映画市場


〜97年の「もののけ姫」の衝撃をどう受け止めるか〜


現在動向
 〜1997年興行収入1,800億円(前年比19%増)〜


我が国映画市場は、かつての黄金時代の面影はなく、特に邦画に関しては長い冬の時代が続いている。映画入場者数のピークは1958年の11億人。今はその10分の1であり、1996年は1億2千万人弱となっていた。
ところが、1997年は「もののけ姫」が記録破りの大ヒットとなった。宮崎駿監督作品として「最後」という触れ込みで、前宣伝の効果が大きく、また、それまでに良質な作品を生み出してきた宮崎監督とスタジオジブリの実績もあり、大ヒットへとつながった。1997年の入場者数は前年比17.6%増の1億4千万人となっている。

映画市場を述べるのに、アニメの話しばかりになるが、世界的にみても、日本のアニメは高い評価を受けている。TVアニメの評判はもともと高く、アジアやヨーロッパでは高い地位を得ている。ディズニーの本拠地であるアメリカでは、画質の面でローコスト生産の日本アニメに対する厳しい評価が存在したが、それでもジャパニメーションという言葉があるように、その存在は良く知られていた。そして押井守監督のアニメ映画「甲殻機動隊」がビデオチャートで全米一位(ビルボード誌)を獲得するなど、映画作品として作られたものでも認められるようになっている。
押井作品の成功は、劇場用アニメとして作られたものが、他の媒体としても「輸出」できることの可能性を広め、次の作品へとつながっている。「もののけ姫」はディズニーの配給により世界マーケットに提供される。これらのことのインパクトは大きく、2000年公開の押井作品「G.R.M.」や大友克洋作品「STEAM BOY」の期待が高まっている。(いずれも(株)バンダイが中心となって製作)
このようにアニメが好調であるのに対し、劇映画の分野は低調であると言わざるをえない。周防正行監督作品の「Shall weダンス?」が話題となり、アメリカでも公開されるに至ったが、ハリウッドに対してインパクトを与えてはいない。

一方、アメリカの映画産業はいかがであろうか。次々頁に日米の比較を載せた。アメリカでヒットした映画は必ず日本でも上映され、洋画の人気が高いのが我が国の現状である。それでも一人当たりの映画鑑賞回数が年1回程度の日本に対し、アメリカは5回にも上る点は大きな違いと言えよう。映画を見、語ることに対しての意味が日米では違うのである。我が国でも、大人から子供までが、映画について語れることが普通のことにならねばなるまい。どんなに忙しいビジネスマンでも、「タイタニック」ぐらいは見ておいて愛や命について語る、という社会になれば我が国の映画産業も発展するだろう。

このことは、衛星放送が多チャンネル化となったり、ビデオオンデマンドが実現した時に、映像ソフトが重要なコンテンツとなると期待されているわけだが、映画を日常的にたくさん見るという習慣がなければ、大きな需要は生まれない。我国の国民が映画が嫌いなわけではない。映画について語られる環境がないのが大きい。
しかしながら、日本でも北野武監督や金子修介監督といった才能と話題性のある創り手が登場してきている。バンダイのような、バックアップに対する取り組みを真剣に行う企業が数多く現れれば、事情は変化してくると予想できる。
その意味で、「もののけ姫」が大ヒットし、アニメとは言え映画に注目が集まっている現在、洋画の「タイタニック」のこれまた大ヒットが続き、映画を取り巻く環境はいい方向に向かっていると言える。この機を大切にしなければならないだろう。21世紀に向かって、千載一遇のチャンスが今、到来しているのである。

2010年予測
 〜大ヒットは生まれるだろう、しかし、映画産業は縮小する?

我国の映画が「興行」として位置付けられている限り、アメリカ映画「産業」には及ぶべくもない。映画製作がシステム化されているハリウッドに学ぶべきものは多いが、事実、ハリウッドを意識してシステム化に取り組んでいるのは、アニメ業界とテレビゲーム業界だけのようだ。
我国映画産業には、配給制度の問題も少なくない。しかし、独立系の映画が注目されたりして、その後、大規模公開が決まる例も見え出している。変化の兆しはある。
映画製作のインフラの違いも大きい。ハリウッドでは、SFXからロケに至るまで、製作をフォローする技術が確立している。我が国のロケに対する規制の問題も大きい。
このようなことを踏まえて2010年の映画産業を予測してみるが、映像作品に対するニーズは高まるとは思うが、映画興行自体の観客動員が伸びるとは予想できない。
映画という「文化作品」を観客動員という点からのみ論じることが悪いことであるかのような論調もある。しかし、ハリウッドを見るまでもなく、エンタテインメントの一翼を担うのが映画であり、映像産業である。映画がヒットすれば、その作品は二次・三次と利用が可能となる。キャラクター商品の売上も莫大なものとなる可能性がある。その意味で、良質の作品を生み出すシステムを構築することの重要性は少なくないのである。
現在、シネマコンプレックスという複合施設が注目されている。複数の映画館を含めた複合施設。映画とアミューズメント施設の同居である。映画がエンタテインメントとして娯楽産業であるなら、他の娯楽と一緒になり、休日の一日を過ごせる場を提供することは、意味のあること。客単価を高める効果もある。今後、映画は単体で提供されるのではなく、他の施設と合わせて遊ぶものとなるかもしれない。親子でスターウォーズを見た後、宇宙シューティングゲームをし、宇宙船旅行シミュレーションの乗り物に乗り、宇宙開発のドキュメンタリービデオを見、そして家に帰ってインターネットでNASAにアクセス、というのは一つの遊び方かもしれない。映画自体の位置は小さくなる。しかし、映画が最も娯楽性の高いエンタテインメントソフトであることは確かである。

映画市場とデジタルネットワーク
 〜映像ソフト製造技術はデジタルネットワークの重要技術

映像ソフトの供給産業が存在することの意義は二つある。映像ソフト自体がネットワークコンテンツとして重要な存在であることと、映像ソフトクリエーターの技術が産業の様々な分野で活躍することが予想されることである。

マルチメディア時代というのは、とりもなおさずビジュアル化の時代である。電話や文字の媒体に映像が載ることである。いつでもどこでも映像つきの情報が取得できる時代。ビジュアル化の技術が問われる時代となる。映画やビデオ作品の繁栄は、映像化技術に対するニーズを高め、あらゆる産業の最も基礎となる可能性があるのである。

映画館での鑑賞だけでなく、ビデオ、テレビなどを通じ、映像作品について多くの人が語る時代が来れば、総合的な意味でマーケットが拡大し、ビデオオンデマンドなどの市場も立ち上がることになるのだろう。ネットワークを通じて映像ソフトが配信され、それに対する感想や批評がネットワークと通じてやりとりされる。映画館の大画面で見ることの意味も語られ、また、デートムービーの存在も高まる。映画というオフラインメディアは、ネットワークに乗ると、ビデオや放送ソフトと変わらないものとなる。その意味で、オフラインであることや巨大スクリーンに対する付加価値を付けることは意義ある事とはいえ、難しい時代となろう。それでも、コンテンツを見たかどうかが問われる時代となれば、マーケットは拡大する。環境を作る工夫が求められよう。