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| 賢弥登場(階段上から) |
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賢弥 | 史朗ちゃんおはよー。 |
史朗 | おはよー。 |
賢弥 | あ、あけみさん、おはようございます。 |
あけみ | おはよ。 |
賢弥 | ずいぶん、早いんですね。くっそー、オレ一番だと思ってたのに。 |
史朗 | 今日は、オレの勝ちぃ |
賢弥 | いよいよですよ、いよいよいよいよ。知華子は何やってんだか。 |
史朗 | 賢弥くん、落ち着いてよ |
賢弥 | これが落ち着いていられますかって。 |
史朗 | 段取り、大丈夫なの? |
賢弥 | 大丈夫に決まってます。 |
史朗 | とか言ってとか言ってとか言ってぇ、絶対にミスするもんなあ。 |
賢弥 | なにを言うか。今回は、完璧です。 |
史朗 | いや、賢弥くんに完璧の文字はない。 |
賢弥 | 完璧です。 |
史朗 | 完璧って字、書けるか? |
賢弥 | 完全なペキでしょう。 |
史朗 | ペキってなんだよ、ぺきって。 |
賢弥 | ペキはペキですよ。う〜ん、ぺきっ! |
史朗 | かわいく言ってもだめですぅ。 |
賢弥 | (もっとかわいく)ぺきっ |
史朗 | (も、かわいく)ぺきっ |
賢弥 | (力強く)ぺきぃ |
史朗 | (荒荒しく)ぺきん |
賢弥 | べきっべきべき。完全なべき。どうだっ。 |
史朗 | べきってなんだよ。どこがべきなの。 |
賢弥 | わかりますよねえあけみさん。 |
あけみ | わかりません。 |
賢弥 | だから、あれですよ。ぺきはカベですよ。 |
史朗 | おっ、 |
賢弥 | 城壁のへき。完璧だから、じょうぺき。完全なじょうぺき |
史朗 | じょうぺきって・・・ |
あけみ | カベじゃないですよ。 |
史朗 | えっ |
賢弥 | カベじゃないんだよ、わかってないなあ史朗ちゃん |
史朗 | だって、こういう字だろ(とあけみに) |
賢弥 | (割って入って)絶壁! 潔癖! |
あけみ | 似てるけど、カベじゃないんです。こう、下に土じゃなくて、玉を書くんです。 |
史朗 | 下に玉を書く |
賢弥 | 下に玉を書く |
あけみ | ええ。 |
賢弥 | 下に玉を書く・・・も、もう一度、言ってください。 |
あけみ | 下に・・・ |
賢弥 | あけみさんって、そんな人だったんですね。 |
史朗 | オレは、人前ではかけない |
賢弥 | (あけみに)かいたんですか・・・自分のじゃないですよね |
史朗 | バカ言うな |
賢弥 | (史朗に)じゃ、誰のですかぁ。(あけみに)誰のですか。 |
あけみ | 壁の下の玉です。 |
賢弥 | かべの・・・うん。えっと、知華子遅いですね。 |
史朗 | おい、終わりかい。 |
賢弥 | よくわからないんで。 |
史朗 | なんだよー。 |
賢弥 | 疲れてるんです。 |
あけみ | 泊まったの? |
賢弥 | はい。いろいろやってたんですけど…シゴトは完璧です。 |
史朗 | 完璧って字、書ける? |
賢弥 | ・・・書けません。 |
あけみ | 頑張ってよ。最後は賢弥くんの仕事次第なんだから。 |
賢弥 | はい。はいはいはい。頑張りました。 |
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| 突然、ヤスが舞台奥から走りこんできて、そのまま階段を上がって去る |
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ヤス | (走りながら)急にスカパーの国会テレビが来ました。追い返します。すみません。連絡なかったと思うんですけど。スカパーの国会テレビなんて誰も見てねえっつうの。あ、ADは全部拉致しました。トラックに載せて、NHKに捨ててきます。 |
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| ヤスが去って |
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史朗 | 賢弥くん、マシンガン、大丈夫だった。 |
賢弥 | はい。あけみさんって、落ち着いてますよね。オレなんか、もう、興奮しちゃって、大変です。 |
あけみ | 落ち着いてよ。今日は一日、長いんだから。 |
賢弥 | どうすりゃ落ち着くんでしょうかね。やっぱり、人という字をこうやって飲むんですかね。 |
あけみ | そんなの利くわけないでしょ。やったことあるの? |
賢弥 | さっきからやってるんですけど、全然、ダメなんです。 |
史朗 | 賢弥くん、マシンガン? |
賢弥 | 人を飲むとか言うの、こじつけですよね。だいたい、別に人前でしゃべるってわけじゃないんだから、関係ないですよね。だったら、何が利くんでしょうかねえ。SPの2〜3人ぐらい、どってことないんですけどね。前にいるやつを、こうやって、首に一発でしょ。そんで、左のやつは、ヒジで当てておいて、右のやつの腎臓に正拳で、とにかく声を出させないワザは、速さと正確さですから、で、倒れる音も立たせないためには |
あけみ | 賢弥くん、マシンガンは問題なかったの? |
賢弥 | 心配してくれてるんですか? 大丈夫です。半分は動きます。 |
あけみ | 大丈夫かなあ。 |
賢弥 | じゃあ、あけみさん、チェック願います。 |
あけみ | チェック? |
賢弥 | はい。全身、チェック願います。 |
あけみ | わかった。ちょっと見てきます。(去る) |
賢弥 | (追って)あけみさーん |
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| 賢弥とあけみ、去る |
| 残された史朗、ビデオテープをセットする |
| スクリーンに、「ニュースステーション」の映像、映る |
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| 映像の中の史朗、語る。 |
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| 「そうですね。今、全国に78になります。3年前にここ、渋谷に最初に作りました。中学生向けのビジネススクールってのは、最初はフリースクールみたいなもんに見られましたけど、学校に行ってる子もすぐに増えました。最初は確かにいわゆる登校拒否の生徒が多かったんですけど。作って2ヶ月後に始めたネットビジネスがPCベンダーの注目を集め、大きな資金の調達ができました。ええ、1年前にアメリカのナスダックに株式公開しました。昨年から始めた携帯電話向けのJAVAコンテンツ事業も、ナップスター型コンテンツ配信事業も順調です。 |
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| 生徒達は、今、2500人ほどですが、ほぼ全員が起業したか、起業に向けて準備しています。もちろん、何人かでグループを作って、バーチャルカンパニーとして動いている子もいます。一人が何人かと組んでいますので、プロジェクトの数は2000以上が動いています。中学生と高校生です。経営の面で一部、僕達の世代が関わってますけど。」 |
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| ビデオ、終わる・・・沈黙 |
| 賢弥とあけみ、戻ってくる |
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賢弥 | 完璧ですよ、完璧 |
史朗 | えっと…知華ちゃんってもう来てる? |
賢弥 | 知華子は上で、ネットでビジネススクールの支部長と打ち合わせしてました。今ごろ、何やってんだか。 |
史朗 | ちょっと見てくるね。 |
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| 史朗が階段を上っていく。階段の上からヤスが降りてきてすれ違う |
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ヤス | あ、史朗ちゃん、タカちゃん見ませんでしたか。上に爆弾が落ちてるんですけど。 |
史朗 | たぶん、副調整室。(去る) |
ヤス | わかりました(舞台奥に去る) |
あけみ | (史朗を見送って)史朗さん、やっぱり緊張してるわね。 |
賢弥 | いえ、オレ、だいぶリラックスしました。やっぱ、あけみさんと話してると、落ち着きます。なんででしょうねえ。 |
あけみ | 私って、のん気だから。 |
賢弥 | いや、違いますよ。あけみさんは、人を落ち着かせるアレがあるんですよ。いやしい系。 |
あけみ | 癒し系ね。 |
賢弥 | はい。史朗ちゃんも言ってました。いやらしさってのは必要だって。スケベ根性って人として重要なんだって。 |
あけみ | 賢弥くん。いやしいといやしといやらしいは、別のものなのよ。 |
賢弥 | 難しいですね。でも、大丈夫ですよ。オレ頑張りますから。 |
あけみ | 頑張ってね。 |
賢弥 | はい。機動隊だろうが、自衛隊だろうが、負けません。あけみさん知ってますか。俺らの武器って、自衛隊より上なんですよ。 |
あけみ | まあ、そうでないと戦えないもんね。 |
賢弥 | 大変だったんですよ。出どこは確かです。コロンビアです。メデジンカルテルとか、あのあたりらしいんです。まあ、よく知らないんですけど。問題はやつらも初めて作ったんで、ちゃんと動くかどうか。 |
あけみ | 大丈夫なの? ケータイがちゃんと動かないと |
賢弥 | ケータイの方は違います。あれはタカちゃんたちが作ったやつです。そうじゃなくて、銃火器のほうです。まあ、発砲しなくてすむとは思うんですけど。 |
あけみ | うん。そうよね。撃ち合いは避けないと。 |
賢弥 | はい。犠牲は、最小限にとどめます。死ぬのは、最小限に… |
あけみ | やだ、賢弥くん、何考えてるの。だめよ、勝手なこと |
賢弥 | あけみさん、オレ、口惜しいです。もうちょっと早くあけみさんと知り合っていたら |
あけみ | 賢弥くん |
賢弥 | いや、やっぱり最後かもしれないんで、言わせてください。オレ、あの、初めてお会いしたあの日から、あの、覚えてますか、オレの面接はあけみさんだったんですよ。運命を感じました。オレのいやらさられは、この人だって思いました。いやし系ですよ。いやらさられなすったのです。いや、俺がなすったのです。いやらしかったんです。いや、いや、いやならいいや、いや、いやしいなら、いやせ。あけみさん、オレ、何を言ってるんですか。 |
あけみ | たぶん、わかったと思う。 |
賢弥 | うそっ。 |
あけみ | 言いたいこと、わかったわ、たぶん。 |
賢弥 | ほんとですか。じゃ(と、服を脱ぐ) |
あけみ | えっ? |
賢弥 | 早くしないと、みんな来ちゃう。 |
あけみ | 賢弥くん、たぶん、そこまでは言ってないと思う。 |
賢弥 | うそ。じゃ、どこまで。先っちょ。 |
あけみ | そうじゃなくて。 |
賢弥 | 今しかないんです。オレ、たぶん、これが終わったら。 |
あけみ | ごめんなさい。他に好きな人がいるんです。 |
賢弥 | はい? |
あけみ | ごめんなさい。 |
賢弥 | ぺきっ |
あけみ | これからもいいお友達でいましょうね。 |
賢弥 | 完璧が。 |
あけみ | いつもいつもプレゼントありがとう。 |
賢弥 | モスグリーンのパンティ |
あけみ | お寿司、ごちそうさま。 |
賢弥 | うに。 |
あけみ | 友情、それは永遠においしい |
賢弥 | 自衛隊出て来い。殺す。はじから順番に殺す。ななめに殺す。友情なんて信じない。くそー。 |
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| 知華子、登場して |
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知華 | お兄ちゃん、服着てよね。 |
賢弥 | あ、うるせー、おまえ、もたもたしてないで、とっとと7人目、やっちまおうぜ。 |
知華 | 何言ってんの。服着なよ。あけみさん、すみません。 |
あけみ | ま、今日は特別の日だからね。 |
賢弥 | 最後の日だ。知華子、X-DAYだな。 |
知華 | うん。 |
賢弥 | 生徒の方は、大丈夫か。 |
知華 | 札幌校と、富津校でトラブルがあったけど、なんとか。 |
あけみ | どうかしたの。 |
知華 | あ、大丈夫です。生徒が、サーバーに隠しコマンドで痕跡を残してたんです。全部消去しないと自分たちも責められるってのに。 |
あけみ | 全消去ってのは、つらいんでしょうね。 |
知華 | でも、ここと完全に分離しないと、 |
賢弥 | それは、結果がどうなっても、ダメなのか。 |
知華 | うん。英雄にはなれないのよ。 |
賢弥 | 絶対に? |
知華 | 絶対。最後には、私たちは追われるべきなんでしょ。 |
賢弥 | だけど… |
あけみ | ま、後でわかるでしょ。最悪の場合を想定しておくというのが史朗ちゃんの考えだから。 |
賢弥 | でも、なにもみんなが責められなくても。 |
あけみ | だめよ。賢弥くん一人につらい思いはさせないわ。 |
賢弥 | あけみさ〜ん。知華子、お前、目をつぶってろ。な。子供が見るもんじゃない。な。 |
あけみ | 賢弥くん、あの、あたし、ちょっと史朗さんと打ち合わせしてくるんで、知華ちゃんに学校のこと確認しておいてね。 |
知華 | 学校の方は問題ないですよー。 |
あけみ | 富津の三田園くんって、知華ちゃんのこと追っかけてた子でしょ。大丈夫なの? |
賢弥 | なんだよ、それ。 |
知華 | なんでもないよ。 |
賢弥 | なんでもないわけないだろ。追っかけてるってのは、追っかけてるんだろ。 |
あけみ | 朝までチャットしてたでしょ。 |
知華 | だって、アイツ、バカなんだもの。 |
あけみ | そういう悩みはね、賢弥くんに言っておくべきなのよ。(と去る) |
賢弥 | 知華子、いいからそこに座りなさい。 |
知華 | ばーか。 |
賢弥 | お前、かわいくないんだよ。 |
知華 | あけみさんに逃げられたあ。 |
賢弥 | ばっかやろ。何言ってんだよ。あけみさんは史朗ちゃんと打ち合わせがあるんだよ。 |
知華 | うわっ。単純。最後のチャンスだったのに。 |
賢弥 | 何言ってんだよ。お前、今、オレとあけみさんがここで、何をしていたのか、子供にはわからない世界な。オレが理性があったからよかったようなもんで、もしオレがアレだったら、大変なことになってたんだぞ。 |
知華 | 理性…野獣のくせに。それも童貞の野獣。 |
賢弥 | ばっかやろ。人を歩く電動生殖器扱いすんなよ。いいか。今日は大変な日なんだ。大人の女性だって、乱れるんだよ。オレみたいなたくましい男を前にしたら、大概の女は、最後のひとときを過ごしたいって考えるんだ。な、お前も女ならわかるだろ。さっきだって、言われちゃったんだよ、ずっとおしたわしていただきました、とかね。 |
知華 | おしたわし? |
賢弥 | おひたし? |
知華 | もしかして、おしたい申しあげ |
賢弥 | おした・・ばか。押し倒して、なんてことをあけみさんが言うわけねーだろ。どうしてガキはすぐ、そういうことを言うんだよ。男と女ってのは、そういうもんじゃねーんだよ。 |
知華 | じゃ、なに? セックスじゃなくて、なに? |
賢弥 | お前、どうしてそう物事を単純に考えるんだよ。史朗ちゃんが言ってるだろ。人間は単純じゃないのに、なんでもかんでも単純にしたがるバカが増えてるって。 |
知華 | 単純じゃないけどさ、でも、男と女はやっぱり、やりたいと感じるかどうかでしょ。 |
賢弥 | お前、もしかして深いこと言ってる? |
知華 | だけどさ、ネットだと、ほら、どうしたってまどろっこしいんだもの。 |
賢弥 | お前は、ネットやりすぎなんだよ。3年前に史朗ちゃんと出会ったのがネットだからって。 |
知華 | だって、ネットなかったら死んでたもん。 |
賢弥 | だからって |
知華 | ガキのころのあたしは死んだも同然だったもん。 |
賢弥 | いまでもガキだろ。 |
知華 | 絶対復讐してやるぜ。 |
賢弥 | やりすぎだって。 |
知華 | 最後の一人は、今日・・・ |
賢弥 | 勝手なことすんなよ。 |
知華 | 仕方ないのよ。これが最後、私も一緒だし。 |
賢弥 | わかったよ。で、やることはやってんだろな |
知華 | みんなが勝手なこと言ってんのが悪いの。 |
賢弥 | コンテンツ配信ビジネスはうまくいってんのかよ。 |
知華 | 万里ねーちゃんと愛の作ったやつが大ヒット中よ。 |
賢弥 | 大丈夫かよ。また、人体のウェルダンな焼き方とか、目玉の刺身とかじゃねーのか。 |
知華 | 万里ねーちゃんのはちゃんとした内臓コレクションよ。 |
賢弥 | おまえなー。愛がやってる血しぶきのコスプレもいいかげんに止めろよ。 |
知華 | 私は、ビジネススクールで忙しいんだもの。 |
賢弥 | お前がネットワークの責任者だなんて、無茶だよなあ。 |
知華 | あたしだから、うまくまとまってんのよ。 |
賢弥 | まとまってねーだろ。富津の三田園ってどいつだよ。 |
知華 | フェルナンデスはね、思い込みが激しいだけよ。 |
賢弥 | なんだよ、三田園ってのはハーフか。 |
知華 | 名前は三田園九輔よ。 |
賢弥 | なんで九輔がフェルナンデスになんだよ。まったくネットってのは…知華子はなんだっけ? |
知華 | あたしはロビンよ。 |
賢弥 | きちがい。 |
知華 | うるさいわねえ。とにかく、フェルナンデスはもう落ち着いてるんだから。 |
賢弥 | その九輔バカナンデスは、全消去したんだろうな。 |
知華 | しました。 |
賢弥 | 強制的にやったんじゃないよな。 |
知華 | 自分でやったよ。 |
賢弥 | 確認したか。 |
知華 | サーバーも、それから彼の端末も、全部つないでチェックした。 |
賢弥 | わかってるよな。俺が何度も言ってるけど、絶対にココだけ、一部だけのものにするんだからな。最後は、俺一人で… |
知華 | まだ言ってるの。一人でできるわけないんだから、一人でやりました、なんてのは通用しないんだからね。 |
賢弥 | わかってるよ。もういいよ。でも…あけみさんぐらいは |
知華 | そんなこと、あけみさんが認めるわけないでしょ。 |
賢弥 | そうだよなあ。まったく、人の気も知らないで、頑固なオンナだよ。ああゆうオンナは、嫁の貰い手がないんだからよ |
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| 舞台奥からヤスとタカが口論しながら登場 |
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ヤス | だからお前が爆弾置きっぱなしにしてたんだろ |
タカ | ふざけんなよ。あれはあれで仕掛けなの。お前のネット用のCCDカメラだってジャマしてんだからよ。 |
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| 二人、知華子に気づき |
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二人 | あ、知華ちゃん |
知華 | セックスしてる? |
ヤス | ときどき |
知華 | どうせソロ活動だろ |
タカ | ソロなりに |
知華 | 一人エッチ |
タカ | ワンマンライブ |
知華 | ギンギンに |
タカ | 今度、一緒に |
知華 | そんなヒマないよ |
ヤス | でも |
知華 | 準備できてるの |
タカ | チョコレート、ありがとう。 |
知華 | えっ? もしかしてバレンタインディのこと |
タカ | もらえると思ってなかったから |
ヤス | ちくしょー |
タカ | え、オレだけなの? |
ヤス | 知るか? |
タカ | なんだよ、ヤス、もらってないのか。 |
ヤス | しらねーよ。 |
タカ | もらってないのか。 |
ヤス | 知華ちゃん・・・オレ・・・(去る) |
タカ | おい、ヤス。しっかりしろよ。なに、興奮してんだよ。おーい、ヤスぅ(追って去る) |
知華 | ばーか |
賢弥 | だいじょうぶか、放送班と爆弾班は。あけみさん、確認したのか? |
知華 | あれで、腕は確かなのが不思議よね。 |
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| あけみ、登場 |
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あけみ | ミーティングしまーす。最後のミーティング。みんないる? |
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| みんな登場する。コロス軍団も。史朗、最後に登場して |
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史朗 | (史朗補に)じゃ、それはマルチキャストで流すってことでいいね。CD-Rは最初の30枚はフェデックスで海外に送ってね。渋谷じゃなくて、恵比寿の方が理解してるから。あと、上のフロアーの全員退去は大丈夫だよね。見回りじゃなくて、ソウケイのネットにハックして、出退確認で完全に締め出してね。警察よりソウケイのほうが確実だから。 |
あけみ | 史朗さん |
史朗 | えっ、(見て)ああ。えっと…。(緊張し、そして笑う) |
あけみ | (笑う) |
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| みんな、笑う |
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史朗 | いまさら何も言うことないけど、もうすぐニッポン国総理大臣さまがご到着します。僕たちは、彼を物理的にも社会的にも抹殺します。と同時に、この国の政治経済を壊し、警察・自衛隊に大打撃を与えます。ネットと放送はパニックになります。これは戦争です。そして、教育を始め、あらゆる価値観が死に絶えます。大人の価値観を殺します。やれるかな? さて、その後どうなるのかは、わかりません。あと30分後にはすべてが終わります。そのとき、どうなっているのか…。そのときの状況で、僕たちは道を選ばねばなりません。もしかすると、2度とみんなとお話することはないかもしれない。仕方ないよね。 |
賢弥 | 史朗ちゃん |
賢弥補 | 大丈夫ですよ。 |
タカ | 絶対うまくいきますよ。 |
タカ補 | 絶対。 |
ヤス | 絶対。 |
ヤス補 | 絶対 |
知華 | きっとうまく行く。シミュレーション完璧だもの。 |
知華補 | 大丈夫だよ |
あけみ | 史朗さん、みんな覚悟できてるし、全力を尽くしますから。 |
史朗 | うん。 |
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| あけみ補、入ってくる |
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あけ補 | 来ました。 |
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| 全員、ストップモーション |
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史朗 | (沈黙、ゆっくりタバコを出して、火をつける、一口、深く吸う、ゆっくり吐く、火を消す) |
史朗 | 勝つよ。戦闘開始! |
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| 全員、なんか言いながら動く |
| あけみと木村首相と側近(岡本)が入ってくる |
| 木村首相、ウィダーインゼリーを食べている(食べ終わり岡本に渡す) |
| 司会の女子アナも入ってくる |
| タカが女子アナに向かい「ファンです。いつも見てます。」とか声をかける |
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史朗 | ごぶさたしてます |
木村 | やあ、久しぶり |
史朗 | 首相になられてからは初めてですよね。 |
木村 | うん。忙しくってね。副首相、ようやくジュンジに引き受けさせたよ。 |
史朗 | ニュースで見ました。ギリギリでしたね。 |
木村 | うん。すべりこみセーフだった。 |
岡本 | すぐに始められるのかな。 |
ヤス | 1分後に放送開始です |
岡本 | よろしい。15分だけだからね。次は、NHKで収録だから。 |
ヤス | たぶん、それは問題ないと思いますよ。 |
岡本 | キミらには問題ないだろうが、我々には大問題なんだよ。まったく、人気とりのために、わけのわからんやつらとばっかり対談させられて。1分たりとも超過できんよ。総理にはやらなければならない仕事が山ほどあるんだから。おい、SPはどこにいったんだ。 |
ヤス | 全員、スタジオのドアの外に立っています。 |
岡本 | 全員ってことないだろ。 |
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| と、賢弥が岡本のところへ来て、なんかやる |
| 岡本、すみに座る |
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| 二人と司会の女性が、舞台の椅子に座る |
| 舞台がスタジオの照明になる |
| フロアディレクター役のヤスがキューを出し、放送開始 |
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北口 | 総理と語る、本日は東京渋谷のQフロント地下特設スタジオから、生放送でお送りいたします。わたくしが本日の司会を担当いたしますサラリーマンのアイドル、ダイナマイトバディの北口いづみです。そして本日の総理のお相手は、若手実業家としてITの分野で大活躍をなさっていらっしゃいます高畠史朗さんにお越しいただきました。ITは木村総理の得意な分野ですが、特に今回の高畠さんの事業分野には大変関心がおありだとか。 |
木村 | ええ。彼のやってることはすごいよ。いわば、ニッポンのビル・ゲイツ、いや、ジェフ・ベソス、まあ、そんなとこだ。ようやくニッポンからもこういう人が出たということで、今日は非常に楽しみにしている。 |
北口 | 高畠さんも、この機会にいろいろと言いたいことがたくさんあると伺っておりますが。 |
史朗 | じゃ、始めようか。知華ちゃん。 |
知華 | (舞台に上がって)この放送は、テレビで国内の地上波と、BSデジタルで放送されてますけど、インターネットでも放送されています。世界中にライブストリーミングで配信されています。ネットはうちのサーバーをキーステーションにマルチキャストで配信されます。ネットのためのカメラはうちのやつで、これと(映る)これと(映る)これと(映る)これです。まあ、他にもいくつかあるんですけど、内緒。完全に独立したチャンネルとして画面を作って送ってます。あ、メインサーバーは複数つかってますので、簡単には止められませんよ。 |
北口 | それは |
木村 | そんな勝手なこと |
史朗 | えっとですね、まず最初に言いますけど、たった今、私たちは、木村総理を誘拐しました。誘拐ってのも変かな。なんて言えばいいんだろう。 |
北口 | えっと、それは |
史朗 | うん。とにかくね、身柄を拘束したの。人質ね。これから日本政府に要求を出します。ま、日本政府っていっても、木村首相にダイレクトに答えてもらいたいんですけど。 |
木村 | おいおい、なんか、悪い冗談だよな。 |
史朗 | タカちゃん |
タカ | (舞台に上がって)この放送を決して切らないでくださいね。まあ、インターネットでは流してるんですけど、時間をかければ私たちの複数のサーバーも止めることは可能ですけど、でも、止めないほうがいいですよ。でないと、全国の250箇所の商業施設が爆発しますから。 |
木村 | ばかな。 |
タカ | 1週間前に福生で無人ビルの爆発事件がありましたよね。あれ、我々がやりました。これを見てください。 |
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| スクリーンにビルが映る。 |
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タカ | 爆発前のビルです。まだ壊れてません。そろそろです。 |
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| 爆発する。 |
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タカ | ね。爆発前から撮ってたってことで、我々が仕掛けたことは理解できると思います。無人ビルの爆破ですから、ケガ人は出ませんでしたが、まあ、威力はわかりますよね。これと同じ時限爆弾を全国250箇所に今日の午前中に仕掛けました。駅前商店街のビルです。で、この番組の最後に、その商業施設の一覧表を放送しますので、途中では切らないでください。最後まで見てください。あと、時限爆弾は、放送終了後30分で爆発するようにセットされてますけど、ここにある(史朗が持っている)遠隔装置で、何かが起きれば、すぐに爆発させることも可能です。 |
木村 | ほんとうにそんなことができるのか。一日で、250箇所になんて… |
史朗 | 私たちの中学生向けビジネススクールは、全国に78校あります。約2500人の生徒が学んでいます。 |
木村 | 君たちは子供を使ったというのか。 |
史朗 | 生徒を「子供」と言わないでください。 |
木村 | しかし |
史朗 | 次。あけみちゃん。 |
あけみ | (舞台に上がって)ごらんください。(スクリーンにパソコンの画面が映る)これ、わかりますか。リアルタイムの日経平均株価と為替の値です。現在のものです。もうそろそろです…。 |
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| 点滅していた画面の数字、株価は下がり、為替は円高に動き、すぐに100円を切る |
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あけみ | 始まりました。株が1万円を切ったら、けっこうシビアな問題が起きますよね。ストップ安の銘柄も出そうですけど、出ません。全面安の上に、ストップしないようになってます。これ、誰が売り浴びせているかわかりますか。ま、気にしないでください。ネットトレーディングは素晴らしいですね。計算では、株はあと10分ほどで5000円まで落ちます。70%の下落です。為替は、この時期に円高は困ったもんです。ますます国内品が売れなくなりますし、輸出への打撃も大きい。 |
木村 | ばかな… |
あけみ | これ、このパソコンだけじゃないですよ。今日は、日本経済の命日です。 |
木村 | これはネットで操作しているのか。君たちの操作のラインを切れば |
あけみ | うちでやってるわけじゃないです。ちゃんとオンライントレードの口座を持っている人たちを経由して売買しているんです。まあ、みんなはネットにアクセスしているだけだと思いますけどね。数千万の1%がアクセスしていれば、数十万人が参加してるわけで。 |
木村 | ほんとうにこれは現実なんだね。 |
あけみ | ほんとうです。 |
タカ | いまのとこ、放送もネットも切れてません。懸命な措置です。 |
あけみ | Qフロントの回りに人が集まっているみたいですね。 |
賢弥 | 機動隊の出動が要請されているみたいですが、たぶん自衛隊が必要だと思いますよ。我々は完全武装しています。あ、玉川通りはまもなく通れなくなります。危ないので、玉川通りを走っている車は降りて。青山通りも明治通りも同じ。一番安全なのは公園通りだけです。そっちからしか近づけない。あと、このQフロント特設スタジオは、去年の夏にうちでツタヤと東急から譲り受けた後で要塞にしましたので、簡単には壊れませんよ。上のスターバックスは、さっきバルサンたいたんで、今は静かです。 |
木村 | わかった。君たちの要求を聞こう。何が目的なんだね。 |
史朗 | その前に彼女 |
北口 | はい? |
史朗 | もういいよ。 |
北口 | はい? |
史朗 | だから、向こうにいってて。 |
北口 | え、でも・・・私、ジャーナリストの一人として、こんなおいしい |
史朗 | うるせーんだよ。 |
北口 | あの… |
史朗 | 賢弥くん |
北口 | ちょっと待ってください。あのですね。 |
史朗 | 時間がないんだよ(立ち上がる)。 |
北口 | 落ち着いてください。 |
賢弥 | (腕をつかまえて)いいから(突き飛ばす) |
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| 賢弥が北口を舞台奥へ連れて行く |
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木村 | (スイッチを取り立ち上がり)これを、取ったぞ。 |
史朗 | どうするんですか。 |
木村 | … |
史朗 | スイッチ、押しますか? あるいは、壊しますか? それが壊れると、どうなると思いますか。えっと、全国250箇所への連絡って、どうやってやると思いますか。(と言いながら、携帯電話を取り出す) |
史朗 | 総理と全国250箇所の商業施設とその近隣住民が人質なんです。 |
あけみ | 日本経済も・・・株は今、7000円です。 |
木村 | 要求を受け入れても、この株は戻らないんだよな。 |
あけみ | それは、番組次第だと思いませんか。 |
史朗 | 爆弾は爆発しませんし、総理の身の安全は保証します。それでいいでしょ。 |
木村 | 要求を言い給え。ただし、もしかすると、私はすでに解任されているかもしれないよ。すでに国会が動いているはずだ。このような緊急時には、権限は全部副総理が継承することになっている。 |
史朗 | ですが、すべてはあと10分ぐらいで終わりますから |
木村 | 私が君らの要求を拒否すればどうなる。 |
タカ | 爆弾は、順番に爆発させることもできますけど。 |
木村 | わかったよ。要求を聞こうじゃないか。金か。まさか政治犯・・・グルの釈放とか |
史朗 | まず、国会議員の60歳定年を要求します。あと、3選禁止。議員なんて、8年もやればいいでしょ。そこで一度辞めないと、絶対に腐敗しますから。ただし、8年経ったら総裁選に出れます。あ、総裁も3選禁止です。 |
木村 | ということは、私はまだ38だから、まったく問題ないってことだな。いいだろう。私はオッケーだよ。議員になって10年だから、そこはアレだけど、次からにしてくれよな。 |
史朗 | 人気取り内閣の面目躍如ですかね。 |
木村 | 知るか。田中真紀子さんで決まりって言われて乗せられて総裁選に出馬させられたんだから。 |
史朗 | まあまあ、うらまないうらまない。60歳定年制になれば、いやな諸先輩をクビにできるでしょ。 |
木村 | うむ。 |
史朗 | それと、なんで大臣って国会議員がやるんですか。仕事のできるスペシャリストにやらせてください。 |
木村 | 私の内閣は民間人が4人入っている。 |
史朗 | 全部民間人でいいんですよ。郷土の利益を誘導する国会議員が国のことを考えられるわけないですもの。 |
木村 | だけど、いくら大臣を変えても、この国の政治は官僚がやってるんだから、変わらないよ。 |
史朗 | じゃ、官僚は40歳定年。40過ぎたら、とっとと天下ってください。 |
木村 | そんな急に天下り先って確保できない。 |
史朗 | ま、運が悪かったってことで。こんなの民間企業なら普通なんだから。 |
木村 | しかし、それじゃ官僚のモチベーションが落ちるよ。 |
史朗 | さあああ、どうでしょうか。いずれにしても、41歳以上がいなくなると、官僚の数は足りないわけだから、いっぱい、若い人を採用しないとならないですよね。 |
木村 | よしわかった。それ、決定でいいよ、私はね。 |
史朗 | こういうのって、国会通さないとなんないんじゃないの? |
木村 | もちろん。どっちみち、内閣解散だから、選挙やってからだ。 |
史朗 | でも、こんな経済状況で、警察機構の穴が見つかり、社会不安とかも起きるんじゃ、誰も国会議員とか大臣とか総理大臣とか、やりたがらないでしょうね。 |
木村 | う〜む・・ |
史朗 | そうそう。自衛隊の防衛費を半分にして、あまった半分で世界救助隊を作ってよ。 |
木村 | なんだ? |
史朗 | 防衛費は無駄だから、それで世界の災害救助隊サンダーバードを作ってよ。国境なき医師団とかを昇格させてさ。 |
木村 | そんな簡単に防衛費を減らせないよ。アメリカとの関係も |
史朗 | だめ。防衛費、半分、決まり。アメリカががたがた言ったら、うちのアメリカ支社が大活躍するからね。あ、うちの海外支社は今日、全部地下に潜っちゃったけど。 |
木村 | ばか言うな。君たちは全部、国際指名手配だろ。 |
史朗 | どうでしょう? 企業ですから、評判次第でしょうね。 |
木村 | … |
史朗 | 次、えっと(紙を出して)、巨人軍のオーナーのナベツネをクビにしろー |
木村 | えっ? |
史朗 | ナベツネ、ひどいよね。ああゆうおやじがいるからこの国ダメなんだよ。 |
木村 | そうなのか? |
史朗 | そうです。ナベツネ、くび。次は、高橋尚子に触るな。もうシドニーオリンピック終わって2年たつのに、なんでまだ騒ぐ。去年、世界記録出せなかったのは、やたらと引っ張りまわしたからだろ。なのに、なんでまだ騒ぐ。高橋尚子禁止。 |
木村 | それは誰に言えばいいんだ。 |
史朗 | マスコミです。あ、せっかくだからワイドショー禁止にしましょう。バカですもん。わけのわからない宗教家とかのコメンテーター禁止。評論家とかダメね。タレントもコメント言うな。作家とか漫画家とかのクリエーターだけにして。 |
木村 | それは何を基準に選んでいるんだ? |
史朗 | クリエーターだけですよ。作家ぐらいですよ、地味にこの国の未来を考えているのって。その陰気さだけは信用できる。 |
木村 | いいのか、そんなんで。 |
史朗 | バカといえば、ブランドもの禁止。ってゆうか、OLとかおばさんがブランドもの買うの禁止しようよ。どうしてもダメなら、輸入禁止にして。国内のブランドものもダメ。格安店のみ許可します。ドン・キホーテがあればいいでしょ。ブランドもの買うのぐらい無駄ないもの。そんなのに金使うんなら、映画とか芝居とかライブとかに行きなさい。 |
木村 | キミは誰の利益を代表してるんだ? |
史朗 | えっと(紙を見て)、おやじの集会禁止。新橋ガード下は再開発。コギャルも禁止だね。もうあきたもの。とにかく、同じ格好して群れるの禁止。まわりと同じっていうのが危機なのに、なんで気づかないんだか。 |
木村 | みんな仲良く同じなことのどこが悪いんだ。 |
史朗 | 同じことが悪いってわけじゃない。同じじゃないことを、自分の価値観に合わないってだけで排除するのがだめなの。それは、おやじもガキも一緒だもんなあ。 |
木村 | そんなもんか。 |
史朗 | あとブスの外出禁止。これ決定。 |
木村 | それ採用。 |
史朗 | 未成年の六本木進入禁止。六本木は大人の街だ。 |
木村 | う〜ん、それはどうかな。 |
史朗 | なんで? 六本木にマツキヨできて、他の町の商店街と変わらないじゃない。コギャルがさあ。 |
木村 | しかし、10代は10代の魅力がある。 |
史朗 | う〜ん…じゃ、18歳以上なら、許可 |
木村 | 16歳。 |
史朗 | 17歳以上。総理、あなたは国家の基盤が崩れ、混乱しております。 |
木村 | 17歳でいいよ。 |
史朗 | このエロオヤジがよ。 |
木村 | しっけいな。 |
| |
| (沈黙) |
| |
史朗 | 最後に、この国の制度について総理に聞きたい。たとえ、若返ったとしても、この国のシステムが変わるかどうか心配です。それは、ひょんなことから38歳の、国会議員になって3期目のぺーぺーのあなたが総理になったのに、この半年、何一つ変わらないことで予想できます。ですよね。 |
木村 | それは、私の力が及ばないため |
史朗 | いいんですよ。弁解しなくていいんです。そりゃ大変ですよ。たぶん、ジジイどもをクビにしたって、死んだわけじゃないんだから、システムは残りますよね。選挙制度変えても、公共事業の制度を変えても、この国のシステムを担っている層ががっちりスクラム組んでいる限り、絶対に変わりませんよね。既得権益を守り抜きますよね。 |
木村 | そんなことは断言できんだろう。 |
史朗 | あなたが一番良く知っているはずですよ。 |
木村 | ふむ。 |
史朗 | それでも我々は、この国を変えたいと思っているんです。そこで、ベストではないかもしれないけど、次善の策として、直接民主制を要求したい。全部、国民投票で選ぶの。コストかかるけど、ネットを使えばなんとかなるでしょ。なんでもかんでも、投票にしましょう。 |
木村 | 甘いな。 |
史朗 | 何がですか。 |
木村 | そんなコドモの理想みたいのが通用すると思うのかい。 |
史朗 | ベストじゃないかもしれないけど |
木村 | 政治とはそんな単純なものじゃないよ。考えるんだ。キミはバカじゃないみたいだから教えてあげるよ。国民投票はね、結局、この国の民度の低さを示すだけだよ。わかるか? 地方の市議会議員選挙で横行していることが全国規模になるだけ。業界団体の締め付けや、地縁・血縁が厳しくなるだけ。ワイロ・選挙違反が全国ネットで行われるだけなんだよ。規模が大きいだけに、飛び交う現ナマはハンパじゃないだろうなあ。 |
史朗 | 止められないんですか。 |
木村 | 止まるわけないよ。守り続けた既得権益を失ったら、死んでしまう人だっているんだよ。命がけで守ろうとするよ。そういう社会なんだよ。この国は、終戦直後以来、ちっとも変わってないんだよ。なぜなら、戦後にできあがったシステムだから。それこそ、全国ネットの暴力組織が誕生することになるだろうよ。それを必要とする政党があるだろうからね。 |
史朗 | なんだよ、それ。もう21世紀だよ。 |
木村 | 世紀末の次の年ってだけだよ。 |
史朗 | そんなんじゃ、この国は世界からどんどん取り残されるよ。 |
木村 | この国の繁栄は、戦後の若い人たちの血と汗で築いたものだからね。その世代の人たちが自分たちの利益を守るのは当然だ。次の世代は、またゼロから始めるしかない。前の世代が築いた繁栄がゼロになっても、彼らは自分たちが生きている間だけ楽できればいいんだよ。次の世代は次の世代で一から作るしかない。 |
史朗 | でも、世界が新しい時代を迎えようとしている今、若い世代が多様性を学ばず、単純な思考回路になっていってるので、一から作るって言っても |
木村 | 単純思考世代ってのは今の世代だろ。次の世代じゃない。次の世代ってのは、今の上の世代が死に絶えた後で生まれてくる世代、つまり15年後ぐらいに生まれてくる世代が次の世代だよ。 |
史朗 | じゃ、新しい時代って、いつになるの |
木村 | しょうがないよ。この国は、そういうシステムなんだから。 |
史朗 | 僕たちは何年も待てないよ。だから、今始めようと思う。 |
木村 | 君たちの小さな暴力では何も変わらないよ。この国は、金と、もっと大きな暴力により堅固なシステムを築き上げたんだから。それらは巧妙に隠蔽されている。しらなすぎるよ。君たちなど及びもつかないような暴力のバックアップが、この国の政治にはあったんだよ。戦後、何人もの政治家が自殺してるけど、そのうち本当の自殺って何人だか知ってるか。金なんて、いくらでも引き出せるシステムがあったし。金と暴力に無縁の政治家がいると思うのかい。与党も野党も…野党ったって、もともとは与党だった人が大勢だもの。そりゃ、追求は甘くなるよなあ。 |
史朗 | あなたは、どうなんです。 |
木村 | 言ったろう。金と暴力に無縁な政治家はいないって。タダで総理大臣になんてなれるわけないだろうが。キミはどうだい。命がおしけりゃ、ケツぐらい貸すよな。 |
史朗 | そんな…。 |
木村 | 政治家なんて、なるもんじゃないよ。28歳だよ、オレが選挙にたったの。すぐにすべてを理解したよ。まさか、こんなに早くこの地位に上がるなんて思わなかったけど。 |
史朗 | … |
木村 | ばかなことやってんじゃないよ。なんだよ、さっきの要求。後半はいいよ。ブス外出禁止、いいよ、国会で通すよ。だけど、60歳定年だって、そんなことで何が変わるんだよ。それで何が変わると思ってんだよ。やつらはダニだよ。国民にすいつくダニだ。税金のすべてを搾り取る。それがみなさまに選ばれた政治家なんだよ。そして、ダニじゃない政治家は、政治家でもなんでもない。立派なだけのウスノロだ。使えないんだよ。 |
史朗 | … |
木村 | 選挙制度、変える? |
史朗 | 変えて。 |
木村 | よし。変えよう。国民投票か…あれだよな、東京の西の方の田無市と保谷市とかが合併するんで、住民投票で名前決めたろ。西東京市だってよ。サイアクだよな。素晴らしいよ。 |
史朗 | サイアクでも、ずっと変わらないよりは・・ |
木村 | バカだなあ。なに一生懸命になってんだか。正直ものはバカだよ。それがこの国のシステム。政治家だけじゃないよ。三菱自動車のリコール隠しは笑ったろ。国からチェックのえらい人が訪ねて来るくることを想定して、マニュアル作って予行演習してたってんだから。審議官が訪ねてきたら、応接室に通して時間稼ぎしている間に、証拠をパソコンから消去するとか。きっと、審議官にお茶を出すふりして、いきなりお茶をこぼすのとか、マニュアルに書いてあって、年に2回ぐらい、お茶をこぼす訓練とかしてるんだろう。どうしようもないよ、この国は。そして、私がこの国の代表だ。 |
史朗 | なにも変わらないんですか。 |
木村 | 変わりそうなところを潰していってるもの。 |
史朗 | 絶対に? |
木村 | これを見ている国民が望まないんだから。 |
史朗 | 国民って、誰? |
木村 | さあね? |
史朗 | (沈黙あって)これで放送は終わり。最後に、250の商業施設名を。ビデオ撮ってチェックしてね。今、画面に出ているのがそうです。爆弾はビルのトイレのどっかにあります。あ、ビル名の後ろに出ている番号は、携帯電話の番号です。それに電話すると爆発しますので、絶対に電話しないでください。以上。 |
| |
| スクリーンの映像が終わり、沈黙 |
| スタジオ明かりから、地明かりに戻る |
| 沈黙 |
| |
あけみ | いま、サーバーが止まりました。 |
史朗 | アレ、映して。 |
| |
| スクリーンに日本地図が映る |
| |
木村 | 携帯電話での爆発って、聞いてないぞ。 |
史朗 | かかってきますかね。 |
木村 | 絶対かけるだろ・・ |
史朗 | あ、かかってきた |
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| 日本地図のどこかに赤い点が現れる |
| どんどん赤く塗られている |
| |
史朗 | やっぱ電話するよなあ。あ、電話は全部、うちのパソコンで受けてるだけです。爆弾って、ウソですから。うちの生徒を巻き込んだりしません。今のこの日本地図は、ネットとCD-Rで配布します。けっこう、見物だと思うんですよ。さっきの「国民」ってのが何を望んでいるのかがはっきりしますから。 |
木村 | 君たちが電話してるんじゃないのか。 |
史朗 | いいえ。まったくの一般人です。一般人も燃えてますね。 |
木村 | なんで電話するんだ。爆発なのに・・・ほとんどじゃないのか。 |
| |
| 沈黙 |
| |
岡本 | 総理、なにがどうなってるんですか。総理はこいつらと知り合いなんですか。 |
木村 | 古い知り合いなんだ。10年前に史朗くんの家庭教師だったの。政治家になる前な。 |
岡本 | 家庭教師? でも、総理は10年前は亀井さんとこにいたんじゃ? |
木村 | そのちょっと前、気にするな。 |
岡本 | 気になりますよ。じゃ、この事態は、いや、今はどうなってるんですか。 |
木村 | 今は・・どうなってるのか |
岡本 | 総理、これ大変な事態ですよ。なんであんなこと言っちゃったんですか。せっかく内閣支持率が回復してきたのに。また10%切るんじゃ。 |
木村 | もう、支持率とかってレベルじゃないだろ。 |
岡本 | そうです。外交にも影響しかねない。というより国民の政治不信がますます・・・ |
木村 | どうした? |
岡本 | いや、それもねらいだったのかって思って。 |
賢弥 | まあ、そういうこと。でないと、あの真っ赤な日本列島はないでしょ。ほんとに爆発しないんで、きっとがっかりしてるだろうなあ。 |
岡本 | バカを言うな。君らのやっているのはテロだろ。キミら狂っているよ。もう、逃げ場はないだろ。自衛隊が囲んでいるんだろ。だいたい、ここにいる人はもう総理じゃないよ。このような事態になり、指揮権が発動できない状態に置かれたら、自動的に副総理に権限が委譲するように、先月の国会で総理が無理やり…総理は、これを見越していたんですか。そうか。ほら、キミらの負けだ。あきらめて投降しなさい。 |
賢弥 | 合格。この人、優秀だね。 |
あけみ | モニター班からです。国会が召集されてます。あと、渋谷駅前に自衛隊が到着しました。 |
賢弥 | と言っても、特車は出てないね。兵力的にはまだ、こっちのほうが優位にあります。 |
木村 | 撃ってこないよな。 |
史朗 | どうでしょうか。 |
木村 | 国会、どう出るかなあ。 |
史朗 | 解散ですよね。 |
木村 | 普通はね。ジュンジがどう出るかなあ。もう、あいつが首相なのかな。 |
史朗 | とりあえず、株と為替を早くなんとかしないと。ニューヨークに飛び火したら、世界恐慌だもの。 |
木村 | ジュンジは、そっちの専門家だから、持ちこたえると思うけど。だから頼んだんだから。 |
史朗 | どっちにしても、大変ですよ。 |
木村 | そんなひとごとみたいな。誰がウィルス作ったの。 |
史朗 | 知華ちゃんです。 |
知華 | あ、おつかれさまでした。 |
木村 | メール添付のやつ? |
知華 | ウェブ閲覧型です。1週間で数千万感染です。 |
木村 | むちゃ、するよなあ。 |
知華 | すみません。でも、史朗ちゃんのリクエストですから。 |
史朗 | 木村さんのリクエストでしょ。 |
木村 | まあ、そうなんだけど。ちゃんとモニターしてる? |
あけみ | 日経平均は5000円で止まってます。為替は50円から徐々に円安に振れています。 |
史朗 | ヤスくん。放送局は? |
ヤス | NHKもTBSもコールセンターが大パニックです。まだ半々ですが、徐々に変化してきています。政府への抗議が増えてます。 |
史朗 | ネットは? |
知華 | ネットでは、私たちを支持するメッセージ一色です。 |
木村 | どういうこと? |
知華 | だから、私たちの要求を実現させろって。 |
木村 | ほんとかよ。 |
史朗 | 立ち上がり早いな。 |
木村 | なんか、メッセージ出すのか? |
史朗 | どうしましょう? |
木村 | おいおい。決めてくれよ。もう、オレは何もできないよ。ってゆうか、オレは外歩けないからな。 |
史朗 | わかってますよ。賢弥くん、外は? |
賢弥 | モニター出しますか? |
史朗 | ちょっと聞かせて |
賢弥 | はい。 |
| |
| 誰か別のものがスイッチを入れるとスピーカーから大騒ぎが聞こえる。 |
| 放送局関係のヘリや拡声器、警察・自衛隊の車両ノイズ |
| |
史朗 | オッケー。 |
| |
| 音、アウト |
| |
史朗 | 予想以上のパニックだ。 |
賢弥 | ついでに何発か撃ちこみますか。盛り上がりますよ。 |
史朗 | ダメ。 |
賢弥 | ですよね。 |
史朗 | ケガ人や死人を出さない。 |
賢弥 | わかってます。 |
あけみ | まだ、誰も死んでいないんだから。 |
木村 | そうか。これだけの大騒ぎだけど、誰も死んでいないんだ。 |
あけみ | ええ。だから支持が得られているわけです。 |
木村 | 結局、ビルひとつと経済が壊れただけか。 |
賢弥 | まあ、政変が起きれば、そっちでも死んだも同然の人が出るかもしれません。 |
木村 | それはいいんだ。 |
賢弥 | いいんですか。 |
木村 | いいよ。なんなら本当に殺してくれてもいい。悪がほろんでも、ダメージは少ない。 |
知華 | ですよね。 |
木村 | えっ? |
知華 | この時代の悪を抹殺することは悪いことじゃない。 |
賢弥 | 知華子! |
木村 | どういうこと? |
史朗 | いや・・・だめだ。殺したらだめだ。それじゃ普通のテロになってしまう。 |
タカ | なんちゃってテロだから。 |
史朗 | 「ファイトクラブ」って映画ありましたよね。あれ、すごく気持ちよかったんだけど、ラスト、ビルを爆破しまくりますよね。翌日の新聞では結局普通の爆弾テロ扱いですよね。 |
木村 | 翌日の新聞か。 |
タカ | 主人公のエドワード・ノートンが逮捕されれば、カルト集団による無差別爆弾テロ、って扱いになります。また一人、歴史のひとこまにキチガイが現れたって扱い。 |
史朗 | それじゃオウムと変わらない。 |
あけみ | 史朗さん、抗議メールが国会議員に直接届いているようです。ネットはパニック状態です。この包囲を解き、総理と史朗さんを救い出せという意見が |
タカ | やった。すげえ。 |
賢弥 | まだ10分しか経ってないのに |
史朗 | ネットは早いよ |
賢弥 | 表と、交渉の回路を開きますか? |
史朗 | いや。まだ早い。 |
賢弥 | しかし。 |
史朗 | まだ始まったばかりだ |
ヤス | 史朗さん、あの・・・NHKのニュースで、株安にショックを受けた人が自殺したと・・・あと、青山通りの封鎖の際の爆破でも、死傷者が出たみたいです。 |
史朗 | うん。 |
ヤス | 国会の長老、藤原さんが、行方不明だそうです。 |
木村 | 藤原のおやじ・・・ |
ヤス | 高齢の議員へのいやがらせが激化しています |
史朗 | 株はどうなってる? |
あけみ | 5013円・・・まったく戻っていません。円は87円まで回復しました。 |
史朗 | 円はまだまだ下がるよ。株は・・・実体経済にリンクすれば、8000円ぐらいまでは |
ヤス | 株安への抗議の自殺という報道が |
木村 | 日経平均が10円下がると5人死ぬって言われているからなあ |
史朗 | ネットは |
あけみ | NHKのニュースを受けて、非難する発言が |
タカ | やっぱりヒーローにはなれないんだ |
賢弥 | 結局、極悪人か |
史朗 | 予想はしてたから |
あけみ | 2チャンネルのQフロント板がやっぱり一番過激です |
史朗 | 書きこみした? |
あけみ | 私なんかもう、言われたい放題です。 |
史朗 | そりゃ盛り上がるなあ。 |
ヤス | タカ、青山通り、どうなってんだよ。6人も死んだってよ。 |
タカ | えっ・・・ |
ヤス | ケガ人も。スーパーのガラスのせいだと |
タカ | ああ。 |
賢弥 | 明日の新聞は、やっぱりファイトクラブですね。 |
史朗 | オレは麻原じゃないよ。 |
知華 | 捕まって、ひとつの犯罪として処理されるの |
木村 | 歴史のヒトコマだ |
賢弥 | ただのテロだって |
木村 | カルト集団による大事件、だな。 |
知華 | いやだ。 |
| |
| 沈黙 |
| |
木村 | これまでだな。あとは私がなんとかしよう。ただの事件にはしないよ。処理の仕方を間違えなければ、歴史の転換点にはなるだろう。投降しよう。 |
賢弥 | ちょっと・・・俺達が犯罪者となったら、あの要求は |
木村 | 無理だろうな。抗議行動も国への非難も弱まるよ |
賢弥 | じゃ、この国は |
木村 | テロはテロだから。クレイジーなテロじゃ何も変えられない。 |
賢弥 | 狂ってなんかいない。 |
木村 | クレイジーじゃないってことが重要なんだ。それは、私がなんとかして証明しよう |
賢弥 | そんなことできるんですか。 |
木村 | わからん。先に言っておくが、私を殺しても無駄だよ。その程度の衝撃じゃ |
賢弥 | しかしこのまま |
木村 | キミ達はよくやったよ。永田町は大騒ぎだろう |
知華 | 大騒ぎだけじゃ |
木村 | それが現実だ。 |
史朗 | いや、このままじゃ終わらせない。せっかく政治経済の危機的状況を作ったんだから。これから一層激しいリストラが始まるんだから。それを無駄にはしない。リストラクチャリング、再構築。完全に壊す。作りなおし。 |
木村 | 何をするんだ。今から何ができるんだ。 |
史朗 | 絶対にもとにもどさない。木村さん覚えてる? 10年前。あのときも、もうすぐ世の中変わるから頑張れって言ったじゃないですか。必ず変わるって、木村さん言ったじゃないですか。 |
木村 | 家庭教師やってたときだよな。あの頃は俺も若かったから。バブル崩壊で、少しはマトモな世の中になると思ってたんだ。 |
史朗 | 言ったじゃないですか。政治の世界に入って変えてみせるから、受験頑張れって。 |
木村 | 変わるはずだったんだよ。 |
史朗 | 10年前のあの日、オヤジがリストラされて、山手線に飛びこんじゃった。あれ、嫌だったなあ。リストラぐらいで死ぬなんて。おかしいですよ。どうかしてる。リストラなんかで自殺するなんて。 |
木村 | 事故だよ。交通事故と同じだ。 |
史朗 | 年間1万人が交通事故で死んでますよね。一番理不尽な死に方だと思うけど、それがこの社会の宿命。でも、その3倍、年間3万人が自殺で死んでるんだもんな、今って。10年前は2万人だった。 |
木村 | 増えてんだよなあ。ガキの自殺はニュースになるけど、ニュースにならない普通の自殺で何万人も殺され続けているんだよな、この社会に。 |
史朗 | ばかばかしい。リストラで死ぬオヤジはバカヤローですよ。残された母さんは何に怒っていいかわからなかったもの。犬死にだもの。負けですもの。リストラぐらいで死ぬなんて。 |
木村 | しょうがねえだろ。リストラぐらいって言うなよ。 |
史朗 | リストラぐらいですよ。会社クビになったぐらいで死んでどうするんですか。会社がすべてみたいじゃないですか。気持ち悪いじゃないですか。家族とか友達とかいたんですからね。許せないですよ。 |
木村 | だから、そういう病気なんだよ。日本中が侵されていたの。ようやくそれが気持ち悪いことだって気づく世代が出てきたんだろ。 |
史朗 | でも、3万人も死んでる。おれ、頑張りましたよ。木村さんも政治の世界で何かを起こすって約束したじゃないですか。 |
木村 | 変えたかったよ。俺だって、絶対におかしいと思ってたから。あの日までは、お前に勉強教えながら、ぼちぼち就職しようって思ってたんだけど。あの日、シズカが高速道路で酔っ払い運転のダンプに踏み潰されてよ。シズカ、4ヶ月だったんだよ。俺、知らなかったんだよ。生むつもりなのかどうかも知らなかった。それで、妊娠中に運転する方が悪い、なぜ運転させたんですか、って責められて。ひどい話だよ。 |
史朗 | そんなのばっかりだ。 |
木村 | 変えてやるって思ったよ。史朗がワセダに受かったのも自信になった。そして、俺は議員になったんだ。いろいろ汚いワザを総動員したけどな。きれいごとよりも、出世を選んだ。嫌な思いもいっぱいして、こうやって上りつめたんだけど・・・ちくしょー。俺だって変えたかったよ。変えられるって思ったよ。 |
| |
北口 | あのー、すみません、トイレ・・・トイレどこですか。 |
賢弥 | 大? |
北口 | 小です。 |
賢弥 | じゃ、そこですわりしょんべん。 |
北口 | 嫌ですぅ。あたし、ウォシュレットがないとできませんよ。それと便座除菌クリーナーも。おしりがデリケートなんで、雑菌に負けちゃうんです。お取り込み中、すみません。 |
あけみ | トイレクイックルならあるけど。 |
北口 | すみませーん。どっちですか。あっち? ほんとなんか、場違いで、でも、我慢できなかったんです。もれたらごめいわくでしょ。あ、じゃ、続き、どうぞ。失礼しましたあ。 |
| |
| あけみと北口、去る。あけみはすぐに戻ってくる。 |
| |
賢弥 | 国家の存亡はウォシュレットに負けた |
タカ | だって一大事でしょ。 |
ヤス | 勝てないよな |
史朗 | 強いなあ |
木村 | 国の遠い未来よりも今のおしっこ |
あけみ | バカにしないでくださいよ。大変なんですから。 |
木村 | わかってるよ。膀胱炎だろ。そしてこの国は変わらない。 |
賢弥 | 俺は便座除菌クリーナーとかみとめないよ。そんなに嫌ならケツ浮かしてやれって。 |
タカ | ぷるぷる震えちゃいそう。 |
賢弥 | 腹筋鍛えればいいだろ。 |
ヤス | こんな格好ですか。 |
賢弥 | いいトレーニングになるだろ。 |
タカ | でも、それだとこう、腹筋に力入るけど、ウンコをひねり出す力をいれにくい |
賢弥 | ギリギリまで我慢してからやればいいだろ |
木村 | おい。なんの話ししてんだ。 |
三人 | (賢弥、タカ、ヤス)国家の存亡 |
木村 | く、国の未来は腹筋次第か |
賢弥 | そして俺達はただの犯罪者 |
木村 | あとは、俺とジュンジでなんとかするさ |
史朗 | なんとかできるんですか。 |
木村 | 何とかしないとホントこの国は再起不能になる |
タカ | ほっといても、あと10年で再起不能だったんでしょ。 |
木村 | まあ、5年ぐらいで、ここのビジネススクールの生徒が社会に出るぐらいになれば、少しは変化するんじゃないのか。 |
タカ | でも、俺達の世代は見殺しでしょ。 |
木村 | そりゃそうだけど。 |
史朗 | 今回のことがすべての世代にインパクトになれば・・・ |
木村 | 上の世代にはインパクトにならないよ。若いやつらがやらかしたことだと |
知華 | 木村さんに死んでもらうしかないかな。 |
賢弥 | それはあるかも。下の世代からの、上の世代へのメッセージ。 |
木村 | よせよ。 |
史朗 | 木村さん一人じゃないですから。賢弥くん、知華ちゃん、みんなすまない。やっぱり勝てそうにないや。でも、このまま捕まって歴史のヒトコマにはなりたくない。やっぱ最後は大きな衝撃が必要だと思うんだ。 |
木村 | どうするんだ。 |
史朗 | 僕と木村さんの二人がここで・・・内緒にしてたけど、タカちゃんに頼んで、このビル全体に爆弾100個・・・内緒にしててごめん。 |
賢弥 | 知ってましたよ。 |
史朗 | えっ? |
あけみ | みんな知ってましたよ、爆弾のこと。 |
タカ | 俺は言ってないっすよ。 |
知華 | 言ってないけど、あんなに大量に作っていたら、どこに使うのかって思うでしょ。 |
賢弥 | それに、二人だけで死なせませんよ。 |
知華 | そんなんじゃ、インパクト弱いもの、。このインポおやじなんか死んでも、次に交替するだけでしょ。 |
木村 | インポって言うな。 |
賢弥 | 史朗ちゃん、俺ら、最初っからそのつもりでしたから。 |
史朗 | だめだよ、そんな。 |
賢弥 | いいんですよ。俺は残ります。知華子、お前は逃げろ。 |
知華 | ふざけんな。 |
賢弥 | だめだ。あと、あけみさんも。 |
あけみ | ふざけんな。 |
賢弥 | あけみさん、お願いします。俺の気持ち、受け取ってください。 |
あけみ | ごめんなさい。友情は永遠の役立たず。 |
賢弥 | あけみさ〜ん |
史朗 | だめだよ。みんな何を考えてんだよ。 |
タカ | 史朗ちゃん、オレたち、ハラくくってますから。だって、二人や三人死んだって、この事件のインパクト、大きくならないでしょ。 |
史朗 | それはぁ。 |
ヤス | ビルごとふっとびましょうよ。それでこそ、何かが伝わると思いますよ。 |
タカ | そうそう。オレのニトロはメッセージですから。ビルごとで。 |
賢弥 | でかいメッセージだな。命、入ってるもんな。 |
タカ | 他のみんなも同じ気持ちです。それにもしかすると |
史朗 | 同じだよ。二度と日の目は見れないんだよ。 |
木村 | 大勢でアレするんなら、私一人ぐらい、別にぃ |
ヤス | あんたはダメダメ。 |
木村 | 本気なのか。 |
史朗 | それは・・・みんなには(生きて欲しい) |
木村 | しょうがないなあ。10年準備して、仕上げにかかったこの半年で、結局何もできなかったのは私の責任。2年前にこの計画を聞かされたとき、絶対無理だと思った。でも、私にゃ何もできなかったし、この国のシステムがある限り、今後もできないのも確かだったから。どうせ史朗のことだから、爆発が与えるインパクトも計算づくだろ。そりゃ大きいよ。二人だけでも大きいけど、跡形もなくなるってのは、すごいことだよ。いいよ、わかったよ。これなら、何かが変わるかもしれない。何か生まれるかもしれない。 |
岡本 | 総理っ! |
木村 | あれ、岡本、まだいたのか。 |
岡本 | いましたよ。ずっといましたよ。総理、いいんですか。 |
木村 | 岡本くん、長い間ごくろうでした。キミを巻き込むつもりじゃなかったんだけど、こんなことになってしまって・・・すまん。 |
岡本 | 私は、いいんですけど。わかりました。総理が何をめざし、何を行っていたか、私は知っています。 |
木村 | あとは、ジュンジがなんとかしてくれるさ。 |
岡本 | はい。わかりました。総理は最後まで立派であったことを、全国民にお知らせします。それでは、失礼します。(去ろうとする) |
賢弥 | こらっ! |
岡本 | えっ? |
賢弥 | あんたはダメ |
岡本 | なんで。ひとりぐらいアレしないと、ナニがアレじゃないの。 |
史朗 | それは、彼女にやってもらう。 |
北口 | どーもー。じゃ、そういうことで。(と階段を駆け上がる) |
北口 | (階段の上で立ち止まり)おげんこで(去る) |
岡本 | おい、あんなの信用できるのか。 |
木村 | それは私が保証する |
タカ | なんで? |
木村 | ありがちって言うなよ、女子アナと権力者だからって。 |
タカ | うっそ。そんな、きったねー。 |
知華 | 大人って汚い。 |
木村 | 言っただろ。インポじゃないって。 |
ヤス | だからかあ。総理と語るなんて硬い番組にあいつじゃおかしいと思ったんだよ。 |
賢弥 | なんか、納得いかない。 |
史朗 | いや、みんなも、落ち着いて考えてよ。木村さんと岡本さんと3人で十分だと |
岡本 | 3人になってるし |
賢弥 | いえいえ、後には引けませんよ。 |
知華 | 抗議ですから。 |
タカ | メッセージですから。 |
ヤス | インパクト大きくないと。 |
あゆみ | ええ。 |
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| 沈黙(史朗考えている) |
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史朗 | やっぱり、反対。そんな友情ごっこにはだまされない。そんなの気持ち悪い。ここは劇団じゃない。宗教団体でもない。 |
あけみ | 史朗さん。 |
史朗 | おかしいよ、みんな。死ぬんだよ。なんか、美化してない? かっこいいもんじゃないよ。あ、もしかしてシェルターに期待してるんじゃない。 |
タカ | それはないでしょ。みんな知らないです。 |
史朗 | 確かにシェルターは1トン級の爆弾に耐えられる構造だよね。でも、タカちゃんのニトロの破壊力はその3倍もある。地下組織活動用に作ったものだけど、今回の爆発には耐えられないと思う。 |
木村 | 絶対にか? |
史朗 | たぶん・・・ |
タカ | まあ、無理だと・・・ |
木村 | 試してないのか |
史朗 | 試すって言っても |
タカ | 試せないですよ。 |
木村 | そりゃそうだけど。 |
史朗 | そんなの、期待しないでください。それに、もし生存できたとしても、今後一切、表には出れません。完全に地下に潜ります。木村さんもですよ。 |
木村 | それはいいんだ。地下から指示を出すのもやってみたかったから。 |
史朗 | そんなあ |
木村 | だって、私が最初ってわけじゃないし。 |
史朗 | 誰かいたんですか。 |
木村 | 歴史だよ歴史。日本史でも、世界史でも。 |
史朗 | 聞きたくない感じ。 |
木村 | 生き残ったら教えてあげる。 |
史朗 | 生き残れませんってば。 |
木村 | わかったよ。 |
史朗 | みんな、生き残れないんだよ。 |
賢弥 | でも、試してないんでしょ。やってみましょう。 |
史朗 | バカ。急に元気になるなよ。 |
賢弥 | いいんですよ。死ぬつもりなんですから。生き残ることが運がいいかどうかわからないしね。でも、とにかく、メッセージを送ることが重要なんです。 |
知華 | 結局、私達がどういう気持ちで今回の事件に臨んでいたかが重要だと思うの。妄想癖のある首謀者にマインドコントロールされてたってわけじゃない。個人的なウラミで始めたことでもない。何日か経って、熱からさめたように、マインドコントロールが解けるってのでもない。今、すべてを理解しているってことを示さないと。 |
賢弥 | 知華はそのことをずっと言っていたよなあ。お前は気持ち悪いぐらい冷静にやってたもんなあ。 |
木村 | なんか、やってたのか。 |
知華 | だから、世の中には死に値する人がいっぱいいるってことです。それに気づかない人が多すぎるんです。 |
木村 | じゃ、やっぱりセブンの・・・ |
知華 | 明日、すべてのデータがネットに公開されます。 |
木村 | キミのこともか。 |
知華 | いいえ。同時に複数の場所で公開されますので、大混乱です。メールにデータを添付して無差別に配布したんです。一連の事件のデータと、「大人たちよ」で始まるメッセージを。 |
木村 | 匿名か。 |
知華 | 私は世の中変えたいなんて思わない。ただ、みんなにメッセージを伝えたかったの。私の命をかけたメッセージ。6人もの人を手にかけて、それでにこにこしているわけじゃない。生きていくつもりはない。ただ、受けとめて欲しい。私はもう、生きていく資格はないわ。 |
賢弥 | オレはわかっていたよ。知華子の痛みとか、苦しさとか。でも、何もできなかったんだ。オレはあきらめていたんだ。知華子が置かれている状況はどうにもできないと。でも、こいつらの希望のなさって、どういうことなんだ。ここまで追い詰められているのは、なんなんだよ。10代のガキがピンチってのは、社会がピンチってことなんだろ。オレもそのメッセージを伝えたいと思うんだよ、史朗ちゃん。 |
木村 | そんなことして、被害者の家族とか、傷つくぞ。 |
知華 | 被害者ですか。誰が被害者ですか。 |
木村 | そりゃああ、すべての加害者は私だってのかい。 |
知華 | みんな、痛みをわかってない。そりゃ、木村さんの痛みは本物です。自分で傷ついてみないと、その痛みがわからないんですよね。刺したり、殴られたりして、初めて知るんです。最初のオンナは、ずっと笑ってましたよ。私たちの苦しみをいくら話しても、ただバカにして笑ってました。だから、刺されたとき、ほんとうにびっくりしてた。2番目も3番目も、最後の瞬間まで、ちっとも理解していなかった。なんで気づかないの。なんでわからないの。どうして自分以外の人のことを理解しようとしないの。 |
木村 | 違うんだよ。それは壊れちゃってるだけなんだよ。そんな想像力すら、なくなっただけなんだよ。それは、想像力が自分を殺すから、想像力を封じ込めたんだよ。 |
知華 | それじゃだめじゃん。 |
木村 | 仕方ないよ。 |
知華 | 仕方がないじゃ済まさないよ。済ませるわけないよ。手遅れだよ。ねえ、木村さん、手遅れだよね。だから、痛みを伝えないとならないよね。6人の痛み、伝わったかなあ。7人目の痛み、伝わるかなあ。 |
木村 | メッセージ、か。 |
タカ | 知華ちゃんのメッセージも、今回のことも、伝わりますよね。 |
木村 | どうかなあ。伝わりすぎると、国って成り立たないことになるから。 |
タカ | なんで? |
木村 | 知らないほうがいいことだってあるんだよ。 |
タカ | すぐ、そういうことやるんだもんなあ。 |
木村 | まあ、政府だって、国を守らないとならない。 |
賢弥 | 国ってなんですか。国民じゃないですよね。 |
木村 | 違うよ。 |
賢弥 | じゃあ、なんですか。 |
木村 | 紫色して、表面がぬめぬめして、茶色い汁を出すくさいやつ。 |
賢弥 | そいつを守るんですか。 |
木村 | 政府のシゴトだから。 |
賢弥 | 国民は? |
木村 | 紫色して、表面がぬめぬめして、茶色い汁を出すくさいやつのエサ。 |
賢弥 | オレは臭くないですよ。 |
木村 | う、うん。 |
あけみ | モニター班からです。ネットでの今回の事件に対する感想が非難一色になってるそうです。 |
史朗 | 早いなあ。 |
あけみ | 株は7000円前後で下げとまりです。影響、大きいですね。政府が対応できていないせいです。しかし、NY市場には飛び火してません。為替が大きく円安に動いたことで、調整されているもようです。 |
史朗 | 株に資金を投入してた人はがっかりしてるだろうなあ。 |
木村 | 絶望的だね。 |
あけみ | あと、富津のほうで、今回のことに呼応しての動きが始まりそうです。 |
史朗 | やっぱり出たか。 |
知華 | フェルナンデスよ。おとなしくしてろって言ったのに。 |
賢弥 | 長輔のやろう、そういう勝手なことするタイプだと思ったよ。 |
知華 | 長輔じゃなくて、九輔。 |
あけみ | 史朗さん、そろそろこちらから何らかのメッセージを送らないと、過剰な反応が |
史朗 | わかってる。わかってるけど、みんなは |
あけみ | 私は変わりませんよ。 |
賢弥 | 変わりませんよ。 |
知華 | 変わりません。 |
ヤス | 残りますから。 |
史朗 | そういうの、気持ち悪いって言っても、ダメなんだよね。 |
賢弥 | 気持ち悪いの、好きなんです。 |
木村 | 好きそうだよなあ。 |
史朗 | そうか。 |
タカ | オレは・・・死にたくない。正直言って、こんなとこで死にたくないよ。でも、爆弾、本気で強力なやつ、セットしちゃった。死ぬのって、かっこ悪いもの。まだ終わってないもの。これは始まりなんだから。まだ続きがあるはずなんだから。それを見たいから。 |
木村 | 続きはきっと誰かがやってくれるよ。 |
史朗 | これは始まり。きっとこれが転換点になるよ。きっと。 |
賢弥 | きっと。 |
知華 | きっと。 |
ヤス | ぜったい。 |
あけみ | かならず。 |
タカ | うん。犬死じゃ、ないですよね。 |
賢弥 | ぜったい。 |
史朗 | わからないよ。無駄かもしれないよ。でも、爆発しか方法はないんだ。 |
タカ | わかってる。ハデにいきますよ。オレのニトロはメッセージだから。 |
史朗 | じゃ、(スイッチを取り上げて) |
木村 | それがスイッチなのか。 |
史朗 | はい。本物です。ここにあるスイッチを押すと、このビルに仕掛けた100個の爆弾に連結した携帯電話が順番に鳴って、そして爆発。上の階から順番に来ます。このフロアは特別頑丈なんで、40個ぐらい仕込んであります。跡形もなくふっとびます。上の階に来ている自衛隊・機動隊を退去させてます。北口さんに言ってもらってます。この界隈の半径100mの外の出てもらいます。それぐらい完璧な爆発です。コナゴナです。 |
タカ | 一応、擬装用のものとして、ブタ肉100グラム580円の高級なやつを20キロ、仕込んであります。 |
木村 | オレの死体は、痕跡すら残らないのか。 |
タカ | 燃えつくしますから。 |
史朗 | じゃ、そろそろ・・・ |
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木村 | 史朗。この国は、だいじょうぶか。 |
史朗 | メッセージが届けば。 |
木村 | 誰か受け取れるか。 |
史朗 | オトナ以外なら。 |
木村 | オトナは気づかないか。 |
史朗 | 気づかない方がいいでしょ。 |
木村 | ま、そっとしとこうか。 |
史朗 | みんな、バイバイ。 |
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| 沈黙 |
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史朗 | スイッチ・オン |
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| ゆっくり、着メロが聞こえる。いろんな着メロが次々に重なる |
| 着メロだらけになる、そして、暗転、爆音、 |
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| 暗転中に廃墟が現れる=オープニングの景 |
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| 暗転の中、ゆっくり薄い明かりが指すと、廃墟の中に少女が立っている |
| その向こうに、数名の人の姿が、見えた……か? |
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| 幕 |
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| 2001.2.26 午前8時 脱稿 |
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