極私REVIEW

■青年団「忠臣蔵〜修学旅行編」
作・演出:平田オリザ
@こまばアゴラ劇場 2003.5.25 60人(満員)

青年団の忠臣蔵シリーズ(いま勝手に名づけた)第二弾「修学旅行編」を見た。前に「OL編」が3月にあったが、それは見ていない。なんか、OL編のほうが良かったんじゃないかって思ったが・・・。いや、役者が高校生に見えなかったとかそういうんじゃなくて・・・。

女優7人50分芝居。作・演出:平田オリザ。
2003年5月25日(日)20時の回を観劇。大楽だよ。

なんせストーリーが忠臣蔵。設定は修学旅行。つまりどういうことかと言えば、高校生とおぼしき女子たちが、修学旅行中の旅館の一室で、バカ話に興じていたとき、突然みんなの殿が殿中で刃傷沙汰を起こしたとの報が入った。殿さまったら切腹させられちゃったんじゃん、みたいな。

その後、みんなして、「あたしたちってどうなんの?」「やっぱ討ち入りとかしちゃったりして?」などなどのみーちんぐが開始される・・・。

そのまんまの忠臣蔵です。報を受けてからの45分ぐらいがリアルタイムで進行します。ま、結局、マクラ投げして寝ちまうんですが・・・。

女優さんが奮闘していて楽しめます。思いのほかバトルしていて、いい意味で青年団っぽくないです。かなり普通のテンション芝居です。なので50分じゃ全然ものたりない感じ。2転3転して2時間芝居にもできそう。まあ、普通のミーティング芝居なので三谷の「12人の優しい日本人」を思い浮かべてしまいました。

で、実はすごく不満でした。けっこう笑ったんですが・・・。

だって、会議の議題である選択肢が違うくないですかね。「抗議の篭城をする」「討ち入る」「切腹する」の三つですよ。せっかくいまどきの女子高生やってんだから、この三つはないよなあ、とか思った。『背景』しか借りてないんだもん。

やっぱ選択肢は「先生に言う」(意味ね〜)「プロを雇って吉良さんを暗殺してもらう」(自分じゃやんないよ)「同じ吉良嫌いの藩と組んで抗議する」(一人じゃやんない)とか・・・。

「討ち入りする」なんて言ったら絶対にシカトされるよね。「ばっかじゃないの」とか。「あだ討ち」なんてだっさ〜い。

まあ、最終的に「やっぱ討ち入り?」みたいな結論に達するわけですけど。

そういうとこまで目指した企画じゃないのでしょうけど、せっかくなんで、そこまでやって欲しかった。すごく違和感あったもんなあ。


やっぱ、つらつら考えるに、なんかもったいなかったような・・・気がするもんです。

時代劇だって現代の「反映」ですから、「忠臣蔵」をそのままやっても、現代社会の組織論とかを反映させることができます。見てないけど、「たそがれ清兵衛」ってソレだったんでしょ。

で、見てない「OL編」はウワサでは会社という組織をベースとした会社に属するOLたちの葛藤、みたいなのがうまく表現されていたとか。確かにずっとわかりやすかったんでしょう。

で、「病院編」(きっと看護婦と院長との関係だよね)、「ミリタリー編」(兵士だよね)とかも「組織」ですから理解できます。なので、あんまり見る気しない。ですけど、「修学旅行編」は別です。「女子高生」は組織なのか?みたいなとこから問われますもんね。学校には属しますけど、でも所属意識ないでしょ。それゆえに、「あだ討ち」という結論に至る過程には、どきどきさせられると期待しましたが・・・。

いや、かなり笑ったし、かなり楽しみました。でも、それってなんか、「コント」的な楽しみ方だと感じた私。「コントのどこが悪い!」と怒られそうですけど。

平田オリザなら、きっとやってくれると思ったんですけどねえ。

いずれにしても、一つの作品について、深読みしてこその観客ですから、いまだに引っ張ってます。例えば、「あだ討ちってテロ?」という点。テロじゃないと思う。でも、「幕府を困らせる」というのはテロだよね。あと、「あだ討ち」は「報復」か?

なこと考えるのも、「時代」なんでしょうねえ。


−−−>カノンさま

>どこかで現代の学生とシンクロする部分があったらもっと
>興味深く見ることができたのでは?と考えました。

ほんとですよねえ。企画としての面白さは疑いようのないものだと思いますが、せっかくいろいろなバージョンをやるのだったら、その登場人物たちと「組織」との関係をきちんと描かないと、なんか、もったいないような気がします。今後、帰属意識の強い組織バージョンが続きますが、みんな同じになっちゃって、小ネタだけ楽しい、みたいのになっちゃうんじゃないのか、それでいいのか!なんて思います。

たとえば「国際問題編」です。

私達のお殿様であるところのコイズミ君が、国民のみなさまの大多数の意志を尊重し、ブッシュ君のおでこをひっぱたいたとします。「いいかげんにせぃ!」とか言って。その結果、国際的に大ピンチになっちゃうわけですよ、この国は。当然私たちは「なんてことをしてくれるんだコイズミは!」とか憤りを感じますよね。「国益っつうのを理解してるのかぁ」とか。

本来、国に対する帰属意識が希薄であるのが私達の特性です。しかし、お国のために、とお考えの一部のみなさんは苦悩なさるでしょうから、そいつらで描くことは可能です。一方、戦争反対、のみなさんはどう対処なさるのでしょうか、なんてのも楽しいでしょう。ひっぱたいたことに喝采を送ったやつらの、その後の豹変振りは・・・(豹変するのか?)。

なーんも考えていないコギャルだっています。この場合、コギャルってのは今回の女子高生と一緒で「記号」ですよ。「コギャルで国粋主義」なんてのはいるかもしれんが認めんぞ。さて、どうするんでしょうか・・。

「忠臣蔵」ってのはこの国のベーシックなところを突っついている作品ですので、現代の国民性と「忠臣蔵」との「距離」を検証するシリーズとして、この青年団の企画が続いてくれればいいと思うのでありました。すごく大変だけどね。


■またこんなことになっちゃった。毎度のことだが。えんぺってすぐ「討論」になるからなあ。観客同士が討論するのって、意味ないように思えてならない。目標は「コミュニケーション」なんだが。「1対1の場」じゃないし。

■徳永さんはキッパリと、『はたしてオリザ氏の戯曲の中にそういった「記号」が、記号としての役割を持って登場したことがあったでしょうか?』と言い切ってます。これはディベートの技術としては見事な発言ですね。思わず立って拍手してしまいそうになります。んでも、本来いろんな解釈があるものを断言されて勝ち誇られても、困惑してしまいます。「あったんじゃないのかなあ?」なんて答えるのはディベート技術的にはダメダメだし・・・。

■ってゆうか、ディベートをしたいわけじゃないんで。

■私の場合、徳永さんという人は、ニフティ時代から知ってるので、「出たなあぁ!」ぐらいのものなのですが、やっぱ観客を意識して、そのご意見にはきちんと対応しないといけないとか思うから、すっかり疲れ切ってしまいます。「1対1の場」じゃないし。

■私がしたいのはコミュニケーション。見た作品について「面白かった」「つまらなかった」だけで終わるのはもったいないと思えて。確かに「一行レビュー」は情報として優れています。しかし、どうなんでしょうかねえ。一つの作品を見て、いろいろ思ったことを言い合うコミュニケーションは、飲み屋の席なら有効でも、「ネット」とは合わないんですかねえ。あるいは、賛同者同士が集まっている場でやればいいのでしょうか。

■つっても、いろんな人間が自説を披露しあうことが面白い場となった例を知っているので、問題は「ネットとの親和性」じゃないとも思ってるんですが。

■以前、ここで議論になった宮沢章夫氏の芝居について、作品世界が「伝わっていない」と感じたのです。作品の一面のみを見て、「つまらん」と判断されていると。それが悪いということではありません。ただ、もしかすると別の面があるのに知らずに判断しているのは、「もったいなくないか?」と思ったもんで。余計なおせっかいですが。

■しかしなあ、上演時間50分の「忠臣蔵」について言うなら、私はアゴラ支援会員制度を利用しているので、500円で観劇しているわけです。にもかかわらず、私はずいぶんと注文を出しているものです、はい。もともと「静かな演劇」が嫌い、というベースがあるんですが、すべての「静かな演劇」が嫌いというわけじゃなくて、「面白い静かな演劇」は好きです。そのうえ平田オリザ氏のことは、かなり尊敬しています。ってゆうか、ミーハーなファンです。特に「顔」の。

■ぶっちゃけ、平田さんに聞けばいいんですよ、作品のことは。毎日劇場で終演後にやってる打ち上げがあるわけですから。「意図はなあに?」と。答えを求めるのならね。えんぺで可能なことは、作品の解釈を広げるコミュニケーションだと思っているんです。観客同士での討論には、どうしても意味を見出せないんです。すみません。

■私は平田さんが言うように「観客を育てる」ことはできません。その必要を感じてはいますが、私の仕事じゃないと思ってます。ただ、かつてネットという場で、勝手に育っていった例を知っています。育っちゃって巣立っちゃった例を。おやじギャグですみません。あのとき、「別の解釈」が面白いと感じていたのですが、それを「敵対する意見」と考えることは避けられないのでしょうねえ。疲弊するだけだよなあ・・・。

■ほんと、わかりやすくない芝居のほうが面白いと思うもんですから、それゆえに伝わっていないのを見ると、「もったいない」と思ってしまいます。あるいは、「わかりやすい面」だけしか伝わっていない場合も。そういうのを飲み屋以外の場で補完するのは、難しいんでしょうかねえ。

■あきらめました。

■次に見る予定の芝居−−>岩松了、五反田団


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