極私REVIEW

岩松了プロデュース「傘とサンダル」2003/5/27〜6/8
@下北沢ザ・スズナリ 前3400円(全席自由) 当3800円
作・演出/岩松了 出演/戸田昌宏、他 1:35'
(2003/6/6夜を観劇)

私はかなり楽しかった。素晴らしかった。ほんと、いまだに引きずっているもの。やっぱ岩松はすごいよ。

えんぺの一行レビューでは、思ったほど評判が良くなかったわけだ。特に役者に対する不満が聞かれていた。・・・そうかなあああ。(わかるんですけどね)

岩松了プロデュースは5年ぶりらしい。かつて有薗芳記と広岡由里子による「スターマン」(91年)で観客に論争をまきおこし(「スターマン」は戸田昌宏・中込佐知子で98年再演)、92年と94年に上演して話題となった「アイスクリームマン」では群集芝居の面白さを示してくれた。そのことは若手のいくつかの劇団に大きな影響を与えたと言える。

毎回、クオリティの高いものを見せてくれていたが、近年の岩松さんは「竹中直人の会」と映画・映像の人となっていた。「竹中直人の会」は最初こそ2800円(91年)ぐらいだったが、すぐに4000円ぐらいになっちゃって、もう手が出ない・・・(それでも95年ぐらいまではガッツで見ていたけど、最近は5500円・・・)。

もう4年ぐらいつきあいのある25才の役者が今回の「傘とサンダル」を先に見て、「ぜったいに見てくださいよ、すごいですから。」と熱く語っていた。「んなもん、言われんでも見るわい」と思った。「だいたい、岩松が面白いのは知ってるわい」とも。ほんと久しぶりなんで、私は楽しみにしてたんだから。3400円だし。

当日パンフを見て、岩松了プロデュースが5年ぶりだと知ったのだった。で気づいた。前述の役者は岩松了を知らないのだった。すごくショックだった。「竹中直人の会」も見ていないんだと。が〜ん! どうりで演技について話しても、コトバが通じなかったわけだよ。

岩松了の芝居には「芝居の基本のすべて」が入っていると思う。だから、もしかするとお客さんより、芝居をやってる人間のほうが刺激を受けるのかもしれない。演技と演出とホンの水準が高いんだから。もちろん、役者への岩松の要求は高く、一人一人を取れば未達の役者もいる。しかし、最初っから「竹中直人」を要求しているわけじゃないし、今回の水準は十分なものだと思う。群集芝居だし。というか、戸田さんは素晴らしかったし、青木姉(中込佐知子)の芝居は、ほんとムカつくぐらいに嫌なやつを見事に演じていた。さらには、カウンターに座って行う青木姉とまりあとの激突の不条理会話は、ちょっとやそっとじゃ見れないようなすごさだった。あれは、そこいらの役者にゃできません(キッパリ)。見ててめまいがしてしまったよ、すごくて。

再スタートの1回目でこれだけの水準をやれたというのは「奇跡」と言ってもいいと思う。期待が大きかったのに、おつりがきたもんね。確かに「竹中直人」はいなかったが、竹中直人芝居をやりたいのなら、少数精鋭の「竹中直人の会」でやればいい。群集劇は岩松プロデュースでやるのだ。それでいいのだ。

思ったんですよ。いい企画だなあって。というか、こういう企画を年二回ぐらいやってもらわないと、若手の演劇やってる連中がバカになっちゃうよ、って。わかりやすいウンコみたいな芝居を見て、元気ハツラツの健全なものばかり作るようになっちゃったら、そりゃやばいって。いや、ウンコ嫌いがいるのは知ってるから、それほどは心配してないけど、それでも岩松プロデュースが刺激してくれることの意義は大きいと思う。どっかに太っ腹なスポンサーがいて、せめて3000円で年2回、やってもらえないものでしょうか。せつに願います。


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