォンテの舞台に本火を持ち込んだり(天幕に燃え移らないかとヒヤヒヤしましたが)、脚立を柳の木に使ったり、着替えの場所を見せたりと、アングラ的世界とアマチュア的世界と実験的な世界が混沌となった不思議なうずめ劇場の劇世界は、まさに大人のメルヘン劇という感じで、私はとても心地よい時間を過ごすことが出来ました。とにかく、好きなんですよね、こういう世界。しかし、私が観たのは楽日の回だったのに客席はガラガラで残念だったですね。もっとたくさんの人に観てもらえればいいのに、と思いました(初日は入ったのかな?)。そこら辺、アートLIVEって人集めがヘタなんだよねぇ。もっとも、神奈川じゃやっぱり人が来ないのかな。
(2003.3.31)