先週の水曜日、神奈川に戻って来て、初めて芝居を観に行った。紀伊國屋ホールで行われていた(その日が初日だった)、京楽座の公演『エノケン』だ。作・演出はジェームズ三木、主演は中西和久。タイトルも正式には『中西和久のエノケン』。タイトル通り、エノケンこと榎本健一の話だ。舞台にエノケンが現れ、『エノケン』という芝居をやろうとしている中西和久に文句をつけにくるところから芝居は始まる。もちろん、エノケンを演じてるのは中西で、いくら待っても中西が現れないので(当然だが)、エノケン自身が話を進めていくという構成になっている。あとは、エノケンのひとり語りを中心に、いろいろなエピソードが演じられ、時々、エノケンに関わった人たちの話が入るという流れになっている。もちろん、エノケンの有名な歌の数々も挿入され、中西和久自身がトロンボーンやバイオリンやトランペットや三味線を演奏したりもする。これはなかなか良かった。浅草のカジノフォーリーのダンス、というかレヴューも披露される。美術は妹尾河童。河童さんのあの写実的なイラストで描かれた書割りが、絵本をめくるようにいろいろ変化していくのが楽しかった。
実は、私はエノケンについては結構詳しく、というか、小さい頃から大好きだったのだ。さすがにカジノフォーリーの舞台は観てないが、子供の頃にエノケンの映画(『孫悟空』)を観て、何だこの、小さくて猿みたいな顔でダミ声で身が軽い人は! と、いっぺんで魅せられてしまったのだ。それからはテレビで古いエノケン主演の映画をやるというと観ていたが、まもなくエノケンは亡くなり(昭和45年1月)、その後、堺正章がエノケンを演じたテレビドラマ(『エノケン−私が愛した喜劇王』)を観て、いろいろなエピソードを知り、同時にエノケンについて書かれた本を読んだ。そして、私の第三戯曲集『おとぎげき』(而立書房・刊)に収録されている『眠れぬ夜のアリス』には、劇中歌として、エノケンが歌った歌を替え歌にして使わせてもらった。全部で8本も。ラストは、『私の青空』だ。初演の時、台本が出来る前に替え歌が先に出来、芝居の稽古よりも歌の稽古を先にやって、みんなで楽しく歌ったのが懐かしい。P.E.C.T.の主宰だった(昨年、廃業したという)中嶋浩もいたし、最近あちこちで活躍している七里ガ浜オールスターズの瀧川英次(当時は月光舎だった)もいた。そうそう、この作品で94年に北九州演劇祭に参加したのだし、大阪公演もやった。月光舎で唯一、再々演した作品でもある。ま、ちょっと話がズレたが、とにかくエノケンには特別な思い入れがあるのだ。
そんな私だから、懐かしい思いで『中西和久のエノケン』を観ることが出来たが、芝居そのものは、特にすごいとか、特筆すべきものではなかった。観客も年寄りが多く、まぁ、そういう人たちが楽しむ分にはいいという感じの芝居だった。エノケンが脱疽で脚を切って義足をつけたりするエピソードや自殺未遂をする話は有名だし、それで感動、というまでには至らなかった。エノケンならぬエノケソのエピソードも。いや、作り方次第かもしれない。やはり、ひとり語りの芝居で、エノケンのすべてを見せようというのだから、仕方ないのかもしれない。私がエノケンを描くとしたら(いや実際、エノケンの何かを書きたいと思ったこともある)、誰もが知ってるようなエピソードは省き、一生を描いたりもせず、喜劇王と呼ばれた裏側の、人間・榎本健一の苦悩の部分を描きたいと思う。まぁ、いずれ、といってもいつになるかわからないが。
客席には、初日だったので、永六輔氏はじめ著名人も何人かいたようだが、私は早く帰らないといけないこともあり、ロビーでの初日乾杯にも参加せずに出て来てしまった。いや、実は中西和久さんとは古い知り合いなのだ。もう何年も直接会ってはいないが。
今から15年前、月光舎を結成する前、私はかつての井上ひさし夫人、西舘好子さんが主宰する“みなと座”(今はない)という劇団の制作部の仕事をしばらくしていたことがある。その時に任されたのが、岡部耕大氏が作・演出で夏木マリさん主演の『お侠』という作品。その公演にマネージメントスタッフとして関わり、旅公演も、北海道から最後の伊豆・下田公演までず〜っとみんなと一緒に回ったのだ。亡くなったポール牧さんもいた。その時の旅のノウハウが、月光舎を結成した後の旅公演に生かすことが出来たし、そこで知り合った役者さんたちの何人かとは今でも付き合いがあり、中西さんもその一人なのだ。中西さんは、その後、自分で京楽座を立ち上げ、ひとり芝居を中心に公演を行っている。『しのだづま考』では文化庁の芸術祭賞も受賞した。とはいえ、久しぶりに観に行った今回も、結局、中西さんには会えなかった。次回公演は10月にあるようだから、その時は、ぜひ飲みにでも行きたいものだ。
さて、先週もアキバ校の授業で秋葉原に行ったのだが、この時も、1日は横浜校に戻るのと、もう1日は紀伊國屋ホールに上記の芝居を観に行くので、ゆっくりアキバを探索していることは出来なかった。まぁ、日が長くなってきたので、授業終了後でも、まだ明るい中でアキプラ(銀ブラに引っ掛けたんだけど、そんな言葉ないかな?)出来そうなので、改めていろいろ報告するとしよう!
で、日本ダービーの話。いやぁ、先週の予想通り、皐月賞の上位馬、1着のメイショウサムソン(1着)と2着のドリームパスポート(3着)と青葉賞1着のアドマイヤメイン(2着)が来て、久しぶりの大当たりで3連複は当たったのだが、これが保険で買っていた分で、配当が3.420円だったから、結局、ちょっと損してしまった。勝負馬券は3連単の方だったんでね。いや、3着に、期待していたマルカシェンクが来てくれれば3連単も取れたんだけど! クビ差で惜しかったなぁ! しかし、石橋騎手の2冠達成は、皐月賞の時も書いたけど、素直に嬉しい! こうなりゃ、去年のディープとは違う盛り上がりで、秋の菊花賞では3冠を目指してもらいたい! いやぁ、応援するぞ!
というわけで、いよいよ春のGT戦も残すところ、あと2つ! ディープインパクトが出走する宝塚記念まではあと1ヶ月あるけど、とりあえず来週の安田記念の予想。これはもう、距離が1600mなので、その適性がはっきりしていて、最近調子いい馬を選べば、間違いない! それは、第1回ヴィクトリアマイルを勝った、1600m戦は8戦して4勝2着2回のダンスインザムード、今年のマイラーズカップを勝ち、去年のマイルチャンピオンシップ2着のダイワメジャー、去年の安田記念の勝ち馬アサクサデンエン、去年のマイルチャンピオンシップと香港マイルを勝ったハットトリックの4頭! ただ、安田記念は例年荒れる、つまり高配当になるので、穴馬として、GTじゃないけど1600戦でいい戦績を残しているインセンティブガイとグレイトジャーニーとフジサイレンス、それと、GU中山記念を勝ったパランスオブゲーム、1600mじゃないけど、GT高松宮記念、GU京王杯スプリングカップを勝って調子のいいオレハマッテルゼを入れて、やはり8頭の組み合わせで選ぶ! あと、問題は参戦する外国(香港)馬だけど、要注意は、去年も参戦して4着に来たブリッシュラックだ。当日の様子を見たい。軸にするのはやはり、牝馬とはいえ天皇賞でも3着に来てるぐらい、ここんところ充実著しいダンスインザムードだろう。さぁ、何とかGT戦、連勝したいもんだ! これで、少し休めるし……。
そうそう、今週末には、福岡のFPAPの高崎さんや藍色りすとの太田さんが、fringeの“地域の制作者のための創造啓発ツアー”で東京に来る。久しぶりに会えるので楽しみだ! 最近の福岡の様子も聞こうっと!
(2006.5.30)