| 核戦争後の世界。砂漠化した街を一人歩いている。ずっと誰にも会っていない。女の名はモモ。 |
| 人類は、ほとんど死に絶えてしまっている。生き残っているのは、自分一人、なのか…。 |
| |
| 立っている女は、ミカ。彼女もまた、ずっと誰にも会っていない。その日、二人は出会う。 |
| |
| 舞台上に二人、お互いを意識している。が、コトバが出てこない。しばし沈黙があって、 |
| |
モモ | あの… |
ミカ | えっ。 |
モモ | あの、 |
ミカ | はい? |
| |
| 沈黙 |
| |
モモ | えっと、 |
ミカ | ええ。 |
モモ | ウンコが… |
ミカ | えっ? |
モモ | ウンコがでないんです。 |
ミカ | (納得して)ああ・・えっ? |
モモ | ですから、ウンコがずっと出ないんです。けっこう食べてるんですけどね。 |
ミカ | そうですよね。 |
モモ | どうしてなのかわかりません。あの日以来、一度も出てないんです。 |
ミカ | そうですか。 |
モモ | あ、すみません。突然こんなこと言って。 |
ミカ | わたしもです。 |
モモ | えっ? |
ミカ | わたしも出ないんです。 |
モモ | 出ないんですか? |
ミカ | 出ないんです。 |
モモ | ぜんぜん? |
ミカ | まったく。 |
モモ | それはそれは。 |
ミカ | はい。 |
モモ | そうですか。 |
ミカ | ぜんぜんです。 |
| |
| 沈黙 |
| |
モモ | あれですかね。 |
ミカ | そうですね。 |
モモ | なにかが起きたんですね。 |
ミカ | そうです。 |
モモ | なんでしょう。 |
ミカ | なんでしょうねえ。 |
モモ | なにかとんでもないことでしょう。 |
ミカ | とんでもないことです。 |
モモ | すごいことです。 |
ミカ | 予想もできないような。 |
モモ | もう戻れない。 |
ミカ | 戻れません。 |
モモ | おしまいです。 |
ミカ | おしまいです。 |
モモ | おしまいです。 |
ミカ | おしまいです。 |
| |
| 沈黙 |
| |
ミカ | でも、もう誰もいないのかと思ってました。 |
モモ | はい? |
ミカ | 私、誰にも会っていなかったんです。 |
モモ | ええ。私もです。 |
ミカ | 誰にも会えないかと思ってました。 |
モモ | 私も。 |
ミカ | もう誰もいなくなっちゃったのかと |
モモ | 一人ぼっちかと |
ミカ | 地球上に、たった一人かと |
モモ | ええ、そうです。 |
ミカ | そしたら、あなたがいた。 |
モモ | ええ、いました。あなたもいた。 |
ミカ | いました。 |
モモ | 二人いた。 |
ミカ | 二人。二人ともウンコは出ないんですけど。 |
モモ | でも、二人です。 |
ミカ | 二人です。 |
モモ | よかった |
ミカ | よかった。 |
| |
| 沈黙 |
| |
モモ | ウンコのことはいいんです。 |
ミカ | ええ。 |
モモ | 世の中には、ウンコよりも大切なことがある。 |
ミカ | ありますかね。 |
モモ | ありますよ。 |
ミカ | 大切ですか? |
モモ | たとえば食べることです。 |
ミカ | 食べることがですか。 |
モモ | 食べることは大事でしょう。 |
ミカ | それはどうでしょう。 |
モモ | 大事でしょう? |
ミカ | そうですかねえ。 |
モモ | だって、食べなかったらどうなります。 |
ミカ | ウンコは出ないんですよ。 |
モモ | そりゃそうですけど、でも、食べなきゃでしょ。 |
ミカ | 別に食べなくても |
モモ | 食べなきゃダメでしょ。 |
ミカ | そうでもないですよ。 |
モモ | ダメですよ食べなきゃ |
ミカ | いいじゃないですか、食べなくても。 |
モモ | ダメですダメです。食べなきゃ、 |
ミカ | 食べないとどうなるっていうんです。 |
モモ | どうもこうも、食べなきゃおしまいでしょ。 |
ミカ | 何も終わりませんよ、別に、そんな |
モモ | 何を言ってるんですか。食べなきゃダメなんですよ。だってそうでしょ。食べないなんて、おかしいじゃないですか。 |
ミカ | いいんですよ、べつに。食べなくたって。ウンコ出ないし。 |
モモ | それは… |
| |
| 沈黙 |
| |
ミカ | さっき、ドラえもんの首が落ちてました。 |
モモ | えっ! |
ミカ | 青いきれいなものが見えたんで、拾ったんです。そしたら… |
モモ | ドラえもんの首が、落ちていたんですね。 |
ミカ | そうです。どこが首か、なんて聞かないでください。このあたりから上です。頭です。 |
モモ | 胴体は、どこにいったんでしょう。 |
ミカ | どっかに落ちているんですよ。 |
モモ | あるいは焼けちゃったか。 |
ミカ | 蒸発しちゃったか。 |
モモ | 引き裂かれちゃったか。 |
ミカ | 切り刻まれちゃったか。 |
モモ | バラバラにされて |
ミカ | こなごなにされて |
モモ | 消えてしまった |
ミカ | 消えてしまった |
モモ | 私はピカチューの方が好きです。 |
ミカ | 私はカミナリは嫌いです。 |
モモ | カミナリよりはおやじでしょう。 |
ミカ | これでもコギャルだったんですよ。 |
モモ | いい商売になったんですね。 |
ミカ | 儲かりましたよ。 |
モモ | それでブランドものです。 |
ミカ | シャネラーですよ。 |
モモ | ナンバーファイブ |
ミカ | 五番街のマリーです |
モモ | マリーアントワネットですね。 |
ミカ | オスカルさま |
モモ | ギロチンです |
ミカ | ちょんぎったんです |
モモ | 首の切れ目が |
ミカ | 金の切れ目 |
モモ | 世の中金です |
ミカ | 欲しいものは欲しいんです |
モモ | 保険金でもせしめましょう |
ミカ | ライバルは蹴落としましょう |
モモ | 親子だろうが |
ミカ | 夫婦だろうが |
モモ | 愛があれば |
ミカ | 年の差なんて |
モモ | 土地があれば |
ミカ | 顔の差なんて |
モモ | そして明日、首を吊ろう |
ミカ | そして明日、首を吊ろう |
| |
| 沈黙 |
| |
モモ | 他には誰か、いるんでしょうか。 |
ミカ | いるでしょう。 |
モモ | 探しにいきましょうか |
ミカ | 探しにいきましょう |
モモ | きっと誰かいますよね。 |
ミカ | いますよ、きっと |
| |
| 二人、動かない。暗転。 |