| 照明が、彼らを一瞬、照らし出す。そして、 |
| |
| 舞台には6人が6角形になり、中心を向いて立っている。 |
| 順に、桜沢、浅野、稲月、今平、矢吹、橋本。 |
| 桜沢・稲月・矢吹(以下A)、浅野・今平・橋本(以下B) |
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A | なにかが足りない。どこへも行けない。欲望と喪失と愛と絶望。 |
B | 居るところがない。行くところがない。悲しみと恐怖と愛と絶望。 |
A | この世界の限界、この世界の嘘、この世界の失敗、この世界の愛と絶望。 |
B | この時代の限界、この時代の嘘、この時代の失敗、この時代の愛と絶望。 |
A | 学校の嘘、会社の嘘、社会の嘘、あなたの嘘、わたしの嘘、 |
B | ホンネはどこにあるの、真実はどこにあるの、理由はあるの、愛はあるの、 |
A | やすらぎはいらない、欲望がある。 |
B | 救済はいらない、友達がいる。 |
A | ラブアンドクール、愛と喪失 |
B | ラブアンドクール、愛と死 |
桜沢 | たとえば私の愛がこわれて冷たくなっても、私はあきらめない。そして、 |
稲月 | たとえば私の夢がかなわず動けなくなっても、私はあきらめない。そして、 |
浅野 | たとえば私の心が疲れて消えてしまっても、私はあきらめない。そして、 |
今平 | たとえば私の未来が見えなくて恐怖に負けそうになっても、私はあきらめない。そして、 |
橋本 | たとえば私が苦しさに耐えられず、すべてを投げだしそうになっても、私はあきらめない。そして、 |
矢吹 | たとえば私はあなたを嫌いでも、人を愛することを私はあきらめない。そして、 |
全員 | 誰か私を助けてよ。誰か私を助けてよ。逃げられない、止まれない、走れない、戻れない。誰か私を助けてよ。誰か私を助けてよ。何もわからない。何も見えない。何も知りたくない。わかっているのはただ一つ。おやじに死を。 |
| |
| 全員が前を向いて、暗転。音楽盛り上がる。FO。 |
| 音楽、CI。パフィーかなんか。明転。6人、盛り上がっている。 |
| マイク2本で、歌って踊って。歌の間に舞台転換。そして、 |
| 桜沢・稲月・今平の三人。客席に向かって、「おりゃあああ」 |
| |
桜沢 | さあ始まりました。よろしいでしょうか。この世の中、男と女がいるのです。絶望と悲しみがあるのです。そしたらエッチしかないでしょう。身体と身体のぶつかりあい。きれいごとじゃないのよ、幻想を信じちゃだめ。建て前に騙されちゃだめよ。スキンシップよ、粘液のまじりあいよ。さあさあ、あなたのエッチの面倒見ちゃいます。私が株式会社ラブ・サポーター代表、桜沢幸です。 |
稲月 | エンジョを援助。あなたの援助交際を応援します。若いうちにどんどん稼いで下さい。あなたの豊満な肉体を有効活用しちゃいましょう。もう、恥ずかしがらなくていいんです。私はちょっと恥ずかしい。いえ、平気です。今ならどんなテクニックだってすぐ覚えられます。世間の荒波に揉まれて下さい揉んでください。身の確かなお相手だけ紹介します。エッチしなくても充分稼げます。さあ、私に相談しなさい。女子高生担当、稲月優です。 |
今平 | いい子います。かなり高いです。一万や二万でエッチはできません。ワンランク上の品揃え。うちはマグロは扱ってません。誠心誠意、待ち合わせの場所から恋人気分。あなたを夢の世界にご案内、あはーん。今日は、帰りたく、な・い・の。うふっ! 私がおやじ担当、今平有紀です。 |
桜沢 | いまひらああああ、売上落ちてるぞ。どーなってんだよ、この正月のかきいれ時に |
今平 | 最悪です。先日のおやじ連続殺人事件以来、注文がた落ち、客の質も最低、やけくそになった証券マンとか、暗い学校の先生とか、そんなのばっかりです。 |
桜沢 | そこを何とかするんだろ。クリスマス前に、カレシへのプレゼント代欲しさにみんなダンピングするもんだから、相場がガクッと落ちて、ぜーんぜん回復せんだろがあ。 |
稲月 | 年末年始の休みを利用し、田舎から出稼ぎに来てるんですよ、地方の女子高生が。まったくあいつら、相場無視してやりたい放題です。5千円で片パイもませたりするんですよ。 |
桜沢 | 何やってんだよ。東京を鎖国しろ。18歳未満、出入り禁止。東京は大人の町なんだよ。10代で六本木歩こうなんて10年早いんだよ。 |
今平 | 先日も、六本木のマツキヨで女子高生がきゃーきゃーぶっこいてましたんで、全員のカバンに高級スキンをしのびこませてやりました。やつら全員、万引きでつかまってましたよ、がっはっは。ざまーみろ。 |
稲月 | マツキヨはいけません。六本木にマツキヨはいけません。丸正までは我慢しました。しかし、 |
桜沢 | ゴキブリだ。明日、ゴキブリ撒いてくる。 |
今平 | そうだ。おやじ100人調達して、毎日通わせます。 |
桜沢 | あ、それ採用。マツキヨにおやじが100人ってことは、(3人で)マツキヨ行こう行こう。何買おうかなー、えっ!(おやじを見て)・・・うわー、見たくない光景。 |
稲月 | きょーれつですね、おやじ。 |
今平 | 最終兵器って感じですよ、おやじが群れてると。 |
桜沢 | おやじホイホイ、仕掛けないと。。 |
稲月 | おやじ、みな殺しぃぃぃっ! |
桜沢 | おやじを群れさすなー。おやじは3人以上集まってはいかん。おやじの集会禁止。明るい社会のため、おやじはひとりでこっそり生きていくべし。 |
今平 | そんな寂しいおじさまは、私が面倒見て上げます。 |
稲月 | 一人でもだいじょうぶ。可愛いお嬢様がお相手よ。 |
桜沢 | 禁断の果実、失われた楽園。秘密の花園。純真無垢な乙女が、おとうさまと一夜のアバンチュール。上手にエスコートしてね。 |
今平 | さあ、頑張っていただきましょう。お客さん、どんなタイプがお好み、今日は成人の日特別サービス、安くしときます。あなたも大人の仲間入り、よりどりみどりですよー。 |
桜沢 | ちょっと待て。いまひらあああ、安売りすんなよ。うちは丸正じゃないの。マツキヨじゃないのよ。そんなことだから、ろくでもないおやじしか集まらないんだろ。 |
今平 | そうじゃなくて、ほんといないんですよ、例の事件以来。おやじ、どこ隠れちゃったんだか。台所にも洗面所にも、流しの下にもいないんです。 |
稲月 | 女子高生、中学生、女子大生、OL、主婦、もう供給過剰になっちゃって、それで相場ががたがたです。 |
今平 | たまに来る客も、証券会社勤務とか、長野オリンピック組織委員会とか、もうてんぱってる人ばっかで、危なくて危なくて。 |
桜沢 | どうなってんだよ。あたしらが、頑張ってこの文化を守らねばならんのに。日本が誇る電話風俗、世界に輸出できる電話風俗、ゲーム、アニメ、カラオケに続く、文化輸出商品、「テレクラ・デークラ・援助交際」。なんでこんなに質が落ちてるの。 |
矢吹 | (登場して)結局、あきられたんですかねえ。 |
桜沢 | なにぃぃぃ、バカなことを言うな。風俗産業に限界はない。エッチに飽きるなんて、ありえない。そりゃパターンが一緒だと飽きられるけど、女子高生の賞品価値は、まだまだいけるはず。 |
矢吹 | しかし、テレクラが生まれて10年、もっと新しいことしないと。 |
桜沢 | そんなことないの。テレクラは生き物よ。どんどん変化している。普通のお嬢様がようやくウリをやる時代になったのよ。メディアだって、電話からパソ通、インターネットからコミュニケーション雑誌、そしてついにストリートにまで。 |
矢吹 | 検証してみましょう。ちょうど宮台真司がいいレポート発表してます。知ったかぶりぶりで、歴史を語ってしまいましょう。 |
稲月 | そんじゃ私から。1985年9月、世界初のテレクラ「アトリエ・キーホール」が新宿花園神社裏に、ひっそりとオープン。翌10月、新宿淀橋に「東京12チャンネル」オープン、注目を集める。86年4月には都内で100軒を達成、第一次テレクラブームとなる。 |
桜沢 | 12年も前よ。86年10月には全国で500軒近くまで激増したよの。さて、そこに登場したのがお待たせしました、女子中高生売春。話題の風俗ルポを見聞きした一部女子中高生が、テレクラ売春にトライ、週刊誌を大いににぎわすこととなった。 |
矢吹 | 同じ86年11月、NNT伝言ダイヤルサービス登場。翌87年、この伝言ダイヤルが新しい風俗を生み出す。第一次テレクラブームは87年夏に、伝言ダイヤルブームよって電話風俗の首位の座を明け渡す。しかししかし、テレクラはその後も激増しており、全国に日常的なコミュニケーションツールとして深く浸透していった。 |
桜沢 | 結局、伝言ダイヤルはとっても簡単だったので、子供たちの参入を容易にしたのよね。87年から88年のNTT伝言ダイヤルブームのおかげで、電話風俗が低年齢化したってわけ。ほんと、NTT、えらい。 |
今平 | 1989年7月、おなじみダイヤルQ2サービス開始、90年、Q2、ツーショットブーム到来。誰でもどこからでも、簡単に遊べる出会いメディアの誕生です。 |
桜沢 | Q2はすごかったわ。ものすごい数の番組ができた。で、競争のため、みんなサクラをやとったのよ、テレホン・オペレーターね。そこで、みんな知ってしまったのよ。何が行なわれていたか。そして、91年のQ2ツーショットダイヤル規制により、第二次テレクラブームが訪れる。 |
稲月 | 第二次テレクラブーム。テレクラのチェーン化、自宅転送テレクラ、プリペイドカードテレクラ、店舗テレクラなどなど、業態の多様化が進み、Q2ツーショットと激しく競い合った。と同時に、Q2が敷居を下げてくれたおかげで、電話風俗人口を爆発させ、マーケットのビッグバンを到来させることとなった。 |
桜沢 | この91年のQ2ツーショット規制にもかかわらず、伝言ダイヤルが裏技を駆使して生き残っていくことが大きいのよね。Q2伝言ダイヤルが、この後、どんどん成長して、92年からの中高生の電話風俗ツールとして売春需要に応えていくわけよ。 |
矢吹 | Q2伝言ダイヤルの特徴は、男性・女性専用のプライベートボックスにある。自己紹介と金額を吹き込んでおけば、誰かがメッセージをくれる。勝っ手なメッセージを吹き込むだけなので、敷居は低い。返事に対する選択権もある。Q2ツーショット全面規制が、新たなシステムを生み出したのである。 |
桜沢 | そこでいよいよ登場するのが、93年ブルセラブーム。93年3月9日発売「宝島」巻頭特集「現役女子高の「私、売ります」〜TV高校教師をはるかに超えた」、及び5月24日発売、巻頭特集「女子高生のすべてを売る これが噂のブルセラショップだ〜使用済み下着、ブルマー、制服、生徒手帳から交換日記まで」、いずれもライター藤井良樹による。 |
今平 | 93年後半には、テレビや週刊誌のメディアにブルセラ特集があふれた。 |
矢吹 | それを見た女子高生は、ブルセラショップに押しかけた。 |
桜沢 | そして、93年のQ2規制が、第三次テレクラブームへと発展する。 |
稲月 | 第三次テレクラブーム。93年後半から94年にかけてテレクラ激増。94年8月には全国で1500軒を達成。さらに、投稿雑誌やレディスコミックへの出稿が増加し、「人妻専用ダイヤル」「女子高生専用ダイヤル」「援助交際専用ダイヤル」「ブルセラ専用ダイヤル」「SM専用ダイヤル」などなどの細分化が進んだ。 |
今平 | 94年はブルセラを引き継いで、新たな風俗が登場。デートクラブである。ブルセラショップが軒並み摘発され、行き場を失った女子高生とブルセラ業者が、「売春の巣窟」として摘発されたデートクラブの報道により、「そんなもんがあるんだあ」と知り、一気になだれこんだ。マスコミ報道のアナウンス効果の大きさがここでも証明されている。 |
矢吹 | そして、95年、デートクラブにより、会ってお茶するだけで5000円がもらえるというシステムを知った女子高生は、エッチしなくても稼げることを知り、援助交際の名が普及。と同時にデートクラブの摘発が続き、新たな収入源を求める女子高生が、援助交際の意味を変容させていく。 |
桜沢 | 結局、デートクラブってのは、マンションの一室に子供たちが集まって、ゲームとかおしゃべりとかをしていた放課後クラブだったわけ。そこに行けば、楽しくまったりと時間が潰せ、お茶するだけでおこずかいが貰えるという・・・。でも、摘発で場所がなくなったんで、街へ出て行くわけよね。そこでの彼女たちの意識変革はすごいよねえ。 |
稲月 | 二つの方向に分類される。一つは、安全確実なおやじを数人のグループで紹介・共有するという「共有パパ」をもつ方向。もう一つは、テレクラ・伝言ダイヤルという街へと戻っていく方向。しかし、街では「エッチ抜き」は通用せず、膨大な女子高生が売春要員として補充されることとなった。結果、相場が大きく崩れることとなった。 |
今平 | 現在、「共有パパ」の方向と、「テレクラ・伝言ダイヤル派」の流れは変わらないけど、東京都でも淫行条例が決まった結果、ストレートな言い回しでの電話利用が難しくなり、伝言ダイヤル派は減ってきている。一方でメディアの多様化が進み、じゃまーるなどのコミュニケーション雑誌やパソ通などの利用も広がっている。また、最終メディアであるストリートが、いよいよ表舞台に登場しつつある。ストリートに出ちゃうと、もう誰にも把握できないんだから。 |
桜沢 | ストリートってのはメディアじゃないわけ。もともとはストリートでフェイストゥフェイスで交渉するのがウリだったわけだから。それが電話などのメディアがあることで、簡単に抵抗なく参加できるようにしたわけ。で、そこで学習した子供たちが、いよいよ野に放たれるわけ。まだ始まったばかりなのよ。問題は、事故を防ぐこと。媒介はいらないけど、仲介は必要なのよ。でないと、事故がおきる。 |
矢吹 | でも、たとえやり逃げされても、まあ黒字だから、とか言って平気な子が多いんですよ。危ない目にあうのは当然だし、みんな何回かひどい目にあってるし。そんなの当然っていうか。そのかわり、おいしい事もあるわけで。 |
稲月 | でも、先払いのルールも知らない子がいるわけよ。ま、知ってても、なかなか言い出せないし、あと、ウリをやらないのがプレッシャーになるような仲間意識も問題。無理してやって、とんでもないことになるパターン、多いんだ。 |
今平 | ウリなんて、しないにこしたことないのに。テクニックがあれば、ウリしなくても、お金は稼げるの。おやじ満足させるのなんか、簡単よ。 |
桜沢 | 値段が下がったおかげで、20代後半から30代のいわゆるコヤジが登場してきたのよね。こいつらがまた大変で、すぐ燃え上がってコクるから。こっちはお金の関係だったり遊びだったりするのに、いきなりコクってくるんだから。 |
矢吹 | 恐ろしいよね、告白って。突然「そろそろ真剣につきあおうか」とか、「今度はちゃんとデートしよう」とか。びっくりするよお。50代のおやじにはありえないことなのにね。 |
稲月 | こっちは仕事なのよ。仕事で優しくしてんのよ。それを、なんかかんちがいするの。可愛いっていうか、ガキっていうか。 |
今平 | あれは気をつけないといけないよ。あいつらマジだから。その先のストーカーよ。振り向けば電柱の陰よ。 |
稲月 | だから、共有パパってシステム、よーく理解できるのよね。でも、それだと、うちみたいな情報誌って、いらなくなっちゃうもんね。早くテレビでCM流したいのに。 |
桜沢 | 結局、身元の確かなおやじと、頭の悪くない女子、ってのが大切なの。審査だけは手を抜いちゃだめよ。追跡調査も、きっちりしてね。 |
矢吹 | あ、そういえば、新人が。 |
| |
| 橋本、登場 |
| |
橋本 | ・・・高校生です。 |
桜沢 | その制服は、営業用ね。だめよ、制服でホテル行っちゃ。で、身元は? |
矢吹 | 完ぺきです。父親は新日本製鉄造船事業部勤務。めっちゃ固い。西麻布の女子高です。成績も優秀です。 |
桜沢 | 最後まで、行くの? |
橋本 | どっちでもいいです。 |
今平 | やめたほうがいいよ。今、ろくなおやじいないから。 |
稲月 | あなたなら、15分デートで5千円。喫茶店に入って1万かな。30分ね。テレセもあるけど、やる? |
橋本 | 人と会う方がいい。 |
稲月 | 制服、売る? ストッキング5千円、下着は着用写真付きで1万円から、 |
橋本 | やだ。 |
稲月 | 唾液は売れる? あと、他にもいろいろ売れるんだけど、 |
橋本 | 援助がいい。 |
稲月 | そう、じゃあ、細かいルール説明のビデオを見てもらうから・・・ |
| |
| 橋本・稲月、桜沢、今平、退場 |
| 高木(証券マン)、登場。 |
| |
高木 | あ、で、電話の、マリ・クレールさんですか。 |
矢吹 | あ、ピカチュウさん、ですか。 |
高木 | はい、わたしがピカチュウ。 |
矢吹 | ポケモン、好きなんですか。 |
高木 | 好きでちゅう。 |
矢吹 | ・・・ |
高木 | なんか、電話の感じと違うなあ。もっと軽い感じだと |
矢吹 | あの、目印の巨大ピカチュウは、どこに |
高木 | ありますよ。 |
矢吹 | 見せて下さい。なんか、最近、安心できないんですよね。盗聴とかしてて、会うことが決まったら、先回りして、そんでヤリ逃げしちゃうの、いるんです。電話の感じと全然違うと思ったら、別人なんだもの。 |
高木 | それは・・・けっこう、やってんの。 |
矢吹 | えっと、そんなでもないです。 |
高木 | キミのミッフィーの看板ってのは、どこですか。えっと、キミはオーエルで、カレシがいるけど、いろいろ寂しいっていう、そのゆうべの電話だと・・・ |
矢吹 | そうです。あなたは、会社が大変だとか、 |
高木 | 山一です。もう、だめです。潰れました。やっと仕事を覚えたんです。 |
矢吹 | あの、巨大ピカチュウを。ミッフィーなら、あそこです。 |
高木 | ああ、じゃあ、僕のピカチュウも出します。ピカチュウです。 |
矢吹 | どうも。 |
高木 | 信じてもらえましたね。 |
矢吹 | どうやって持ち運んでるんですか。 |
高木 | ポケットです。 |
矢吹 | バブル崩壊ですね。 |
高木 | あっけないものです。 |
矢吹 | じゃあ、先にお金下さい。まずはデートですから、1万円です。その後は、あなた次第です。 |
高木 | けっこう、やってるんですか。 |
矢吹 | なんか、問題ありますか。 |
高木 | 僕は、こういうの初めてです。。 |
矢吹 | はじめてって、あの、山一でしょ。去年、何してたんですか。 |
高木 | えっ |
矢吹 | 先に食事しましょう。イタメシでいいですよね。 |
高木 | ちょっと待て。 |
矢吹 | なんですかあ。 |
高木 | 僕はね、こういうのとっても抵抗あるんです。あなたのような、その、とってもいやらしい女の人は、ほんとは苦手なんです。仕事はできるんです。先物取引については、かなりうるさいんです。 |
矢吹 | 先っちょ? なにの? |
高木 | ふざけないでください。僕は、かなりの覚悟なんです。今日は、僕のすべてを投げ捨てようと思うんです。はあはあはあ。あなたは、セクシー。 |
矢吹 | だいじょうぶですか。 |
高木 | わたしはイチコロでダウンよ。昨日、ABシリーズを買ったんです。通販で。これからの男は筋肉です。引き締まった肉体です。どうだ、まいったか。 |
矢吹 | まいりました。じゃ、レストランに、行きましょうね。さあ、さあ。(退場) |
高木 | ぱおー。(退場) |
| |
| たかし(なんか持ってる)、登場。二人を見送って・・・ |
| 橋本(なんか持ってる)、登場 |
| |
たかし | あ、ナポリタンさん? |
橋本 | ・・・ |
たかし | 僕です、わかりますか。キャプテンです。 |
橋本 | (うなずく) |
たかし | しかし、ナポリタンはないよな。 |
橋本 | だって・・・ |
たかし | いいけどさ。よかった、キミみたいな・・・ |
橋本 | ・・・ |
たかし | じゃあさ、先に言っておくけど、センター街を歩くだけって言っても、やっぱ雰囲気とか重要なんだよね。センター街,知ってるよね。渋谷駅前のスクランブル交差点を二人で渡る。ダンキンドーナツ、ファーストキッチン、ケンタッキー、ロッテリア、バーガーキングの前を過ぎると松屋。今日は松屋には寄らないんだ。マクドナルドを右折、オクトパスアーミーの横をすり抜け、花のスペイン坂を上るよ。階段を上がるとそこは、パ、パ、パルコ。すぐに左折、公演通りには行かないよ。まともな人間はあんな通りは歩かない。左折して坂を降りると宇田川町の交番前に出る。今日は富士そばにもよらない。HMVの横をすり抜け丸半パチンコタワーのとこから駅に戻るよ。そこにはまた富士そばがあるけど関係ないね。そして長銀の前、あの交差点を渡るよ。二人で渡るよ。行くのはもちろん、109だ。渋谷109。ソ、ソ、ソ、ソニープラザがゴールだよ。ゴールまで付き合ってくれたら5万払うけど、途中で嫌になったら、やめるからね。今はチェンジしないから、最初の1万は払う。 |
橋本 | 一緒に歩くだけでいいのね。 |
たかし | そうだよ。 |
橋本 | じゃあ・・・お金 |
たかし | (渡そうとして)ひとつ、お願いがあるの。手、つなげる? |
橋本 | ・・・ |
たかし | ダメならいいけど。 |
橋本 | いいよ。 |
たかし | ありがと。あと、手はね、つかむんじゃなくて、こうだよ(手を組む) |
橋本 | いいよ。 |
たかし | じゃあ・・・(手をつかんで)あ、もっと近づかないと。 |
橋本 | えっ! |
たかし | 普通、寄り添うじゃん。 |
橋本 | (寄らない) |
たかし | 嫌なら、いいけど・・・。名前、呼んでいい? |
橋本 | ナポリタンでいいでしょ。 |
たかし | おかしいよ。名前、教えてよ。ボク、たかし。あ、たかちゃんでいいよ。 |
橋本 | じゃあ、あたしはナポちゃんにして。 |
たかし | なんでだよ。じゃあ、いいや。ゆみこって呼んでいい? |
橋本 | 誰よ、それ(手を離す)、カノジョ? |
たかし | 違うよ。あのさ、山手教会って知ってる? |
橋本 | 公園通りの? |
たかし | そう。その地下にジァンジァンって劇場があるんだけど、今からいかない |
橋本 | 絶対いや |
たかし | なんでだよ、面白いのやってんだよ。 |
橋本 | だったらなおさらいやよ。一人で行くわ。 |
たかし | 嫌ならいいよ。 |
橋本 | あのさ・・・ |
たかし | うん |
橋本 | ホントはエッチしたいんでしょ。 |
たかし | えっ? |
橋本 | いいよ、やっても。 |
たかし | いや、あの、でも。 |
橋本 | うそよ。行こうよ。 |
たかし | あ、お金、1万円 |
| |
| 二人、去る |
| 音楽「太陽にほえろ」 |
| 桜沢、稲月、今平、矢吹、登場 |
| |
矢吹 | ボス、いまのとこ、全くてがかりはありません。 |
桜沢 | 連続で、二人も殺されているのに、なんで証拠がないんだよ。 |
今平 | 警察も走り回ってます。死んだオヤジがミッフィーのキーホルダーを握っていたとこみると、このおやじ、ミッフィーちゃんのファンですね。 |
稲月 | ポイントは、「おやじに死を」のメッセージにあると、私、ラブサポーター探偵事務所捜査1課稲月優は考えます。そうだよなあ、(矢吹に)ゴリさん。 |
矢吹 | はい。・・・ちょっと待て、誰がゴリさんだよ。 |
稲月 | じゃあ、ちょーさん |
矢吹 | 違う。 |
今平 | でんか |
矢吹 | さすがにそれは・・・ |
桜沢 | 山さん |
矢吹 | うーん、ボス、問題は・・・(アゴに手をやり)相手の女ですね。 |
桜沢 | 似てないよ。 |
| |
| その時、かけこむ橋本 |
| |
橋本 | 大変です。第三の殺人です。 |
矢吹 | よーし、3つの事件を整理してみるぞ。 |
稲月 | 第一の殺人事件。場所は新大久保のラブホテルいななき301号室。この部屋は和室で、かなり痛んでおりまして、こんなところでよくまあできるなって感じの場所です。隣りのファッションホテルにしなかったあたり、そうとうなケチですね。私はそんなやつは認めません。 |
桜沢 | 細かいとこはいいから、事実関係を。 |
稲月 | はい。この被害者、45歳のおやじですが、都立港南中学の現代国語の教師でして、目撃者の証言により、高校生とおぼしき少女とこのホテルにしけこんだと見られております。事後、2時間を経過し、ホテルの従業員、亀山作造が死体を発見しました。ちょうど2週間前のことです。この時は、全く証拠らしいものは見つかっていません。唯一、被害者が握っていたのがミッフィーのキーホルダーです。 |
矢吹 | 第二の殺人事件。10日前。渋谷円山町のプチホテル・キャンキャンバニー403号室。ここはプールと滑り台そして、ウォーターベッドとカラオケが完備してまして、また、最も特徴的なのは、なんといっても壁に埋め込んである重低音の音響装置でありまして、自分達のあえぎ声がその、重低音でタイムラグを伴って襲ってくるんです。超低周波に拡張されたその声ってのが下半身に響き、もう、なんとも言えない快感があるんです。 |
桜沢 | よく使うの? |
矢吹 | はい。おすすめです。被害者は38歳の船橋市役所環境衛生部公園造成課に務めるおやじでして、死体の左手にミッフィーのキーホルダーが握り締められてました。これが第一の事件との繋がりを示してます。また、浴室の鏡に、赤いルージュで、「おやじに死を」のメッセージがありました。 |
桜沢 | そのルージュは、資生堂かコーセーかそれともマックスファクターか。 |
矢吹 | わかりません。 |
桜沢 | 鑑識に手をまわして、調べとけ。 |
矢吹 | はい。 |
桜沢 | 鑑識のタレちゃんは、ミーコ連れてけば、一発で落ちるからな。で、第三の事件は? |
橋本 | 第三の殺人事件。今から3時間前のことです。 |
| 場所は六本木のホテルプレステ501号室、この部屋のスペシャルメニューはなんと言っても部屋全体がパラッパラッパーなこと。このホテル、すべての部屋がプレステのゲームに対応してまして、一番の人気は鉄拳の部屋。夜な夜な、闘魂のワンダーランドで汗だくの死闘が繰り広げられている模様です。あと、アンジェリークの部屋もかなり人気高いんです。チョコボの部屋はそんなに恐くない。ダビスタの部屋はちょっと種馬ですね。問題はバイオハザード2の部屋でして、まこの話は次回にします。で、事件のあった部屋は、なんせパラッパラッパーですから、キャラクター人形が所狭しと並べられてまして、その中で、リズムに合わせて腰を。 |
桜沢 | 被害者はどんなやつだ。 |
橋本 | はい。埼玉県越ヶ谷で自動車整備工を営む28歳の男性。 |
桜沢 | 今回は、証拠品とか |
橋本 | あります。またしても「おやじに死を」のメッセージが、真っ赤なルージュで。メーカーは、わかりません。それと、ベッドの上に、今度はキキ・ララです。 |
今平 | ミッフィーだけじゃなくて、キキ・ララも。自動車整備工ともあろうやつが、キャラクターあつめが趣味なんですね。 |
桜沢 | 今平、どうしても被害者の持ち物にしたいのか。だいたい、ミッフィーの被害者とは別人だろが。 |
今平 | あ、じゃあ二人はお友達とか。 |
橋本 | それとですね、今回はさらに重要な手がかりがあります。部屋の浴槽に、このパンティがあああ。 |
桜沢 | どーしてそれを。 |
橋本 | はい。そこが不思議なんです。娘は、あ、目撃者であるホテル従業員神田ウメの供述によりますと、やはり女子高生だったらしいのですが、その娘はパンティをはかずに、いったい寒くはないのか。 |
今平 | いや、そのパンティはおやじのかもしれません。ほら、やっぱりキティちゃんだ。 |
橋本 | いいところに気付きましたね。私もそこがポイントだと。 |
桜沢 | そうじゃなくて、なんでそれをお前が持ってんだよ。 |
橋本 | これがあると、盛り上がるかと思って盗んできました。 |
桜沢 | これがおやじのだとすると、キキ・ララは・・・。同じサンリオだからと言って、 |
今平 | わかった。犯人はピューロランドに勤めているに違いない。 |
桜沢 | ミッフィーはどうなるんだ。 |
稲月 | メインバンクがあさひ銀行? |
今平 | 歯磨きはサンスター? |
桜沢 | 被害者のものだいう可能性だってある。 |
橋本 | しかし、このおやじ達が、どんな顔してそんなものを買いにいくんでしょうか。見て下さい。この被害者たちの写真。黙って死んでくれーって顔です。 |
桜沢 | うわー、すごいね。最初のおやじなんか、ハゲ・デブ・チビの3拍子そろってるじゃないか。おいおい、いくら死体だからって、素っ裸のまま写真撮るなよ。 |
稲月 | こりゃあ、殺されても仕方ないですね、こいつら。 |
今平 | 世の中のために、良かったんじゃ。 |
橋本 | こいつらに、援助やる権利、認めていいんですか。 |
矢吹 | 想像しちゃいますね。やだー。 |
桜沢 | なにを想像したんだ。 |
矢吹 | だから、女子高生に迫っている姿です、おーおー、わかいねー、おーぜーぜー。 |
橋本 | やめてー。殺せ。殺せー。 |
桜沢 | だから、もう殺されてるって。 |
今平 | うちは、こんなひどいのいませんからね。あたしが選んでんですから。 |
稲月 | 選ぶって言っても、全員の顔見るわけじゃないんだから、メールとかでプロフィールしかわかんないのもあるんだろ。こいつらだって、ちゃんと仕事してんだし、それなりの社会的な地位はあるわけで。 |
今平 | でも、だめ。私なりにちゃんとチェックしてるもの。うちは品揃えが命なんだから。おやじにも女性にも満足を得ていただくという。こんなゴミみたいなおやじ、100万積まれたって、うちのメンバーには紹介できないわ。 |
桜沢 | なんか、一気に犯人さがしのテンション落ちたわね。 |
稲月 | でも、なんとかしないと供給過剰で、メンバーの不満が |
橋本 | 今回の第3の事件で、過去2回との関連が証明されたんで、警察は連続殺人として公表するらしいですよ。また、マスコミが大騒ぎです。 |
桜沢 | なにー。そうかそうか。ならオッケーだ。メディアが盛り上がれば、また市場が拡大する。そりゃグッドニュースだ。 |
橋本 | そうなんですか。 |
稲月 | そうなのよ。ワイドショーさえ取り上げてくれれば、一気に盛り上がるの。過去の歴史が証明してる。いままで未経験の人が知るし、躊躇していた子たちが雪崩を打って参入してくれるの。 |
矢吹 | 大きく二つの要因があるのね。一つは、コメンテーターのアタマの悪いコメント。知ったかぶりの司会のおばさんとか、エセ文化人とか宗教学者とかが、わけのわかんないコメントするから、みんな「フザケルナー」って反発して、うちにやってくるわけよ。それと、「なーんだ、みんなやってんだ」っておやじも女子高生・女子中学生も知っちゃうことね。 |
桜沢 | 忙しくなるよ。 |
今平 | じゃあ、犯人は、いいんですかもう。 |
桜沢 | 犯人は探すよ。うちのお客に手をだされちゃ困るもの。まさかとは思うけど、女子高生リストを洗ってよね。今平、キャラクター好きおやじが狙われるのかもしれないから、ちょっと調べて。 |
今平 | わかりました。 |
桜沢 | よし、解散。 |
| |
| 桜沢と稲月が残る |
| |
桜沢 | 優ちゃん・・・最近、どう? |
稲月 | えっ! |
桜沢 | どうなの? たいへん? |
稲月 | でも、ない。 |
桜沢 | そうなの? けっこう、大変みたいじゃん。 |
稲月 | そんなことないよ。 |
桜沢 | そうかなあ・・・。 |
| |
| 沈黙 |
| |
桜沢 | よしおちゃん、いくつになったの |
稲月 | よっつ。 |
桜沢 | そっか。もうよっつか。 |
稲月 | あの子は勝手に育つ。 |
桜沢 | そんな。時々会わなきゃ。 |
稲月 | だいじょうぶよ。 |
桜沢 | ご両親も心配してるでしょ。 |
稲月 | 関係ないよ。あの人たちにはいいおもちゃよ。 |
桜沢 | そんな。 |
稲月 | たった一度でできちゃった子だから、よしおは生まれつきタフなのよ。 |
桜沢 | 大変だよねえ。 |
稲月 | そんなことないって。 |
桜沢 | うん。 |
| |
| 沈黙 |
| |
稲月 | エンジョ、してるんだって? |
桜沢 | えっ! |
稲月 | ねえさん、自分でもエンジョ、やってるんだって |
桜沢 | まあ。 |
稲月 | 最後まで行くんだって? |
桜沢 | 前はね。 |
稲月 | あたしは、行けないの。 |
桜沢 | そうなの。なんで・・・? |
稲月 | なんか、こわいし。 |
桜沢 | まあね。 |
| |
| 沈黙 |
| |
稲月 | ねえさん、いま、カレシ、いるんだっけ? |
桜沢 | いるよ。 |
稲月 | たかちゃん? |
桜沢 | まあね。 |
稲月 | 大変よねえ。 |
桜沢 | そんなこと・・・あるけど。 |
稲月 | やっぱ、お金、かかるの? |
桜沢 | けっこうね。 |
稲月 | それで、エンジョとかしてんだ。 |
桜沢 | そうでもないけど、なんかさ、会ってエッチするだけっていうか・・・ |
稲月 | どうして自分勝手なんだろうね。 |
桜沢 | まあ、私も勝手だから・・・ |
稲月 | つらくない? |
桜沢 | 一人でいるよりマシだから。 |
稲月 | 一人だと、死にたくなるもんね。 |
桜沢 | 死ぬ死ぬ。 |
稲月 | あと、欲しいものが手に入らないと死にたくなる。 |
桜沢 | 死ぬね。 |
稲月 | 高いんだもん、指輪。 |
桜沢 | 欲しいんだ? |
稲月 | うん、でも高いの。 |
桜沢 | 買ってもらえば。 |
稲月 | やだ。 |
桜沢 | うん。 |
稲月 | 誰か、ナンパしてくんないかなあ。 |
桜沢 | ナンパされんのって、自信つくよね。 |
稲月 | 変な男だと、落ち込むけど。 |
桜沢 | 死ぬ死ぬ。 |
| |
| 沈黙 |
| |
稲月 | エンジョ、最後まで行っちゃおうかなあ・・・ |
桜沢 | ほんとに? |
稲月 | うん・・・ |
桜沢 | そっか・・・ |
| |
| 西城秀樹「YMCA」FI |
| みんなが応援、ガッツポーズを示して、去る |
| 稲月だけが残る |
| 登場する大島 |
| |
稲月 | 変わったホテルね |
大島 | 脱げよ |
稲月 | えっ・・・ |
| |
| 沈黙 |
| |
大島 | 脱げ |
稲月 | え、でも、なんか・・・どういう人なんですか |
大島 | 脱げよ |
稲月 | やだなあ。こわいー |
大島 | うるせー |
稲月 | 先にお金を |
大島 | 脱いでみな |
稲月 | ごめんなさい。な、なれてないんです。緊張しちゃって |
大島 | ウリに慣れもないでしょ |
稲月 | だって・・・(脱ごうとするが、止まり)お金、5万円、ちゃんと払って下さいよね。 |
大島 | 2万だな。慣れてないんでしょ |
稲月 | そんなの・・ひどいです。 |
大島 | てめーがガタガタ言ってんのが悪いんだろ。だいたいホントかよ。やってんだろ、どーせ。 |
稲月 | ・・・(背中を向ける) |
大島 | (近寄ってきて、後ろから肩を抱く)ふるえてんだ。 |
稲月 | 乱暴しないでください。 |
大島 | 心配すんなよ。(つきとばす) |
稲月 | (転んで)いたっ。もー。 |
大島 | ちっ |
稲月 | なんか、やなやつ。 |
大島 | (クールに)てめー、殺すぞ。 |
稲月 | (小声で)ふざけんなよ。 |
大島 | なんだよ(ゆっくり近づいていき)、あのさ、一緒に死なない? |
稲月 | いいけど。 |
大島 | うそだよ。 |
稲月 | いいのよ。そのかわり、料金倍にしてね。 |
大島 | 金なんか、ねーよ。 |
稲月 | なんでよ。ちゃんと払ってよ。 |
大島 | うるせーよ。じゃあ、殺してやるよ。 |
| |
| 突然、ドアが連打される。鳴りやむ。 |
| 大島、去る。残される稲月。 |
| |
稲月 | なんだよ。金、置いてけよ。ちくしょーちくしょー。死ね。死ねよ。あいつ、殺す。 |
| |
| たかし、登場 |
| |
稲月 | たかちゃん! |
たかし | 今、でてったよ、あいつ。 |
稲月 | なんでよ。見はってたの? |
たかし | いや。 |
稲月 | ねえさんに言われたの? |
たかし | 関係ないよ。 |
| |
| たかし、去る |
| |
稲月 | なによ。どうなってんのよ。 |
| |
| 稲月、去る。たかし、残る。 |
| 桜沢、登場し |
| |
桜沢 | 予備校、ちゃんと行ってる? |
たかし | うん |
桜沢 | 頑張ってよ |
たかし | うん。5万、貸して |
桜沢 | え、でも、きのう5万、あげたでしょ |
たかし | あと5万 |
桜沢 | いま、ないの。 |
たかし | うん。 |
桜沢 | ごめんね。 |
たかし | うん。 |
桜沢 | 元気、ないね。今日はね、あたしもちょっと大変。シゴトがね、ほら、連続殺人。まいったよ。 |
たかし | うん。大変だよね。 |
桜沢 | 景気が悪いし、女子高生の価値が下がってるし、年末年始の供給過剰だし、田舎もんの出稼ぎはあるし、それで事件でしょ。 |
たかし | どうせまた盛り返すよ。そんなに長くは続かない。一時的なもんだよ。 |
桜沢 | おやじなんか、死にゃあいいと思うけど。まったくろくでもないおやじが多いのよ。こないだ殺されたのだって、死んで当然っつうか、「お前はとっくに死んでいる」って顔なのよ。たいした仕事してないし。家帰っても浮いてるって感じなのよ。あんなのが来たら、あたしだって殺すね、ぜったい。 |
たかし | 「お前はとっくに死んでいる」か。 |
桜沢 | ほんとそうなのよ。 |
たかし | そんなひどいんだ。 |
桜沢 | ひどいひどい。 |
たかし | じゃ、殺せば |
桜沢 | 今度ね。 |
| |
| 沈黙 |
| |
桜沢 | カラオケ、行かない? |
たかし | 行かない。(たかし、去る) |
| |
| 歌(ジュディマリ「そばかす」) |
| 橋本、登場。大島、登場。 |
| |
大島 | (驚いて)あかね! |
橋本 | おにいちゃん。 |
大島 | お前、何してんだよ。あっ!(持っている目印を見て) |
橋本 | おにいちゃんこそ、なんでそれなのよ。 |
大島 | お前だって、それはその・・・ペペロンチーノ。 |
橋本 | おにいちゃん、何やってんのよ。会社はどうしたの。 |
大島 | 会社なんて、どうだっていいんだよ。ほっといたって、なくなるんだから。 |
橋本 | そういう問題じゃないでしょ。 |
大島 | お前こそ、何やってんだよ。まさかお前、売春してんのか。 |
橋本 | それは、おにいちゃん次第でしょ。 |
大島 | そうか。俺はちょっとデートできればいいんだけど。おい、お前とデートすんのか。やめろよ。金、払わないぞ。 |
橋本 | そういう問題じゃないでしょ。何やってんのよ。 |
大島 | お前だって・・・いつもやってんのか。 |
橋本 | 違うわよ。たまたま初めて、 |
大島 | ほんとかよ。手帳見せろ。携帯かしてみ。 |
橋本 | がさいれしないでよ。 |
大島 | あやしいなあ。そういえば、最近、髪の毛、さらさらしてんな。 |
橋本 | それは関係ないでしょ。 |
大島 | シャンプーをかえたろ。俺まで、ほら、こんなに。 |
橋本 | やだ。あたしのシャンプー使わないでよ。高いんだからね。 |
大島 | だろ。高そうだったんだ。稼いでんだな。 |
橋本 | 違うわよ。 |
大島 | あのな、恥ずかしいと思え。お前のやっているのは、身体を売ってることなんだぞ。 |
橋本 | 最後まで行ってないもの。 |
大島 | 行ってなくても同じ。自分を切り売りしてんだろうが。相手の男はお前を人間と見てないんだぞ。モノだ。その部品を買うんだ。お前、自分がモノ扱いされてんのに、平気なのか。相手に見下されて平気なのか。おかしいんじゃないのか。 |
橋本 | よくいうよ。おにいちゃんだって、変わんないじゃん。会社の奴隷じゃん。会社に身を売ってるんじゃん。機械の一部になってんじゃん。どこが違うのよ。それで、いらなくなったら切り捨てられて、会社が壊れりゃ廃棄物だし。あたしはね、そういうのにはなりたくないのよ。 |
大島 | お前、会社ってのはそんなもんじゃない。そりゃ、今はただの歯車かもしれない。けど、何年か経てば、経営者にだってなれるし、相場を動かすことだってできるんだ。自分の企画で自由にいろんなことができるんだ。 |
橋本 | そして、新しい部品をいっぱい使うのよね。でも、その前に壊れちゃったわね。 |
大島 | また、なんとかなるんだよ。 |
橋本 | そうかなあ。 |
大島 | たまたま会社は壊れたけど、今度こそ、ちゃんと見極めて、将来性のあるとこ見つけて、そんで下積みを重ねて、そしたら、何億って金を動かせるんだよ。一日で、何億円も変動するんだ。損することだってある。けど、でっかく儲けることだってあるんだよ。俺の一言が市場に影響し、相場を動かすんだよ。何十人もの部下が俺を頼りにしてるんだ。なあ、すごいだろ。俺一人の力が、経済を変えるんだ。 |
橋本 | それで? |
大島 | えっ? |
橋本 | そんなの、楽しいの。 |
大島 | 楽しいだろ。すごいだろ。 |
橋本 | そうかなあ。また胃薬が離せなくなるんでしょ。もっと、楽しいことすればいいのに。 |
大島 | もっと楽しいことって、なんだよ。 |
橋本 | おにいちゃん、たけしがベネチア取ったのよ。もののけ姫も久石譲なのよ。UAの悲しみジョニーの歌詞って知ってる? コムロの歌詞は相変わらずすごいのよ。浜ちゃんのジャングルからブレイクビーツとかドラムンベースが始まったのよ。ケラはあと2〜3年で芝居やめるってさ。エバンゲリオンなんてつまんない映画がヒットしたのよ。村上龍は今も過激に面白い本書いてるのよ。 |
大島 | なんだよ。オレだってポケモンやってるぞ。 |
橋本 | おにいちゃんは前は、たけしの映画なら一晩中喋ったじゃない。TMネットワークの歌詞を暗記してたじゃない。あたしにキャラメルボックスのくだらなさと、大人計画のすごさを教えてくれたじゃない。中学生の私を悪人会議の「ふくすけ」に連れていってくれたじゃない。二人で1988年の維新派の「少年オペラ」を見に、京都に行ったじゃない。 |
大島 | そんなの・・・ |
橋本 | あたしじゃなくて、ゆりさんと一緒に行った富田靖子の飛龍伝の話を、一晩中聞かされた時、あたしはゆりさんに殺意を覚えたものよ。なのに、ゆりさんと・・・ |
大島 | もういいよ。 |
橋本 | ゆりさん、結婚したのよ。 |
大島 | えっ! |
橋本 | 山下よ。 |
大島 | 山下って、お前の・・・ |
橋本 | つまんないカップルよね。 |
大島 | ・・・まあ、いいや。映画でも見てこようかな。何、やってんのかな。 |
橋本 | タイタニックとか、見ないでよね。ディカプリオはかわいいけど。あ、コクーンに羽野アキが出てるよ。 |
大島 | ハノアキって、新感線のか。ふーん・・・(去る) |
| |
| 橋本、少し待って携帯を出して |
| |
橋本 | もしもし、あ、ペペロンチーノです。今からでも平気ですよ。モアイ像。今、どこですか。じゃあ、こっちから行きます。5分ぐらいかな。じゃあ、●●持ってますから。(去る) |
| |
| たかし、登場して橋本を追う |
| 渋谷駅前とか。 |
| |
今平 | おかしいなあ。スッポカシかなー。 |
茶あ | (登場して)あのー、あの、ポチョムキンさんですか。 |
今平 | なに、このおばさん。 |
茶あ | (大声で)ポチョムキンさん、キンさん |
今平 | 静かにして下さい。 |
茶あ | あ、ごめんなさい。やっぱ恥ずかしいですよね、ポチョムキンなんて呼ばれちゃ |
今平 | あの、どなたですか。 |
茶あ | ポポロンです。 |
今平 | え、だって・・・ |
茶あ | の、母です。 |
今平 | うそ。 |
茶あ | ごめんなさいね。おどかしちゃったかしら。 |
今平 | てゆーか。 |
茶あ | うちのたっくんが、なんか、恥ずかしいっていうんで |
今平 | たっくん? |
茶あ | ポポロンですよ、たっくんは。 |
今平 | はい。 |
茶あ | うちの子はやさしいんですね。で、わたしに行ってくれろと |
今平 | はあ |
茶あ | ごめーわくでしたか。 |
今平 | ってゆーか、 |
茶あ | あ、もしかして、たっくんのこと心配してますか。大丈夫です。たっくんはおうちでお留守番です。で、その、たっくんもちょっとした気まぐれでああしただけですので、まあ、今回のはなかったことにしていただければと。ほんと、申し訳ないんですけど、ほんのイタズラだったんです。許して下さいますよね。 |
今平 | はあ。しかし、 |
茶あ | あら、やだ。これですね(と、茶封筒を渡す)。けっこう高いんですね。 |
今平 | そんな、いいんですかあ。 |
茶あ | いいのよ。受け取って受け取って。どうせ亭主の稼ぎよ。まったく、うちの人だって、どこで遊んでいるんだかわかりゃしない。好き勝手やってるのよ。いやらしいこと、やってんのよ。でもねー、私らのころは考えられなかったわ。そんな、売春ごときに10万も。 |
今平 | そうじゃなくて、レストランで |
茶あ | でも、あなた可愛いから、まあ、許すわ |
今平 | どうも。 |
茶あ | 肌、おきれいなんでしょ。 |
今平 | えっ? |
茶あ | 若くていらっしゃるし |
今平 | まあ。 |
茶あ | あれですよね、好きでやってるんでしょ。 |
今平 | そ、そうです、かな? |
茶あ | でないとねー(納得する)。なかなかやれないもの。大変だから。 |
今平 | 大変です。 |
茶あ | だとすると、このまま帰っちゃうと、やっぱ欲求不満とか、 |
今平 | いえ、そんなこと |
茶あ | いいんですのよ。遠慮なんかしなくて、もー、ほんとごめんなさい。 |
今平 | いえ、いいんです。 |
茶あ | いいわ。私なら、いいんですよ。 |
今平 | はい? |
茶あ | 平気です。私、大丈夫なんです。 |
今平 | なにが? |
茶あ | 気になさらなくてけっこうなんです。さ、行きましょう。 |
今平 | どこに? |
茶あ | ちゃんとしたとこ、とってありますから。泊まりでも、大丈夫なの。 |
今平 | まさか、 |
茶あ | あなた今、10万円、受け取ったでしょ。 |
今平 | それって |
茶あ | ホテル。私、両方大丈夫なのよ。両刀なの。よかったわね。さあ |
| |
| 今平、茶あに手をひかれ退場 |
| 「太陽にほえろ」 |
| |
矢吹 | どこのどいつだ、おやじ殺してんの。めーわくなんだよ。おやじが変な目で見るんだよ。気持ち悪い目で見るんだよ。何を期待してんだかよお。 |
桜沢 | おやじ殺してどうすんだよ。おやじはねえ、ほっといたって勝手に死んでくれるんだよ。わざわざ殺して、何の意味があるんだよ。 |
稲月 | 誰なんだよ。出てきなさいよ。それでなくても女子高生の価値下がってるんだから、これ以上、マイナスイメージ作らないでよ。みーんなテレクラやってるみたいなイメージ定着し、誰でもエンジョ、平気になって、そんで殺しまでやってるとか言われちゃ、困るじゃないの。 |
橋本 | なにも、ホテルで殺すことないでしょ。どっか、別の知らない場所でこっそりやってよ。わざとメッセージ残したりして。誰なのよ。シゴトの邪魔なのよ。 |
矢吹 | ほんとにもー、わざとらしいよねえ。おやじ達の自殺じゃないの。 |
稲月 | あ、それあるかもね。女子高生へのうらみかなんか。 |
橋本 | 実は、できなかったとか・・・。 |
矢吹 | そんで、なんか言われたんだ。 |
稲月 | それ、ありそうだなあ。 |
桜沢 | でも、口紅が現場に残ってないのよ。 |
矢吹 | それは・・・亀山作造が共犯とか。 |
稲月 | だれ、それ。 |
矢吹 | 発見者よ。 |
橋本 | 神田ウメよ。 |
稲月 | だから、共犯者がいるのよ。 |
桜沢 | そんな簡単に登場人物、増やさないの。それより、目撃者の証言はどうなの。 |
矢吹 | それが、はっきりしないんです。女子高生だったことは確かなんですけど。 |
稲月 | 3回とも同じ女子高生なのかな。 |
矢吹 | 顔とか覚えてないのよ。みんな同じに見えるし、別人かもしれないし。 |
橋本 | 女子高生って記号だからなあ。 |
矢吹 | セーターにミニスカートにルーズソックスみたい。 |
桜沢 | いまどきそんなコギャルファッションでホテル入るか。 |
矢吹 | それも怪しいのよね。ホテルのフロントったって、ちゃんと見てないし。 |
稲月 | マスコミのネガティブキャンペーンのおかげで、ひやかしだけの電話とか、スッポカシが増えてるみたいね。女の子の方も、中学生がどんどん参入してきて、女子高生の値崩れが激しいのね。 |
矢吹 | おやじの質がどんどん悪くなるのよ。も、最悪。景気悪いもんだから、やけくそでしょ。 |
桜沢 | 世の中、ますます殺伐としてきてる。ガキどもの犯罪も増えてるみたいね。おやじはさあ、飲み屋とかこことかに逃げ込めるからいいけど、子供らはどこもないからなあ。 |
稲月 | ほんとにマジメな子は最悪ね。先生の言うこととか聞いてて、どうすんだか。 |
橋本 | それ、違う。そういうのマジメとか言わない。いま、普通の子だったら、先生のいうことなんか聞かないもの。あんなデタラメ言われて、反発しないのってバカよ。まともな子は、みんなここみたいなとこに逃げてる。男の子だって、ストリートとか。 |
桜沢 | 問題なのは、どこにも行けない子よ。ヤクに手を出したり、ほんとの犯罪に手を染める前に、なんとかしてここに連れてこないと。 |
橋本 | え、ここでいいんですか。 |
桜沢 | 他よりまし、だと思うよ。 |
矢吹 | でも、おやじの質が落ちてるから、ここも大変よ。 |
稲月 | あと、男の子の組織化ね。早いとこ、きれいな男の子には価値があることを知らせないと。 |
桜沢 | とにかく、犯人をつかまえないと。でないと、ウリやってる子が犯罪者呼ばわりされちゃたまんないわ。 |
今平 | (登場して)あかねちゃん、シゴトよ。 |
橋本 | あ、はい。 |
矢吹 | 売れっこねえ。あたしもラルフ着て・・・でも、いまさらデートクラブはなあ。 |
稲月 | やっぱ、どんなのが現れるのかわからないっていうスリルがね。 |
矢吹 | インターネットとかじゃまーるだと、顔が出ちゃうからね。 |
稲月 | その場に行けばあきらめがつくけど。 |
今平 | 前もって顔がわかってると、出会いの瞬間のときめきがなくなるもの。 |
桜沢 | やっぱ、顔の情報量って大きいのよね。 |
矢吹 | こっちだって、顔、出したくないものねえ。 |
今平 | そんなことないよ。 |
稲月 | あたしなんか、全身、出てるわ。 |
矢吹 | あたしだって平気よ。でも、ほら、タイプが限定されるんだもの。 |
桜沢 | なんで。あゆかのコアなファンって、いるの。 |
矢吹 | あたしはオールマイティーよ。 |
稲月 | 顔、出してないくせに。 |
矢吹 | なにー! |
| |
| 舞台、ブルーに染まる。 |
| 浅野、登場。体育座りの今平にサス。 |
| |
浅野 | 結局、あなたたちのやっていることは、こういうことなんですよ。 |
稲月 | (今平に)いつからなの? |
矢吹 | どこから手に入れたの? |
浅野 | もう半年以上経ってるはずよ。手にいれようと思えば、いまどきスピードなんか、どっからでも手に入るでしょ。 |
桜沢 | クスリだけは・・・ |
今平 | ごめんなさい。 |
桜沢 | ごめんじゃないわよ。ヤクやったら、おしまいじゃないの。 |
浅野 | あなたたちのやってることの延長に、クスリがあるんでしょ。 |
桜沢 | 違う。 |
稲月 | 違うよ。クスリは別だよ。クスリは、全く別の世界だもの。 |
浅野 | でも、あなたたちと同じ世界の彼女が、半年以上、やってたのよ。 |
桜沢 | なんで? |
今平 | 別に・・・ |
浅野 | 理由なんかないのよね。売春と一緒でしょ。どうせ、 |
橋本 | 理由はあるよ。 |
浅野 | お金が欲しいとか? |
橋本 | そんなの |
浅野 | お金、欲しいんでしょ。 |
橋本 | お金はもらうけど。 |
浅野 | エッチするだけじゃないものね。お金とって、ビジネスだもんね。 |
橋本 | でも、もっと理由はあるよ。 |
浅野 | (今平に)別に、理由なんか、ないんでしょ。 |
今平 | 理由は・・・ |
桜沢 | なんなのよ。何が不満だったのよ。なんか不満だったんでしょ。何が悪いのよ。言ってよ。なおさないけど、でも、言ってくれないと。 |
矢吹 | でも、不満だからと言って、ヤクやられちゃたまんないなあ。子供じゃないんだからさ。 |
浅野 | 子供よ。いい年して、自分の身体を傷つけていることもわかんないんだから。 |
稲月 | なに言ってんのよ。大人とか子供とか、関係ないでしょ。大人だって子供だって売春やるし、ヤクやるのよ。でも、なんで有紀がやんなくっちゃなんないのよ。なんでよ。有紀、言ってよ。理由はなんなのよ。 |
浅野 | あなたたちさあ、彼女のこと責めるけど、あたしは理解できないなあ。だって、やってること同じじゃない。ルール破って、身体傷つけて。そりゃ、確かに売春はお金貰えるけど、クスリは払う方だから、違うって言えば違うけど。 |
矢吹 | 全然違うわよ。お金の問題じゃなくて、損得の問題よ。 |
浅野 | 何言ってんのよ。損得でしょ。お金の問題でしょ。クスリ買う金欲しくて、ウリやってたんでしょ。 |
今平 | 違うけど。 |
浅野 | 何が違うのよ。高いんでしょ。ウリでもやんなくちゃ、 |
今平 | 違う。違うの。エスなんか、そんなにしょっちゅうじゃないし、高くないもの。 |
桜沢 | 1回でもやったら同じよ。 |
今平 | そうかな。あたしは弱いから、ねえさんと違って弱いから、ちょっとぐらい、やらないと、持たないのよ。 |
桜沢 | 何言ってんの。誰が弱いの。誰が強いの。みんな一緒じゃないの。 |
稲月 | だから、こうして一緒にいるんじゃないの。なんで、言ってくれないのよ。 |
橋本 | 言えないのかな。言えないな。 |
矢吹 | 言えないよ。 |
浅野 | あなたたち、コミュニケーション、とれてないんじゃないの。それで、よく集団やってこれたわねえ。 |
橋本 | うるさいなあ。 |
浅野 | なによ。あなた高校生でしょ。わかってるの、自分がやってること。 |
橋本 | わかってるよ。 |
矢吹 | ちょっと待ってよ。あかねちゃんも落ち着いてよ。今、私達全体のことって、関係ないんだから。私達は私達自身がわかってやってんだから、誰にも文句、言わせないの。今は、有紀のこと。 |
今平 | 結局ね、 |
矢吹 | 結局・・・ |
今平 | あたしもおやじ嫌いだし、死んで欲しいと思ってるし、おやじいなくならないと、世の中、明るくならないと思うし。 |
浅野 | 何を言っているのよ。関係ないでしょ。 |
今平 | だって、おやじ死なないじゃないの。 |
桜沢 | 死なないよ。いなくならないよ。 |
今平 | おやじってさ、何が偉いんだか知らないけど、命令するでしょ。言ってること、めちゃくちゃなのよ。だいたい、おやじの買春が認められていて、なんであたしたちが説教されなきゃなんないのよ。 |
浅野 | それはああ |
稲月 | おやじってさ、ホンネと建て前、違い過ぎるのよ。いいかげん、そういうのやめて欲しいの。違うのがオトナの世界だ、とかって、いつまで言ってんだか。 |
橋本 | 成績とか、そんなのだけですべて判断するんだからね。おやじがそうだから、友達とかもみーんな、同じになってんのよ。おかしいじゃないの。なんで、学校なんかの成績で判断するのよ。あたしは、あたしなのに。 |
今平 | 学校も、家も、会社も、嫌なのよ。あんなとこにいられないよ。だから、ここに来たんだ。 |
矢吹 | だけどさ・・・ |
今平 | ・・・ |
矢吹 | ヤクやったら、ここにはいれないんだよ。有紀は、ここしかないのに。 |
今平 | もう、だめかな。 |
矢吹 | あたりまえでしょ。この人が認めないわよ。 |
浅野 | 私は、ここ自体を潰すよ。 |
桜沢 | なんでよ。あんたに関係ないでしょ。 |
浅野 | 関係あるよ。そりゃ、あたしだっておやじ嫌いだけど。普通の人間はみんな反発するよね。まともな感性持ってたら、誰だって。おやじってだけで殺される対象になるって知ったら、けっこう大変なことだと思うけど。 |
橋本 | だったら、ここはなにも。殺してないんだから。 |
浅野 | そうなの。ここの誰かが犯人じゃないの。 |
桜沢 | なに、言ってんだか。 |
浅野 | あなたはみんなのことを把握してるわけじゃないでしょ。 |
稲月 | 私達は殺人犯じゃないわ。 |
浅野 | どうだか・・・。 |
矢吹 | 問題は、有紀のことよ。もう一度、聞くけど、なぜヤクなんか・・・。 |
今平 | うん。たぶん、別の場所に行きたくなったって言うか、救いが欲しかったんじゃないかなあ |
桜沢 | あまえんなー |
今平 | ・・・ |
桜沢 | それは、あまえよ。別の場所なんか、そんなに簡単には手に入らないんだから。クスリじゃ手に入らないのよ。別の場所は自分達で作るしかないのよ。学校も、会社も、家庭も、いるところがないんでしょ。だって、学校も会社も家族も地域社会も崩壊しちゃってんだから、当然だ。だから、この場所があるんじゃないの。もう一つ別の場所でしょ。それがここよ。ここじゃなくたって、その気になれば、いっぱいあるじゃない。サイバースペースだってあるし。 |
今平 | わかってたんだけどさ。なんか、めんどくさくなっちゃって・・・。 |
稲月 | けっこう、大変なのよね、新しい場所、見つけるのって。でもさ、なんでここじゃだめだったの。ここをなんとかできなかったの。 |
橋本 | ここは・・・変化が遅いかもね。 |
桜沢 | でも、大変なのよ。 |
矢吹 | いろいろ見極めないとなんないしね。 |
桜沢 | そうなのよ。最先端ってわけにはいかないの。頑張ってるけど。 |
稲月 | 世の中の崩壊のスピードが速いから。 |
矢吹 | それでいて、おやじは全く変わらないから。んもー、いらつくなあ。 |
今平 | やっぱ、待ってるしかないのかな。 |
桜沢 | えっ? |
今平 | だから、おやじが変わるの、待ってるしかないのかな。 |
稲月 | 待ってないでしょ。こっちから攻めてるでしょ。おやじ、変えてるでしょ。 |
今平 | 変わってないよ。 |
矢吹 | 変わってるよ。 |
橋本 | 変わってないよ。 |
浅野 | 変わってるよ。 |
桜沢 | どうかなあ・・・。あれよね、おやじ殺しがさ、もっとたーくさん増えると、ちょっとはおやじも気がつくんじゃないの? |
矢吹 | それはないでしょ。ああゆう事件で、何かが変わったことないもの。 |
桜沢 | だよね。 |
今平 | く、暗いなあ。未来に希望が見えないじゃないの。 |
稲月 | お前が言うか。有紀が未来、壊してんだよ。 |
桜沢 | 壊れるのはさ、壊れる理由があったんだから、仕方ないよ。壊れたら、また作ればいいし。 |
橋本 | 作れるのかな。 |
桜沢 | まあ、難しいんだけど。 |
浅野 | 難しいでしょ。どうするの? |
桜沢 | さあ・・・。ただ、わかっているのは、今の売春ブームを大切に育てていかないとならないってことよ。 |
浅野 | 売春って、ブームなの。 |
矢吹 | ブームでしょ。 |
桜沢 | これでさ、かなり自由になれるんだから。おやじたちの、吉永小百合信仰を破壊してさ、 |
稲月 | 自信が持てるもんね。それがさ、この仕事するまで、自分に商品価値があるなんて信じられなかった。 |
今平 | エッチって面白いしね。それでお金もらえるんだから、不思議だよねえ。 |
浅野 | しかし、デートクラブなんて、アジアだけよ。欧米の人が見たら、「なぜ殺されないんだあ」って驚くわよ。アメリカだったら、女の子、初日に何人死んでるか。 |
矢吹 | アジアはほら、人情があるから。 |
浅野 | なるほど、って、そうなの? |
桜沢 | あなた、テレクラ、やったことないの。いまどきの東京の女子高生で、やったことない子なんて、ほとんどいないのよ。テレクラ、楽しいよー。変なのと出会えるし、時々、ヒットするし。 |
浅野 | だって、恐いでしょ。 |
稲月 | そりゃそうよ。ハイリスク・ハイリターン、まあ、才能ある人は、こんなギャンブルしないんだけどね。 |
今平 | しょうがないのよ。みんながみんな才能あるわけじゃないし。いやだー。また、暗くなっちゃうー。 |
橋本 | わかんないんだけどさ、昔の才能のない女の人って、高収入・高学歴とかを大事にしたでしょ。それって、絶対最低だと思うの。まあ、それがバブルってやつなんだと思うけど、でも、そんなのに人生かけるのって馬鹿だよ。女としては、絶対頭悪いよ。そんなのに人生を売り渡すのって。少なくとも、あたしは大嫌いよ。 |
浅野 | 身体は売ってるのにね。 |
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| 照明、変化して |
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矢吹 | 大変です。第4の事件が起きました。 |
稲月 | 30分前のようです。また、女子高生が、おやじを。 |
今平 | 渋谷のファッションホテルラブリンの203号室です。口紅メッセージは、「お前はとっくに死んでいる」だって。 |
桜沢 | 「お前は・・・」 |
矢吹 | 今度は、かなり女子高生の特徴がわかっているそうです。水色のラルフのセーターに、●色のミニスカ、白のルーズソックス。 |
稲月 | それじゃ、全然、はっきりしてないじゃない。 |
矢吹 | そりゃそうだけど。おやじはまだ身元不明ですが、。 |
橋本 | ・・・ |
桜沢 | どうしたの。 |
橋本 | そのおやじ・・・ |
桜沢 | なんか、知ってるの。 |
橋本 | そのおやじ、あたしの客だったの。 |
桜沢 | えっ |
橋本 | 渋谷のホテルラブリンの203号室。なんとか工場の社長。 |
桜沢 | それ、いつ? |
橋本 | 1時間前、別れた。 |
桜沢 | その時、おやじは? |
橋本 | 部屋にいた。私はとっとと帰った。 |
桜沢 | その後、死んだのね。やっぱ殺されたのかな。 |
矢吹 | 自殺の線もあるけど・・・。 |
橋本 | そんな、おやじ、元気で、娘の自慢してたよ。今晩は、娘の誕生日だとか。 |
桜沢 | そんな日に、エンジョするかな。 |
橋本 | 燃えるんだって、変態おやじ。 |
桜沢 | 「お前はとっくに死んでいる」 |
今平 | なんだろね。死んでいるんだったら、殺さなくてもいいのに。 |
稲月 | 死んでるのに、生きているから、殺したんじゃないの。 |
今平 | そんなに生きてる意味のない顔してたのかな。 |
橋本 | かなり。 |
今平 | えっ |
橋本 | 死んだ方がましっていうか、死んで当然っつうか、そういう顔なの。たいした仕事してないし。家帰っても浮いてるって感じなの。あんなの、あたしだって殺したくなったの。 |
桜沢 | あっ! |
今平 | でも、殺さないよね。 |
稲月 | 殺さないよ。殺しちゃだめだよ。 |
橋本 | 殺さないよ。 |
今平 | 殺したくても。勝手に死んでくれって思うけど。 |
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| 稲月・橋本・矢吹・今平のことばがゆっくりになり、退場していく |
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矢吹 | 殺そうとは思うし |
稲月 | 死んで欲しいと思うし |
橋本 | 死ねばいいとは思ってるし |
今平 | 死ぬことはわかってるし |
矢吹 | ほとんど死んでるし |
稲月 | とっくに死んでるし |
橋本 | 結局、殺されるし |
今平 | 死ぬし |
矢吹 | 死んだし |
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| 舞台に桜沢がひとり |
| たかし、登場 |
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桜沢 | なぜ? |
たかし | だって |
桜沢 | 殺すことはないのよ。殺しちゃだめなのよ。だめなのに。 |
たかし | 死ぬしかないようなやつだったんだ。 |
桜沢 | そんな・・・。 |
たかし | ごめん。 |
桜沢 | 一人や二人のおやじ殺しても、何も変わらないじゃない。実際、援助交際するおやじは増えているのよ。この事件以来、マスコミのネガティブキャンペーンのおかげで、どんどん増えてる。 |
たかし | 別に、援助交際を減らしたかったわけじゃない。 |
桜沢 | じゃ、なぜあんなクズ、殺したの。 |
たかし | 嫌いだったんだ。 |
桜沢 | え? |
たかし | 嫌いだったんだ。あいつら、優秀な会社とか、優秀な成績とか、そういうのでものを見るから。 |
桜沢 | そんなの、昔っからじゃない。 |
たかし | だけど、個性の尊重とか、自由に生きろとか、夢を持てとか、言うんだぜ。 |
桜沢 | そうよ。そうやって、たわごと言って楽しんでる人種だもの。 |
たかし | それが、嫌だったんだよ。 |
桜沢 | だから殺したの |
たかし | っていうか、ここに来て、こういう仕事見て、ああゆうことやってるやつが許せなかったんだ。言ってることとやってることが全然違うんだもの。 |
桜沢 | ここに来たからなんだ・・・ |
たかし | ここって言うか、まあ、ここだけど。 |
桜沢 | あたしと出会ったからだ。 |
たかし | えっ |
桜沢 | そうか。あたし、おやじは死ねとか、言ってたから |
たかし | そんな、ねえさんのせいじゃないよ |
桜沢 | そりゃそうよ。あたしはおやじ嫌いだけど、殺さないもの。死んで欲しいって・・・言ってるもんなあ、いつも。 |
たかし | たまたまさ、僕も殺したいって思っちゃって、なんか、手が出たっていうか |
桜沢 | ばか。 |
たかし | まずいなって思ってるんだけど、でも、しょうがないじゃん |
桜沢 | しょうがないったって、4人も殺しちゃあ |
たかし | ごめんごめん。ほんとに、後悔してる。失敗だった。ねえさんに迷惑かかっちゃったし。 |
桜沢 | あたしは、いいのよ。そうか、あたしが死ねって言ってたもんなあ |
たかし | ・・・ごめん。(ひざまずく) |
桜沢 | ごめんね。ごめんね。(近づいていく)そんなこと、できると思わなかったもの。そんなこと、やっちゃうタイプじゃなかったもんね。ごめんね。(頭を抱いて)ごめんね。 |
たかし | うん。 |
桜沢 | そっか。しょうがないなあ。いまさら後には引けないもんね。よし、こうなったら、あたしも一緒にやっちゃおうかな。殺すかどうかは、さておいて、あたしもおやじ達に宣戦布告しようかな。さんざんおやじ利用して稼がせてもらったけど、もう、つまんないし。ここいらで一発、勝負かけようか。おやじ、血祭りにあげちゃおう。 |
たかし | だいじょうぶなの。 |
桜沢 | 平気よ。たかちゃんと二人で、とことんやってやろうか。 |
たかし | うん。 |
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| 稲月ら、登場 |
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稲月 | ちょっと姉さん。ずいぶん勝手なこと言ってるじゃない。あたしらも、まぜてよね。 |
矢吹 | おやじと戦うってんなら、あたしらも一緒にやるわよ。 |
今平 | たかちゃんがこうなったのは、あたしらだって責任あるっていうか、まあ、そんなことはどうでもいいの。あたしだって、やるわよ。おやじ、死んでもらうわ。 |
橋本 | こうみえても、けっこうやるのよ。そこいらのどんくさいおやじの一人や二人、天国に行かせてやるよ。 |
桜沢 | あんたら、平気なの。 |
稲月 | 平気もなにも、こっちはもう、やる気まんまんよ。 |
矢吹 | 情報関係は、わたしにまかせて。警察の動きはだいたいつかんでるから。警視庁のサーバーのファイアウォール、とっくに破ってるから。 |
今平 | おやじ関係なら完全におさえてる。こっちのシンパだって少なくないのよ。どんな攻撃パターンだって、オッケーよ。 |
橋本 | 渡世上の行きがかりってやつよ。さあ、あねさん、 |
桜沢 | よっしゃー。お待たせしました。明るいのだけがとりえのおやじのみなさん、あなたの時代にピリオドを打ってさしあげます。桜沢幸、行きまーす。 |
稲月 | 女子高生400人、女子中学生250人、渋谷センター街を占拠。彼女達は、私の指揮下にある。稲月優、行きまーす。 |
今平 | ものわかりのいいおやじ達へ、いままでどうもありがとう。実はあなたたちのこと、信じていませんでした。嫌いでした。これからは、私達だけで充分です。今平有紀、行きまーす。 |
矢吹 | 会社のみなさん、お別れです。山本課長さん、かなり好きでした。でも、その優しさは許せないのです。女は、待っていることを幸せとは感じないのです。矢吹歩雅、行きまーす。 |
橋本 | 兄さん、もう限界です。私はこっち側にいます。母さんを大切にしてやって下さい。あの人は何も理解できないと思います。でも、いいんです。兄さんとまた、スズナリに行きたいな。橋本あかね、行きまーす。 |
桜沢 | よし、みんな、行くぞ。 |
浅野 | ちょっと待った。 |
桜沢 | 奥さん |
浅野 | あたしもまぜて下さい。話はすべて聞きました。あたしも、変わろうとしない男どもに、宣戦布告、いたします。 |
茶あ | あたしも。 |
今平 | きゃあ! |
茶あ | 有紀ちゃん。あたしにも参加する資格、あるわよね。あたし、戦うわ。それがたっくんのためなんだもの。 |
今平 | はい。よろしくお願いします(手をつなぐ) |
桜沢 | 誰だか知らないけど、なんか、危ないムードだな。まあ、いいや。よし、じゃあ、始めましょうか。レディー、ゴー。 |
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| 暗転、音楽。 |
| 音楽、変化し、暗やみに浮かび上がる人々 |
| そして、全員が中央に向かって、 |
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全員 | 誰か私を助けてよ。誰か私を助けてよ。逃げられない、止まれない、走れない、戻れない。誰か私を助けてよ。誰か私を助けてよ。何もわからない。何も見えない。何も知りたくない。わかっているのはただ一つ。(正面を向いて)おやじに死を。 |
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| 暗転、幕。 |