町田 | 好きなんですか。 |
今平 | 結局ね、なんでもかんでも遺伝子で語るのが流行りでしょ。最近の発生遺伝学の進歩ったらないものね。だけど、DNAごときにできるのは、形態形成だけよ。カタチだけ。それだって、ヒトとチンパンジーのDNAなんて99%が同じなのよ。残りの1%でチンパンジーがヒトになるヒミツが分かると思う。どうしてあのおやじ達はわからないのかしら。 |
町田 | そんなに研究所に多いんですか。 |
今平 | 多い多い。情けないわよ。DNAで生活習慣や行動パターンを説明できるわけないのにさ。まったくもう。 |
町田 | 結局、DNAが突然変異して人類は新しい種に生まれ変わる、とかってのは幻想なんですか。 |
今平 | あったりまえでしょ。だって、キリストとかブッダとかなんか、絶対に突然変異の優越種だったわけでしょ。超能力使えたり、生き返ったり。だけど、見事に絶滅したもんね。DNAじゃないのよ。 |
町田 | 残念だなあ。よっぽどすごい外的要因でもないと、人類って滅亡しないんだ。ちぇっ。 |
今平 | 人類もそうだし、そう簡単には滅亡しません。何かっちゅうと生存競争、何かっちゅうと適者生存、そんでもって殺し合いでしょ。ばかよ。同じ種同士はそんなに競争しないって。殺し合いだって、必要以上にはしないもの。人間だけよ。結局ね、競争好きのおやじ達が、自分たちが受けた教育を肯定するために言い続けているのよね。もう、やめにして欲しいよ。第一さ、適者生存って、優生論っぽいでしょ。ほら、ナチが25万人の精神病院収容者をガス室に送ったやつ。遺伝学理論をふりかざしてなのよ。 |
町田 | それじゃ、自然淘汰でもなんでもないですね。 |
今平 | そういうことよ。いったいぜんたい、こんなとこに閉じ込めて、何するつもりだってーの。 |
町田 | さっきの男の人、なんか知ってるみたいで。 |
今平 | ああゆうタイプは信用しちゃだめよ。なんていうか、生命力が弱そうでしょ。こんな死体だらけの閉鎖空間では、絶対に壊れちゃうタイプだからね。男はダメよねえ。まあ、そこが可愛いっちゃ可愛いんだけどさ。 |
町田 | ええっ、可愛いですか、あの人・・ |
今平 | あの人じゃないわよ。男一般の話し。 |
町田 | あの・・・聞いてもいいですか。あの、インランですか。 |
今平 | 職業病なのよ。DNA採取しないとならないから。 |
町田 | ああそうですか。・・・で、集めたDNAは何に使っているんですか。 |
今平 | ヒミツ。世の中にはね、知らないほうがいいこともあるのよ。 |
町田 | でも、危険な実験とか、やれるんですか。 |
今平 | できないもんよねえ。だいたいさ、設備がボロいからね。どっかにないかしら。やっぱアメリカかなあ。 |
町田 | アメリカって進んでるんですか。なんか、宗教団体がうるさいんじゃないんですか。 |
今平 | 表向きはね、キリスト教のババアどもがぎゃーぎゃー言ってるもんね。でもね、時代は変化してるのよ。ね、わかるでしょ。サリン作っていたのはどこにいたか。あいつら、核にも手を出していたのよ。金さえあれば、設備は整えられるのよ。技術はとっくに進んでいるんだから。で、その技術が「神が与えたもうたみワザである」とか言い出したら・・・(嬉しそうに)恐ろしいわね。 |
町田 | あるんですか。 |
今平 | あるある。世界中にね。オウムみたいのだって、一つじゃなかったでしょ。カルトってのは、宗教のことじゃないのよ。健康食品カルト、環境問題カルト、科学カルト、生命カルト、遺伝子カルト・・・ね。宗教が科学と結びつく時代よ。鬼に金棒よ。その先は、わけないわよ。 |
町田 | やだなああ。 |
今平 | 嫌だとか、そういうことじゃないの。時代の流れなの。ほっときゃそうなるの。だったら、私がやるしかないでしょ。 |
町田 | そうなんですか。 |
今平 | そうなのよ。それなのに、こんなところに・・・ここってなんなのよ。 |
町田 | さっき、言ってましたよね。なんかの実験施設かもしれないって。 |
今平 | だから、あの人うさんくさいって。だいたい、なんで死体が転がっているのよ。ワナ仕掛けて、何を試してんだか。タフじゃないと生き残れないなんて大嘘なのに。 |
町田 | あのトラップって、なんかルールがあると思うんですけど・・・ |
今平 | もしかして、あのダサイ男と私達の3人しか生き残ってないのかしら。 |
町田 | 結構大きな建物だと思うんですけど、ここ。 |
今平 | もともと少なかったのか、それともみんな、死んでしまったのか・・・ |
| |
| その時、ドアの一つが突然開く |
| 硬直する二人(今平・町田) |
| 間があって、安伊子登場 |
| |
安伊子 | あの・・・ |
| |
| 安伊子は慎重に歩む |
| 恐怖のため、びびっているのか |
| |
安伊子 | ひっ・・・あの、ここ、大丈夫ですか、あ、いや、動かないで下さい・・・サイレント・ヒル、やりますか。プレステの。学校の中に、変なお地蔵さんの子供みたいのがキーキー言ってて。あれって絶対卑怯ですよ。まったくもう。喋らないでください。いいから、危ないから。あ、あれもドアですか。あの、あれって開きますか・・・そうですか。いや、いいです。動かないで。私が試しますから・・やっぱやめときます。あの・・・アパートに押し入れがないんです。収納ないの。引っ越そうと思うんですけど、もう5年も住んでるんです。ワンルームで、部屋に死角がないの。こないだ、カレシんちに行ったとき、押入れに何が入っているのかと思うと、恐くて開けられませんでした・・・。ここ、結構安全っぽいですね。二人だけですか。 |
町田 | いえ。もう一人、男の人がいますよ。 |
安伊子 | その人はどこに。 |
町田 | 調べるって言って、あそこから出ていきました。 |
安伊子 | 調べるって言ったんですか。何を調べるんですか。 |
町田 | さああ? |
今平 | たいした男じゃないわよ。もう、死んでるかもしれないし・・・ |
安伊子 | そうですか・・・死んでるかもしれませんね。 |
| |
| その時、突然ドアがあき、布施が飛びこんでくる あわてふためき |
| |
布施 | なななななんだなんだ。ここはどういうとこだ。こらこらこら。何をノンキに落ち着いているんだ。お前ら今、俺のことを話していたろ。誰だお前ら。いつからここにいるんだ。どっから来たんだ。ここはどこなんだよ。こら、なんなんだよ。落ち着いてないで、教えろよ。な。俺はびびってないぞ。こらこらこら、なんだよ。女三人かよ。なに、女三人・・・いいじゃねえかよ。女がいたんだ。生きてるな。動け。動くじゃねーかよ。じっとしてんなよ。死んでるかと思うだろ。そうか、生きた女が三人かよ。よかった。いや、良くないよ。どうなってんだよ。おい、お前(安伊子に) |
安伊子 | ・・・ |
布施 | お前、福神漬け持ってないか |
安伊子 | ・・・ |
布施 | 福神漬け持ってないかって聞いてんだよ |
安伊子 | 持ってません |
布施 | なんだよ。俺、今、無性にカレーが食いてえんだよ。だけど、カレーには福神漬けだろ。 |
安伊子 | ええ、まあ。 |
布施 | ええまあじゃねーんだよ。福神漬けなんだよ。お前、カレーにソースとかかけるんだろ。やめてくれよ。ソース禁止な。あと、生卵もダメだぞ。気持ち悪いだろ。な、そういうふざけた食い方してんじゃねーぞ。 |
安伊子 | らっきょうはいいですか。 |
布施 | 許す。らっきょうは許す。だけど、お前、福神漬けの方がうまいんだから、そういうことはキチンとしないと、だめだぞ。 |
安伊子 | でも、らっきょうだって、キチンとしたカレーですよ。 |
布施 | ばーか。ばーかばーか。お前はダメだ。そういうこと言ってるから、お前はシメサバが食えないんだよ。だろ。シメサバ食えないんだろ。 |
安伊子 | 食べれますよ。 |
布施 | うそつけ。お前にシメサバが食えてたまるか。 |
安伊子 | ちょっとあなた、初対面で何を言ってるんですか。私はシメサバは大好きです。 |
布施 | いいか、俺は今、人間が細切れになるところを見たんだ。細切れっていうか、ブタひき肉100グラム158円だったんだよ、ほとんどな。 |
安伊子 | けっこう高いじゃないの。 |
布施 | 上等だったんだよ。俺はもう、ひき肉は食えないんだよ。なのに、お前にシメサバが食えてたまるか。 |
安伊子 | じゃあいいよ。シメサバ、食べないもん。 |
布施 | お前、けっこう素直ないいやつだな。よし、友達な。んで・・・そっちの二人は誰? |
町田 | 誰っていうか・・・ |
今平 | 同じですよ。なにもわからないの。 |
布施 | わからない・・・そっか。あそこってなんだ? |
今平 | エレベーターですけど。 |
布施 | どこに繋がってるんだ・・・地獄、とか言うなよ。やめろよ。 |
今平 | まあ、似たようなもんです。その近所です。 |
布施 | 近いのか・・・同じ町内ぐらいか? けっこうやばいな。 |
| |
| その時、ドンドン音がして、藤井が床下から登場 |
| |
藤井 | あけてくれー |
| |
| みんなびびる、町田が開ける |
| 藤井、登場する |
| |
藤井 | ちっくしょー。俺は絶対に負けない。おりゃーっ。 |
| |
| 時々、フェイントをかけたりして、トラップ回避の行動を行う |
| |
藤井 | お前ら! うぉー この部屋にもワナあるんだろ。ちくしょー。うりゃー。 |
安伊子 | ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いてください。 |
藤井 | 黙れ。そうは行くか。俺は絶対に油断しない。はっ。はっはっ。 |
布施 | しかし、お前 |
藤井 | なんだ |
布施 | 疲れるぞ。 |
藤井 | ・・・(はあ、はあ) |
布施 | ってゆうか、もう、結構疲れてないか。 |
藤井 | ばかなことを言うな。死んだらどうすんだよ。何が起きるかわからないんだからな。下の部屋でも、大変だったんだから。俺はあんな風には死にたくない。ちっくしょー。来るなら来い! |
布施 | 落ち着いたほうがいいよ。だって、 |
藤井 | しっ!(静かに) |
布施 | (小声で)な、なんだ? |
藤井 | お前には感じられないだろうが、今、殺気が |
布施 | ほんとかよ。 |
藤井 | (大声で)黙れ! |
布施 | すみません。 |
藤井 | (小声で)動くなよ。命が惜しかったら、3ミリも動くなよ。・・・そこだー! |
| |
| 藤井、何かをやっつける! |
| |
布施 | いま、何を! |
安伊子 | なんか、やりましたか |
藤井 | 安心しろ。危機は去った。必殺、ローリングサンダースペシャル虎 |
布施 | だから何をしたの |
藤井 | キミ達の思いもよらないものだ |
安伊子 | だから、それは何 |
藤井 | 予想もできないような、それはまるで、あたかも・・・ |
安伊子 | だから |
藤井 | よし。これで安心 |
| |
| といったとき、エレベーターが開き、そして閉まる |
| |
布施 | うおー、あれ動くんだ。すんげえ。 |
藤井 | どこに繋がっているんだよ。地獄か。 |
布施 | 惜しい。地獄の近所だよ。 |
藤井 | ああ、そっちか。 |
布施 | どっちだよ。 |
| |
| その時、石橋が飛びこんでくる |
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石橋 | ぎゃー。ぎゃぎゃぎゃー。 |
| |
| 興奮した石橋の世界。みんながおびえる石橋和加子の世界。 |
| |
石橋 | ノアの方舟。ノアの箱舟、いやだー |
| |
| その時、関田、ドアから顔を出し |
| |
関田 | なんかね、すごいことが起きてますね。突然、ぴゅーって飛んでくるでしょ。も、危ない危ない。やっぱね、身体の大きな人の後ろとか、安全、みたいな。 |
| |
| と言いながら、藤井の後ろに隠れる |
| |
藤井 | でも、俺はよけるぞ。 |
関田 | いや、それは卑怯でしょう。 |
藤井 | なんでだよ。 |
関田 | 汚いですよ。人として間違ってますよ。 |
藤井 | 普通よけるだろ。 |
関田 | でも、こういう場合、それはどうなんでしょうか。正しいと言えるんでしょうか。 |
藤井 | 正しいだろ。え、俺、間違ってるか |
関田 | 間違ってる、と断言するのはアレですけど、でも、やっぱ人は一人で生きていくんじゃないんですから。金八先生、見てますよね。 |
藤井 | 金八、嫌いだもの。 |
関田 | あ、良くないなあ。こらあ、僕は死にまっしぇーん。 |
藤井 | 俺は「伝説の教師」だもの。 |
関田 | あああ、あれ間違ってますよ。あんな色のカーディガンはない。 |
藤井 | いや、教育ってのはそういうもんじゃないんだ。 |
関田 | 私、教師ですから。 |
藤井 | え、先生なのか。 |
関田 | ね。だから、よけないでしょ。 |
藤井 | そうなると問題は難しいぞ(と、固まる) |
関田 | いいですか、これはたぶん大変なことですよ。これは宇宙船ですね。もう、私達は地球の外に出ているのです。これはたぶん、宇宙人の実験室です。地球人の私達を試しているのです。トラップに簡単にひっかかるかどうか。 |
町田 | なんのために? |
関田 | それはだから実験が目的なんですよ。観察してるんです。そのうち、「ワレワレはー、宇宙人であーる」とか言うのが出てくるんですよ。 |
藤井 | うん、よけないよ。 |
関田 | えっ? |
| |
| 細田が登場 |
| |
石橋 | 誰だ! |
細田 | ずいぶん増えたなあ。 |
町田 | ここのこと、なんかわかりましたか。 |
細田 | それが、私が予想していたものとはかなり違うんで |
町田 | そうですか。でも、こんなにいたんですね。 |
塚本 | (登場して)いや、もっといましたよ。声を聞きましたから。上の方の部屋です。複数の叫び声がしました。動かないで。動くなよ。私は、びびってませんよ。 |
細田 | 大丈夫ですか。なんか、顔色悪いみたいですけど。 |
安伊子 | この部屋って、なんで落ち着けるんでしょうね |
細田 | えっ? どういう意味ですか |
安伊子 | だって、これだけの人間がいても、トラップが起きないし、なんか、安全みたいです |
細田 | そういえばそうですね。 |
塚本 | ここって特別なんでしょうか・・・あれはなんですか |
細田 | エレベーターです。でも、乗れませんよ。 |
塚本 | なんで? 他のフロアと繋がってるんでしょ。 |
布施 | 地獄とも繋がってるんです。 |
細田 | いや、あれもトラップで |
| |
| 次々に人が入ってくる(橋本、本多、羽生、渡部、越田、そして伊藤) |
| |
伊藤 | なんなんだよ。これ、やっぱ今日は帰れないの? どうだっていいけどさ。ま、てきとーなとこで帰してくれれば、全然平気。別にどうでもいいよ。 |
| |
| 大島、最後に登場し、 |
| |
大島 | 静かにしろ。これはあれだな。なんかの企画だろ。バツゲームか。誰が失敗したんだ。誰が負けたんだ。俺じゃないぞ。それともあれか。どっきりカメラか。電波少年か。ガチンコか。未来日記か。俺に何をさせようってんだよ。俺は普通のサラリーマンだぞ。人をこんなとこに閉じ込めて、どうしようってんだよ。いや、やりたきゃ勝手にやれって。でも、俺みたいな普通のサラリーマンをなんで選ぶんだよ。どういう基準で選んでんのよ。勝手に着替えさせんなよ。いつ、着替えたんだよ。俺のカバンを返せよ。なんだよなんだよ。人の気も知らないで勝手なことしやがってよ。誰が責任者だよ。お前か? |
細田 | いえ、違います。 |
大島 | じゃ、お前か |
塚本 | 違いますよ |
大島 | うそつくなよ。誰だよ、手を挙げろよ |
今平 | 私達も同じ立場ですよ、みんな。 |
大島 | なんだよ。じゃ、誰がやったんだよ。誰がやったにしろ、ただじゃすまないぞ。人殺しやがってよ。なんかの実験かよ、なんで殺すんだよ? 俺だってあやうく死にそうになったんだからよ。 |
| |
| エレベーターが開く |
| そして、ゆっくり閉じる・・・ |
| |
安伊子 | 今のエレベーターですけど、あそこから出られるんじゃないの。 |
細田 | それは無理です。 |
安伊子 | なんでよ。この建物の中で、ここだけにエレベーターがあるんでしょ。なんか意味あるんだったら、あれが出口だって可能性、あるでしょ。 |
細田 | しかし・・・ |
安伊子 | なによ。 |
細田 | あそこにもワナがあって、あの中じゃ絶対に逃げられないですよ。 |
安伊子 | でも、そしたら、わざわざあんなものがなんであんのよ。 |
関田 | 他に出口ないんですか。 |
塚本 | いまのとこ・・・ |
布施 | おかしいよなあ。だって、入口があったんだろ。だったら出口だってあるはずなのに。 |
今平 | あの・・・入ってきたときの記憶って、誰か覚えてませんか。 |
細田 | 誰も、いないみたいです。 |
安伊子 | 気がついたらこの服、着せられていて・・・いつ、着替えたんだか。誰が・・ |
布施 | でも、どっかから運んできたんだろうから、入口はあるはずなんだよ。 |
塚本 | 部屋と部屋って繋がってますよね。全体像はどうなってるんですかね。ほら、上の部屋とか下の部屋もあったみたいで。 |
細田 | こういう立方体の部屋がいくつも繋がっているみたいですね。ただ、あのエレベーターがあるんで、単純な形じゃないと思いますけど。 |
藤井 | 下の部屋にはあんなのなかったぞ。あの位置はカベだった。 |
塚本 | じゃ、上下の階に行くためのエレベーターじゃないのか? |
安伊子 | やっぱこの部屋は特別なのよ。そんで、エレベーターも特別なのよ。誰か乗ってみてよ。あなたは? |
橋本 | いやですよ。なんで私が? |
安伊子 | だって、何もしなかったら、そのうちワナにかかって死んじゃうでしょ。 |
橋本 | 何もしなけりゃ死なないかもしれないでしょ。 |
安伊子 | それで、じっとして待っているんだよね、あんたみたいな人は |
橋本 | だって、ヘタに動くのって恐いでしょ。エレベーター、乗るんだったら止めないから、自分で乗ってみなさいよ。 |
関田 | あの、そのエレベーターの死体はどっか行っちゃったンですよね。 |
細田 | ええ。 |
関田 | どういうこと? |
細田 | さああ? |
安伊子 | 結局、何もわかっていないんだ。 |
| |
| 間 |
| |
安伊子 | そして、順番に死んでいくんだ。 |
伊藤 | やめろよ。 |
安伊子 | なによ。 |
伊藤 | 俺は助かるよ。 |
安伊子 | そんなのわからないでしょ。 |
伊藤 | あんた殺してでも、俺は助かるよ。 |
安伊子 | あなたにだけは、殺されないよ。 |
町田 | いやだ。 |
塚本 | なんですか? |
町田 | 出口、探しましょう。 |
塚本 | もちろんです。なんとかして、出口、探します。 |
伊藤 | 気休めかよ。 |
細田 | いや、それよりもあのエレベーターだとは思うんですけど。あんなの普通つけないですものね。 |
安伊子 | 普通ってなによ。 |
細田 | いや、だから、出口じゃないかもしれないけど、どっかと繋がっているのは確かでしょ。 |
安伊子 | それを、どうやって調べるの。 |
細田 | いや、それは・・・ |
町田 | ぜったい、なんかあるんだと思いますよ。これ、普通のエレベーターみたいな呼び出しボタンとかないけど、絶対にコントロールされてるもの。ただ、ワナかもしれない。 |
伊藤 | あるいは、死体の運搬装置かもしれない。これに入れると、綺麗に掃除してくれる・・・ |
町田 | そんな・・・ |
| |
| そのとき、エレベーターが開く |
| 全員、硬直する |
| すると、その中から大森がゆっくりと歩いて出てくる |
| 全員、驚愕 |
| 古川ムービーに切り替わる |
| 終わって |
| |
細田 | まあ、そんな感じで、あのエレベーターはかなりやばいんです。 |
| |
| 聞いたみんなが勝手に喋り出す。15秒ほどあって、 |
| |
安伊子 | だけど、なにがどうなってんのかわかんないじゃない。 |
塚本 | こんなとこにじっとしてたってラチあかないでしょ。 |
関田 | 他の部屋はトラップがいっぱいで人がぐちゃーってなっちゃうでしょ。スリリンゴ、角切りリンゴ、みたいな。 |
塚本 | 必ずそうなるってわけじゃないんだから。だって、みんなケガ一つなく、ここまで辿りついたんだからさ。 |
町田 | だけどさ |
塚本 | こんなとこで、ぼやぼやしてる場合じゃなんじゃないの |
町田 | 脱出ルート・・・ありますよね。 |
塚本 | 絶対。 |
今平 | 不安なら、誰かと手を繋ぐとかさ、 |
渡部 | うん、手を繋ぐのって、いいですよ。 |
町田 | こんなに大勢いるんだもんね。 |
安伊子 | 一人ぼっちじゃないんだし。 |
町田 | (安伊子に)よろしくお願いします。 |
布施 | うんうん。いい感じ。ね。お互い、まるっきり知らない人同士だもんね。赤の他人って感じ。ま、そんなもんだもんね。ふ、布施です。江戸川消防署勤務。消防士です。燃える男の消防士。あなたのハートに火をともす。ぼー。 |
塚本 | ごくろうさま。ということで、もう少し、ここのことについての情報交換をしましょう。 |
細田 | あなた、仕切りますねえ。仕切りがうまいですねえ。よ、仕切り屋。 |
塚本 | あ、わかっちゃいました。実は私、こーゆーもんです。 |
細田 | ほ、ほー。ずいぶん透き通った名刺で、って、何もなーい。 |
塚本 | ありがとうございます。 |
細田 | どういたしまして。 |
塚本 | 実は私、国家公務員でして。ってゆうか、いわゆる役人です。厚生省の、ま、いわゆる官僚やってまーす。 |
細田 | えっ! |
塚本 | ほら、役人っていえば会議ばっかりですからね。自然に仕切りが身についちゃって。 |
大島 | 国家の犬かよ。 |
塚本 | はい。犬ですワン。けっこうハナがきくんですよ。 |
大島 | じゃ、なんか情報持ってないの? こんなでかい施設、どっこにもナイショで作れるもんじゃないでしょ。 |
塚本 | ああああ、ねえ。ま、ある程度はその、いろいろ情報は入ってますけどね。 |
大島 | どんな? |
塚本 | ま、それを言う前に、ちょっと確認させてください。ほんとうに人が死んでるんですね。 |
大島 | なにを今ごろそんなノンキなこと言ってんの。 |
塚本 | いや、ちょっと信じられないもので。 |
細田 | あなた、何か知ってるんですか。 |
塚本 | あ、いや、知りませんよ。これ、やっぱり閉じ込められていますよね。 |
伊藤 | 閉じ込められているよ。出られないだろ。 |
塚本 | まあ、そうなんですけど。 |
大島 | なんだと思ってんの。 |
塚本 | なんかのね、実験かと思って・・・ |
大島 | どんな実験よ |
塚本 | いろいろ考えられるでしょ。閉鎖空間での共同生活とか |
越田 | バイオスフィア2とかですか |
塚本 | 良くご存知ですね |
越田 | 閉鎖生態系です。単なる共同生活とは違います。1991年から2年間、アメリカのアリゾナで8人が共同生活しています。完全に密閉されてて、空気や水も循環させて使用する形で、外の世界とは完全に隔絶させる実験。かなり危ない状態もあったらしいですよ。途中で空気が足りなくなったという問題よりも、内部抗争が起きたんですよね。人間同士の争いです。まあ、バイオスフィア2は外側に監視している人がいましたから、コントロールが可能だったんですけど。 |
塚本 | 他にもありましたよねえ、共同生活のやつが |
越田 | 宇宙ステーションでの生活のための実験がありました。いろんな国から人を集め、生活習慣の違う前提で共同生活を送る実験・・・日本人が最初にギブアップしたんですけど。 |
塚本 | その、共同生活の実験ですけど、我が国にもそういったプロジェクトがあります。 |
越田 | え、そうなんですか。 |
塚本 | ええ。政府のプロジェクトです。みなさんはご存知ないと思いますけど、閉鎖空間での共同生活では、必ずトラブルが起きます。ですので、こうなった以上、私の指示に従っていただければと思います。 |
越田 | あの、これって、政府が関係してるんですか。 |
塚本 | 私も最初、驚いたんですけど、でも、人が死ぬようなプロジェクトを政府は・・・ |
細田 | 政府は殺さないと断言できるんですか。 |
塚本 | 断言できますよ。 |
細田 | そうですかねえ。 |
塚本 | だって、なんのメリットもないじゃないですか。 |
細田 | そうですかねえ・・・ |
塚本 | だいたい、エレベータの意味がわかりません。あんな、人を誘うような仕掛けをしておいて、乗ると死ぬなんて・・・ |
細田 | (大森に)どっから乗ったんです? |
大森 | 知らない。気がついたら、あれに乗ってた |
細田 | 一緒か・・・ |
安伊子 | 気がついたらって、何分ぐらい前 |
大森 | 気がついたら、扉が開いたの。あのとき・・・ |
安伊子 | 乗せられていたんだ。みんな別々の場所に、時間差で・・・ |
橋本 | なんで私たちなのかなあ。どういう基準で? |
藤井 | この建物だって、なにがどうなっているのか |
塚本 | やっぱ、調べてみるしかないですね。建物の構造とか、部屋の配置とか。 |
藤井 | トラップに気をつけろ |
塚本 | あなたも来てくれますよね。 |
藤井 | おれか・・・よし、ついて来い |
塚本 | 他には・・・ |
布施 | じゃ、オレも行く |
藤井 | ちょっとこのカベとかも調べるよ |
| |
| 藤井、石橋、関田、塚本が下手、布施、細田、本多は上手へ退場(他は残る) |
| |
安伊子 | むっかつくなあ。 |
| |
| 間 |
| |
安伊子 | いったい、どこのどいつが、こんなことやってんの。絶対に許さない。訴えてやるから。 |
大島 | まあ、外に出られないと、訴えることもできないけどね。 |
安伊子 | 出られるわよ。 |
大島 | それはどうか、わからないよ。 |
安伊子 | こんなとこでくたばってたまるかってえの。 |
大島 | ま、どっちでもいいけどさ。 |
安伊子 | あなただって嫌でしょ。 |
町田 | えっ? |
安伊子 | むかつくよね。だいたいさ、どういう基準で選んだのか知らないけど、ろくなやついないってのはどうしてなの。嫌なやつばっかり。 |
大島 | あんたもね。 |
安伊子 | あなたさ、完全に歪んでるよ。 |
大島 | 知ってるよ。 |
安伊子 | ガキじゃあるまいし、恥ずかしくないの。 |
大島 | 別に。 |
安伊子 | シゴトとかしてないんでしょ。若ぶってるけど、けっこういい年なんでしょ。ろくに働きもしないで、何やってんだか。 |
大島 | あんたにそんなこと言われる筋合いないよ。 |
町田 | いやっ。 |
大島 | なんだよ。 |
町田 | ・・・ |
大島 | シゴト、してるんだよ、これでもな。製薬会社のMR。メディカルレプレゼンタティブ、やってんの。 |
安伊子 | あ、そう。MRって、あれでしょ。いわゆる営業なんでしょ。 |
大島 | そうだよ。医者と結託して、患者を薬漬けにして、報酬を得るの。 |
安伊子 | 立派なオシゴトね。 |
大島 | いまなんか、人類の平和に貢献してるもんね。うちの会社がだけど |
安伊子 | そうかしら。 |
大島 | だって、病気、治してるもの。 |
安伊子 | バイオグラとかのこと? |
大島 | そうだよ。あれはあれで福音なんだよ。 |
安伊子 | 立派なオシゴトね。 |
大島 | 前はさ、ミドリ十字で血液製剤売ってたの。もちろん、オレが売ってたのは、加熱処理したやつで、昔の毒入りのとは違ったんだけどさ。たださ、たまたまオレが入社したのがちょっと前だったからで、それが昔だったら、確実にオレが2000人殺してたわけでさ。だけど、オレは製薬会社が好きで、妹がマトモな治療も受けられず、人工血液さえあればなんとかなったのに・・・ |
安伊子 | 今の会社は違うんだからいいじゃない。 |
大島 | 知らないよ。どこがどう違うんだか教えてくれよ。オレが売ってる薬が毒入りかどうかなんて、後にならないとわからないんだよ。 |
町田 | だったら辞めりゃいいでしょ。清涼飲料水でもパソコンでも、なんでもいいから無害なやつでも売ればいいでしょ。でもさ、コーラの中に入ってるものが安全なのか、パソコンから出る電磁波が安全なのか、誰も知らないのよね。そういう社会なの。システムなの。毎年、1万人が交通事故で死んでるの。 |
伊藤 | だからといって、しょうがないってことにはならねーんだよ。 |
大島 | オレはさ、新薬の研究開発がやりたかったの。頭悪いから、ってゆうか、要領悪いから、成績とか悪くて、そっちには行けなかったんだけど。でも、独学でクローニングぐらいできるんだぜ。金さえ出せば、DNAチップとか手に入る世の中だもんね。おととい、DNAシンセサイザー作ったんだよ。ま、俺んちの4畳半クリーンルームだから、何ができるか楽しみなんだけどさ。 |
安伊子 | うそでしょ。 |
大島 | ・・・ま、そのうち。 |
安伊子 | やだやだ。おかしなやつばっかり。あんたも可愛そうね。 |
町田 | わたしは・・・大丈夫です。それより、みなさんが心配です。トラップのパターンが解析できてないのに |
安伊子 | 大丈夫でしょ。いまんとこ、どっからも悲鳴が聞こえないもの。 |
町田 | それはそれで不気味なんですけどね。私がここで気がついてから今に至るまでの時間で、人が死んだという情報が最初に集中してるんです。っていうか、この何十分か、エレベーター以外では全然死んでません |
安伊子 | 言われてみるとおかしいわね。頭いいわね。なんか、へなちょこそうなのに。 |
町田 | へなちょこじゃないですよ。ただ、争そうのが苦手なだけ。人間って、どうして争そうのか。 |
安伊子 | しょうがないでしょ。そういう社会なんだから。弱肉強食よ。 |
町田 | でも、さっき、自然淘汰とか、適者生存とかって、幻想だって教えてもらいましたよ。種族間の争そいはあるけど、同じ種同士での自然淘汰とか、生存競争とかってのは、ないって。 |
安伊子 | あらそうなの。 |
町田 | はい。競争社会とかって、おやじのノスタルジーなんですって。 |
安伊子 | 言うなあ。あなたと話していると、頑張ろうって気になるわ。こっちの気持ち悪いやつらと一緒じゃ、絶対に助かりっこないって気になるのにね。 |
大島 | オレは別に、脱出しなくてもいいんで。 |
安伊子 | うそでしょ。あんたは絶対に、一番最初に逃げ出す人よ。逃げ道が見つかればね。 |
大島 | そんときは、あんたを盾にして逃げるから。 |
安伊子 | 別の人にして。 |
大島 | そっか。もっと素直ないい子がいたもんな。例えば、あんた(町田)とか。 |
安伊子 | やめてよ。どうしてそういうこと言うの。この子がなんかしたの? |
町田 | いいです。わたし、言われるの慣れてますから。でも、あんたの盾になんか、ならないよ。 |
大島 | じゃ、オレの盾は、誰がなってくれるんだよ。 |
町田 | あなたは一番最初に逃げ出すのよ。そんで、一番最初に・・・死ぬの。 |
大島 | ふざけんなよ。 |
安伊子 | やめてよ。 |
| |
| 突然、エレベーター、開くとスモークが流れ出し、閉まる |
| みんなが戻ってくる |
| |
塚本 | いま、エレベーターの音したよね。なに、そのケムリ |
渡部 | エレベーターの中から |
安伊子 | どうだったの。建物のこと、わかった? |
塚本 | だいたいね。構造としては、このフロアはこの部屋を取り囲んでいる形。 |
細田 | やっぱり、この部屋が特別みたいです。なんか、ありそうです。 |
関田 | でも、「なんか」ってしかわからないんだもんな。 |
町田 | トラップ、全然起こらなかったの? |
布施 | あっ、そういえばそうだ。 |
塚本 | とりあえず、トラップは落ち着いてきている、と考えられないかな。 |
町田 | 「落ち着いてきている」ですか。それは確率表現的にはどうでしょうか。 |
塚本 | 実際、トラップが発動しないし、殺される人も、いないわけだから。 |
町田 | でも、なんにも起きなくなったわけじゃないですよ。だって、アレ(EV)が |
塚本 | 新しい展開ってこと? |
| |
| 突然、大音響が響き、機械の作動音が続く |
| 驚き、転がるやつとかいる |
| |
本多 | あっ! |
布施 | なんだよ、おどかすなよ |
本多 | 見て見て。靴の裏に数字が書いてある。 |
町田 | ほんとだ。 |
大森 | あっ |
町田 | どうしたの? |
大森 | 私の17って書いてあるんですけど、あのエレベーターにも17って書いてあった |
藤井 | 俺のは67だ |
細田 | 私は11で |
町田 | ちょっと、みんなの数字を教えてください(と、手帳に書く) |
塚本 | なんで手帳、持ってんの? |
町田 | ポケットに入ってたんです。11ですね。(全員に聞いていく) |
| |
| 藤井、突然、上着を脱いで調べる |
| |
藤井 | (背中の裏側を見て)ここにも数字が書いてある。靴と違う番号。263。 |
町田 | みんな素数ですね。(聞いて回る) |
塚本 | (脱ぎながら)靴とか服とか、サイズが自分にぴったりなんですけど、これってやっぱりあらかじめ用意してたってことですよね |
| |
| みんな服を脱いでみたりして数字を確認する |
| 中にはズボンまで脱いでいるやつも |
| 脱いだ後は、軽くはおるなどの崩した着方になるのもオッケー |
| |
石橋 | エレベーターの番号はどういう意味? |
関田 | 他の階には止まらなかったの |
大森 | はい |
関田 | そっかあ。下から来たか上から降りてきたかとかは・・・ |
大森 | さあ・・ |
関田 | もういいや。 |
石橋 | 音は? |
大森 | はい? |
石橋 | なんか、音がしてた? |
大森 | えっと |
石橋 | 落ち着いて、よーく思い出してよ。 |
大森 | うーん |
石橋 | ほら、今も時々、音がしてるでしょ。変な機械音。あんなの聞こえてた? |
大森 | うーん。 |
石橋 | でも、エレベーターって動くとウィーンとか言うでしょ |
大森 | はい。 |
石橋 | どうなの。 |
大森 | うーん、 |
石橋 | いいや、もう。私、自分で調べる。 |
安伊子 | 何を調べるの |
石橋 | ほら、エレベーターって天井にフタがあるでしょ。あそこから脱出すれば |
関田 | でも、入ったとたん・・・ |
石橋 | だったらあなた(大森)が入ってよ。あなたは無事だったんだから。 |
大森 | 私がですか |
石橋 | だって、役に立たないんだから |
町田 | 17番なのかなあ。 |
今平 | (大森に)17番だったんでしょ。 |
大森 | ええ・・・ |
| |
| 沈黙 |
| |
今平 | 17番がなんかあるの? |
町田 | エレベーターの固有番号なのかなって。わからないものね。チェックしてみないと。 |
今平 | チェックっていっても |
町田 | それに素数が使われているのも気になる |
藤井 | あの、素数ってなんですか。 |
関田 | つまり、1と自分自身でしか割り切れない数のことよ |
藤井 | 1と自分自身でしかですか。ずいぶん、ワガママなやつですね。 |
関田 | わがままっていうか |
藤井 | そんなやつばっかりか、ここにいるのは。 |
関田 | え、そういうことなの。 |
藤井 | なんだよ、先生、わかんないの。先生だろ。 |
関田 | うん。先生、古文だから。つれづれなるままにーだから。 |
藤井 | 1で割ると自分だよな。1分の自分、いちぶんのじぶんイコールじぶん。 |
町田 | わざわざ素数を使うってのは、やっぱ意味があるのかな。 |
藤井 | どういう意味? |
町田 | それはわからないんだけど、でも、普通、使わないもの。でね、エレベーターの中にもその数字があったってことは、トラップと素数、いや、トラップと数学が関係してるんじゃないかって思ったの。だとすると、部屋に仕掛けられたトラップの発動システムは・・・ |
関田 | なんか、わかりそうなの? |
町田 | なんとなく・・ |
藤井 | おいおい、頭いいぞ。すんげー。おりゃーっ。 |
関田 | お前、服着ろよ。 |
藤井 | はい。 |
伊藤 | しかしさあ、なんだか知らないけど、やたらと手が込んでて、ほんと、どういうつもりなんだろなあ。 |
塚本 | ほんとですよ。政府の例のプロジェクトだって、ここまではやってないと思います。 |
伊藤 | どうだか。政府だもの。人殺しの生体実験とか、やりそうじゃないの。 |
塚本 | 考えられません。ただ・・・我々が把握している情報としては、あるカルト教団が強力な環境破壊装置を製造しているらしいってことです。 |
渡部 | カンキョー・・・なんですか? |
塚本 | つまり、化学兵器とか、生物兵器とか、です。 |
安伊子 | サリン? |
関田 | どういうこと? |
塚本 | それ以上は、ちょっと |
大島 | 化学兵器実験施設か。まあ、生物兵器でもいいけど。環境と社会を破壊する兵器があるなら、その実験室は閉鎖空間ってことか。 |
安伊子 | なによ。オウムみたいのって、まだあるの? |
塚本 | いくらでもありますよ。私、厚生省の特別カルト対策室に所属しています。 |
今平 | じゃ、やっぱり実験室なの |
塚本 | その可能性もあるってことです。 |
大島 | どこまで情報を掴んでいるんだよ |
塚本 | それは申し上げられませんが、もし私の推察が正しければ、おそらくは生物兵器、ですね。 |
安伊子 | サリンじゃないのね。 |
塚本 | 具体的には断定できるものじゃありません。ただ、もしこれが生物兵器の実験施設だとすると |
大島 | たぶん、もうとっくに散布されてるでしょうね。おそらく、ここまで閉じているってことは空気感染だろうし。 |
安伊子 | でも、別にどこも悪くなってないわよ。 |
塚本 | 潜伏期間ですよ。おそらくは既に感染してるでしょう。 |
関田 | ちょっと待って。もしもう感染してるんなら、絶対に外には出られないんじゃないの。出られないように作る、でしょ。 |
| |
| 沈黙 |
| |
藤井 | でも、エレベーターがある。あれの意味がわかんないだろ。 |
石橋 | やっぱ私、試してみる、私は19番! |
| |
| 石橋がエレベーターに近づくとドアが開く |
| |
石橋 | (羽生に)天井の穴よ。ぜったいなんかある。 |
| |
| と、羽生と手を繋ぎ、羽生に引っ張ってもらいながら、エレベーターの中をのぞきこむ |
| 次の瞬間、石橋はエレベーターの中に引きこまれる |
| 危うく羽生も引きこまれそうになるが、羽生は手を離して無事 |
| エレベーターの中で何が起こっているのかは見えない |
| が、開いたドアから血しぶきが飛び、羽生の顔にかかる |
| エレベーターは静かに閉まり、再び開くと、誰もいない・・・ |
| |
羽生 | (声も出せずおびえる)あうううう |
| |
| 血みどろの羽生・・・ |
| |
藤井 | なんなんだよ。なんであんた(大森)の時は何も起こらず、他だと殺すんだよ。誰なんだよ。 |
大森 | あたしのせいじゃないもん。 |
藤井 | おかしいだろ。あんただけ、特別なのかよ。それとも誰か監視してんのか? |
細田 | たぶん、センサーがいっぱい仕掛けられているんですよ。 |
関田 | どこに? |
細田 | 床とか壁とか天井とか。きっと座標になってるんですよ。人間の判断は介在していません。 |
塚本 | 断言・・・してますね。 |
安伊子 | じゃ、全く動かなければ、何も起きないってわけですか。 |
藤井 | そうは言っても、黙ってこのままこうしているわけにもいかないでしょ。脱出しなきゃ。 |
関田 | じゃあ、調べましょう(EVへ向かう) |
町田 | だめ。まだシステムがわからないんだから、危ないよ。 |
関田 | この部屋にアレがあるっていうのが怪しいでしょ。アレしかないですよ。 |
町田 | また死んじゃいますよ。 |
関田 | でも・・・ |
細田 | もうちょっと考えてみましょう。 |
伊藤 | なんか、あなた怪しいなあ。なんか知ってんじゃないの。 |
細田 | どういうことですか。 |
伊藤 | 時々、断言しますよね。 |
塚本 | 確かに。 |
安伊子 | ほんとうは出口、知ってるんじゃないんの。 |
細田 | 知りませんよ。 |
布施 | あやしいなあ。これって、順番に死んでいくプログラムなんじゃないの。最後に生き残るのは誰だ実験、とか。 |
細田 | そんな実験にどんな意味があるんです。 |
橋本 | あの・・・いいですか。ちょっと思いついたんですけど、あれですけど、エレベーターじゃないんじゃないかな。 |
塚本 | どういう・・・ |
細田 | じゃあ、なんなんですか。 |
橋本 | 箱は一つじゃないんじゃないのかって。エレベーターじゃなくて、観覧車みたいなゴンドラがいっぱい、ぐるぐる回っているんじゃないのかな。 |
関田 | 箱が繋がっているんだ。 |
橋本 | そうそう。それが順番に。 |
今平 | 血みどろの箱が閉まり、次に開いたら綺麗になっていたのは、次の箱ってことか |
橋本 | ええまあ。 |
塚本 | じゃ、17番の箱があり、別の番号の箱もあるんだ。 |
関田 | 彼女は自分の箱に入っていたんだ。それで安全だったわけだ。 |
今平 | 自分の箱か |
伊藤 | 自分の番号の箱が安全だ、なんて断言できるんですか。 |
関田 | わかりませんけど |
細田 | わかりませんよ。 |
今平 | じゃ、ためしてみましょう。 |
塚本 | ええ。 |
細田 | どうやって |
今平 | だから、箱の番号を見て・・・どこに書いてあるの |
大森 | ドアのこっち側 |
細田 | だめだめ。乗りこんだとたん、ドアが閉まり、死んでしまう。 |
今平 | なんか方法ないの |
安伊子 | さっとやればいいでしょ。さっと。 |
関田 | 誰が、さっと、素早く、やるの? |
安伊子 | (藤井に)この人、素早そう |
藤井 | ちょっと待てよ |
細田 | 速いって言っても、限界あるでしょ |
今平 | なんか、止める方法ってありそうでしょ |
細田 | さっき、見たでしょ。あの人、ドアが閉まってなかったのに・・・ |
塚本 | 手で押さえてなかったから |
藤井 | ストッパーをひっかけたらどう? こう、ドアんとこに |
細田 | それで閉まらないのはエレベーターの場合でしょ。あれがエレベーターじゃないとしたら、それでうまくいくのかどうか・・・ |
伊藤 | 難しいよ。 |
今平 | 難しいけど、でも、ためして見ないと |
塚本 | 可能性にかけてみるしかないかと |
伊藤 | じゃあさ、あんたら試してみな |
今平 | えっ |
塚本 | しかし・・・ |
伊藤 | いいアイディアかもしれないね。じゃ、彼女からやってみて。なんだっけ。手とかストッパーで押さえて、番号を見るんですね。あなた(塚本)が押さえていて、彼女(今平)が見る役 |
今平 | なんであなたが決めるんですか。 |
伊藤 | 誰が決めるもなにも、あんたが言ったんだし、他に方法ないみたいで。 |
安伊子 | 他に脱出の道はないみたいだし、しょうがないか。 |
藤井 | 周りの部屋からは絶対に出れませんよね。外部と繋がっているのはアレしかないんなら、もう |
今平 | でも、危険が |
伊藤 | キケンはあるよ。危ないって言ってるでしょ。さっきも死んでるんだから。でも、やるしかないんでしょ。 |
塚本 | キケンが高すぎるって言ってるんです。まだ未知のことが多すぎる。 |
伊藤 | でも、じゃ、どうやって未知の部分を減らしていくの。試して見るしかないでしょ。 |
塚本 | 試すって言っても、失敗だったらそれは |
細田 | 死ぬかもしれません。 |
伊藤 | かも?・・・死にますよ |
本多 | よした方がいいと思いますよ。だって、逃げ場、ないもの。 |
安伊子 | まあ、間違いないでしょね。 |
本多 | 死んじゃいますよ。 |
細田 | でも、あなたお役人ですよね。じゃあ、仕方ないんじゃないの。 |
塚本 | 関係ないでしょ。 |
細田 | 関係あるでしょ。少しは人の役に立ってくださいよ。 |
塚本 | 役に立ってますよ私は。 |
細田 | どうだか・・。 |
安伊子 | じゃあ、さっと首を入れて、一瞬で見るとか |
塚本 | 一瞬で首が・・・ |
町田 | でも、個人の固有番号とマッチングして、それで判断して、それから可動部が動くんだとしたら、タイムラグは生じるでしょう |
渡部 | いや、今時、そんなもんのマッチングなら、そこいらのパソコンだって1億分の1秒ぐらいで可能だから・・ |
町田 | マッチングは靴なのかしら。あ、靴の番号? じゃ、上着の番号は何? 靴底の番号を読むってことは床に足をつけるってこと? 読み取るのは時間かかるでしょ。 |
関田 | じゃ、こうしよう。靴をはかないで乗り込む。ね、エレベーターもびっくりするよ。エレベーターじゃないのか。あと、全部の靴をいっぺんに投げ入れるとかってどう。全部の番号をチェックしてたら、けっこう時間かせげるよ。あいつもびっくりして「おいおい、順番に並べよ」とか言い出すんじゃないの。 |
細田 | それ、あなたやってみますか。 |
関田 | いや、その・・・ |
細田 | 結局、なんにもわかってないんだから、やっぱり実験してみるしか |
塚本 | なんにもわかってないから、ダメなんでしょ。 |
今平 | もうちょっとキケンが減れば |
伊藤 | キケンはあるの。だいたい、靴が識別部位なのか、人間自体で識別しているのか、なんにもわかってないんだから、 |
本多 | やっぱりおかしいと思いますよ。そんな、死ぬ可能性の高い実験を行うのは。 |
細田 | でも、他に方法ないんだから |
本多 | それはそうですけど |
今平 | 私は、誰がやるのかをこの人に決めつけられるのがおかしいと思う |
塚本 | そうそう。勝手に決めないで欲しい。 |
細田 | 勝手にって・・・でも、どうやって決めるっていうの |
塚本 | それは・・・。 |
細田 | 何かやりたいんでしょ。方法があるかもしれないんでしょ。そう信じたいんでしょ。だったらやってみるしかないじゃない。 |
塚本 | それはそうなんだけど、死ぬほどの危険は |
細田 | 仕方ないじゃない。あなた犠牲になってよ。 |
塚本 | なんで私なの。他にもいっぱいいるでしょうが。 |
伊藤 | だから、中途半端に前向きになるなっていうことよ。 |
塚本 | でも、あなたみたいに後ろ向きじゃ何も解決しないんですよ。 |
伊藤 | 誰が後ろ向きだよ |
塚本 | 私はただ、みんなで考えましょうって提案してるんですよ。 |
伊藤 | じゃあ、どうすんだよ。 |
安伊子 | あそこしか、道はないんだとしたら |
伊藤 | やるしかないんじゃないの |
本多 | でも死ぬんですよ。 |
伊藤 | 死なないかもしれないじゃないの |
塚本 | 絶対死んじゃうでしょ |
大島 | わかったよ。もういいよ。実験しよう。わからないことが多すぎるし、アレしかないみたいだから、実験しましょう。一つ一つ問題をクリアしていくしかないんだからね。ドアを押さえておくと箱は動かないのか。靴の番号に意味はあるのか。自分のじゃない靴を履いて意味があるのか。ドアを押さえている人は死ぬのか。いいよなんでも。なんかやればいい。一つ一つ実験していこう。それしかないよ。で、誰がそれをやんのか。ジャンケン? クジびき・・・いやだね。オレはいやだ。俺はやらないよ。だから・・・(橋本へ)やれよ。 |
橋本 | えっ・・・ |
大島 | やれよ。 |
橋本 | そんな |
大島 | んじゃ、誰か指差しな。 |
本多 | ちょっと、かわいそうじゃないの。 |
大島 | かわいそう? かわいそうだよ。オレらみんな可愛そうだよ。だから、やるしかねえんだよ。 |
| |
| 大島、本多を掴む |
| |
本多 | 離してよ。あなたおかしいわよ。死んじゃうような実験するなんて。みんなで一緒に助かるんでしょ。せっかく知り合ったのに。せっかくの出会いなのに。 |
大島 | 靴、脱げよ |
本多 | 離してよー |
大島 | 靴、脱ぐんだよ。誰かが犠牲にならないと、オレ達の誰一人、助からねえんだよ。 |
本多 | じゃ、この靴を投げ入れてみましょう(と脱ぐ) |
大島 | うるせー。(と、本多をつきとばす) |
| |
| そのまま、大島は本多を連れていき、エレベーターにぶちこむ |
| エレベーターが閉まると同時に激しい音がする 靴だけが残る |
| |
大島 | 靴じゃないんだ。 |
藤井 | じゃ、次・・・(関田へ)あんた |
渡部 | お前ら、おかしいよ。 |
| |
| 渡部と羽生、部屋から別々の部屋へ出ていく。悲鳴。 |
| 後を追った細田、藤井、呆然。大島らも部屋へ入る。 |
| 戻ってくる大島、ナイフを手にしている |
| |
大島 | これって、どっから飛んでくるんだよ。 |
藤井 | さっきまではなんともなかったのに。 |
細田 | なんで急にトラップが作動したんだ? |
伊藤 | また局面が変わったってことじゃないの。 |
安伊子 | でも、後から入った人には何も起こらない。 |
藤井 | とにかく、なんかやれば何かが起きるってことだ |
大島 | 実験、続けよう。 |
藤井 | じゃ、あんた(関田)、こいつ(越田)とこいつ(伊藤)のどっちか選べ |
関田 | えっ |
藤井 | 選べよ。あんた先生だって言ってたろ。あんたに従うよ。 |
大島 | 次は、ドアを押さえておくの試してみないと |
伊藤 | なんでオレなんだよ。 |
大島 | 役に立たないからだよ。 |
藤井 | どっち? |
関田 | (越田を指差す) |
越田 | なんで |
関田 | 理由なんてない。 |
越田 | うそでしょ。 |
大島 | (越田にナイフを当てる) |
藤井 | (伊藤を捉まえ、EVに引っ張っていく) |
塚本 | ちょっと待って |
大島 | 待たねーよ。 |
| |
| 伊藤にドアを押さえさせ、越田、EVの前へ |
| |
関田 | うまく行けば、何も起こらないんだから。 |
越田 | そんなのおかしいよ。 |
関田 | 誰かが、やるんだし、どうせ、次はあたしだから。 |
越田 | でも |
関田 | あたしが次にやるよ。 |
越田 | じゃ、あたしが次にやるから、あなた先にやってよ。 |
関田 | ・・・いやよ。 |
越田 | うそつき。 |
| |
| 越田、エレベーターと対峙する |
| |
大島 | (伊藤に)ちゃんと押さえてろよ。うまく行けば助かるんだから |
| |
| 越田が中に入ったとたん |
| 伊藤も中に引きこまれ、ドア閉まる |
| 激しい音が響き、沈黙 |
| |
大島 | ちっくしょー。 |
藤井 | ぜんぜんダメじゃねーかよ。 |
塚本 | もうちょっと考えようよ。ほんとうにこんなことしてて、誰か助かるのか。 |
| |
| みんな、顔を見合す |
| |
橋本 | もう、絶対だめだ。みんな死んじゃうんだ。ひどいよ。この施設って実験施設だって言ってたよね。私達を閉じ込めたやつを許せないって。でも、結局、よってたかって実験してるのは・・・ |
安伊子 | うるさいわね。あんただって、さっきの実験のとき、止めようとしなかったでしょ。 |
橋本 | わかってるわよ。私も見殺しにしたの。同罪よね。私もあなたも、同じ人殺しよ。知ってるのよ。あなた越谷連続殺人犯でしょ。 |
安伊子 | 何言ってんの。 |
橋本 | ここってすごいよ。拘置所から連れてくることもできるんだもんね。どういう組織なんだか。 |
安伊子 | うるさいわね。関係ないでしょ。 |
橋本 | あなたはさ、4人も殺しているから平気かもしれないけど、普通の人間は耐えられないのよ。 |
安伊子 | うるさい。 |
橋本 | さよなら。もう、ほんと、耐えられないの。(と、部屋を出ようとする) |
安伊子 | 待ってよ。そっちに行ってトラップにかかるんなら、エレベーターに乗ってよ。 |
橋本 | いやよ。 |
安伊子 | 乗ってよ。 |
橋本 | さよなら。 |
安伊子 | (橋本の腕を捕まえる) |
橋本 | 離してください、人殺し。 |
安伊子 | 何も、好き好んで連続殺人したわけじゃないのよ。あなたにはわからないでしょうね。東京近郊のベッドタウンで、何が起こっているか、なんてさ。中途半端に教育熱心なおばさんたちが、たいした学歴でもないのに子供の成績を競ってさ。あたしがどんな会社に勤めていようが関係ないでしょ。どんな男とどんな付き合いをしてるかなんて、関係ないでしょ。なにかっていうと比べるんだから。私は我慢してたのよ。笑われようとも、バカにされようとも。郵便受けにイタズラされても、カレシにくだらない告げ口されてもね。それが大人の社会だからって。だけどね、一番嫌だったのは、あんたみたいな女に同情されることだったのよ。あたしは良識ある普通の女です、みたいな顔してさ。しょうがないじゃない。そういうやつらは、痛さを知らないんだから。 |
| |
| 安伊子が、橋本をエレベーターにつきとばす |
| 同時に、エレベーターが開く |
| 直前で止まる橋本 |
| 安伊子、橋本を片手で押し、エレベーターに押し込む |
| 衝撃音が響く |
| |
安伊子 | あたしは、連続殺人犯じゃないわよ。 |
布施 | どうでもいいよ、そんなの。 |
安伊子 | 今の実験になった? |
塚本 | なんの? |
安伊子 | まるで自動ドアだったじゃない。絶妙のタイミングで開き、絶妙のタイミングで閉まる。どうなってんのよ。 |
塚本 | どっちにしても、ほとんど前進してませんね。 |
藤井 | 少しはわかったんじゃないのか。 |
塚本 | 何も。 |
藤井 | なに? |
塚本 | 何もわかってませんよ。何人殺せば気がすむのか知りませんが、あなたがたのやっていることからは、何も生まれてませんよ。 |
大島 | なんでだよ。ドアとトラップの関係がわかったろ。 |
塚本 | ドアとトラップは関係ないってことがわかったんでしょ。だいたい、最初の人がドア開いたままで死んだ時点で気づくでしょ。 |
藤井 | そうなのか? |
塚本 | だから。だからだめだって言うんですよ。頭使えよ。いいですか、きっとアレはワナですよ。と言っても、おそらくは他の方法はないと思います。外部と繋がっているのは、やっぱりあそこだけだと思います。通常の方法ではたぶん無駄死にしちゃいます。この施設を作ったやつらを出しぬかないとならないはずです。我々が、あそこから出る方法を考えることぐらい、読まれてますよ。 |
布施 | じゃあ、なんか方法あんのかよ。あんた、えらそうに解説してくれんのはいいんだけど、その出しぬく方法ってのは、あんのか? |
塚本 | それは・・・ |
細田 | たぶん、あそこだと思いますよ。あれしか、ないと。あれの構造が・・・ |
塚本 | 構造って、設計図かなんか、あるんですか。 |
細田 | システムを考えてるんですよ。あれって立体駐車場のやつみたいな仕組みですよね、でも、例えば、上下に動いているだけの可能性だってありますよ。そっちの方がコストは安くあがります。 |
布施 | 回るんなら、横にスペースが必要だしな。 |
塚本 | 結局、何一つわかってないのに、なにが実験なんだか。 |
藤井 | わかってないから実験するんだろ。 |
塚本 | その前に頭使えって言ってるんです。あなたがたには戦略がないんですよ。何人無駄死にさせれば気がすむんですかってことですよ。そりゃ、人殺すのはね、ここじゃ特別じゃないかもしれませんけどね。 |
細田 | ここだけってわけじゃないでしょ。 |
塚本 | ここだけでしょ。 |
細田 | 違うでしょ。どこだって一緒でしょ。この国はおかしいんですよ。だめなんですよ。コミュニケーションが壊れているんですよ。もう、戻らないんです。一からやり直さないといけないんです。リセットしないと。人間の力の及ぶものじゃ、なくなっている・・・ |
布施 | 何言ってんだよ。こいつ、おかしいよ。 |
細田 | おかしいのはあなたがたの方です。なぜそれに気づかないのですか。我々は、ようやく完成させたのです。この世界をリセットさせる方法を。ニンゲンは、最初っからやり直すべきです。あなたがたは、ここの外側がどうなっているか知らないだけです。 |
布施 | てめー、何言ってんだよ。 |
塚本 | あなた、ここのこと知ってるんですか。 |
細田 | お前には教えるか。おい、国家権力。あんたが最初に死ぬべきだったんです。どうせなら、あんたたちで実験して欲しかった。なんで私まで・・・ |
布施 | なんなんだよ。お前、宗教か? |
細田 | 知らないんですよね、今、宗教がもっとも最先端の科学技術を開発していることを。ダメ宗教家は、やれ生命倫理がどうのとか、命の尊厳とか言いますけど、ばかじゃないの。遺伝子を操作する技術が手に入ったとするなら、それは神の意志です。中性子で人が殺せる技術があるとするならそれも神の意志です。P5(ピーファイブ)ウィルスも、そうやって神が与えたのです。 |
布施 | 何言ってんだよ。こいつ頭おかしいよ。 |
細田 | うるさいんだよ。 |
大島 | P5、知ってるよ。ネットで見たよ。お前、バモイグルかよ。 |
布施 | バモイ・・・妹を返せよ・・・(と、細田を刺す) |
細田 | なんで私が刺されなくっちゃならないの。妹? いまここじゃ、ぜんぜん関係ないでしょ。どうしてそうなんですか。だからリセットするしかないんですよ。やり直さないと、私達はほんと、シアワセになれないんですよ。私達の子供たちの幸福のためには、これで良かったと思います。この施設が稼動し、地球環境がリセットされた今、すべては手遅れですよ・・・ |
布施 | なに言ってんだよ。ふざけんなよ。(と、細田をエレベーターの前に連れていき、ドアに寄りかからせる) |
| |
| 細田はエレベーターのドアが開くと、自動的に中に入る |
| そのときは、なにごとも起こらず、ドアが閉まる |
| |
塚本 | もうだめだ。せっかくあの男が口を割ったのに、バカが一人で興奮して・・・ |
布施 | うるせえよ。 |
関田 | なんか、ウィルスの実験とか言ってたけど。 |
塚本 | P5ですよ。エボラよりもキケンってことでしょ。そんなものがあるなんて。まったく、バカと一緒に助かることなんか、できないよ。 |
布施 | なに言ってんだよ。どっちみち、それに感染してんなら助からないんだろ。 |
大島 | いや、もしこれがバモイだとすると、救済の方かもしれないよ。 |
塚本 | 救済ってどういうことですか。 |
大島 | さっき、言ってたろ。これの外側がどうとか。 |
塚本 | リセット・・・地球環境をリセット・・・環境破壊装置・・・じゃ、外側にウィルスまくってこと? |
大島 | とかバモイの内部サーバーに載ってたの見たよ |
今平 | じゃ、なに? ここってウィルス対障壁なわけ。この中がフェーズ4とか。 |
大島 | オレ、見たもの。さすがにガードが固かったけど。 |
今平 | 外側にバイオハザードを起こすんだ。 |
塚本 | そういうことか。中の方が安全っていう・・・ |
安伊子 | え、じゃなに? もうウィルスまかれてんの。 |
今平 | たぶん・・・ |
塚本 | あーあーあ。カルトがさ、勝手なことやってるわけよ。世の中を直すとか言って。ウィルスかあ。どうすんのよ。じゃ、この中だけが安全で、もう、世の中、めちゃめちゃなの? |
安伊子 | なに? じゃ、閉じ込められてたんじゃなくて、たすけられてたってわけ。 |
大島 | 危機に瀕していたのは、世の中のほうかよ |
今平 | エボラを超えるウィルスじゃ、逃げられないかもね。 |
関田 | 閉じ込められていたのは、あっち側の社会ってことか。 |
安伊子 | ってことはなに? 逃げないほうがいいってこと。だったら、この中の実験はなんだってゆうの。 |
塚本 | 集団化の実験ですかね。意味あるんですか、それ。 |
今平 | 私達を助けて生き残らせる意味はわからない。やっぱ、実験の目的の一つに殺し合いは想定されてるんでしょ。 |
安伊子 | ちょっと待ってよ。バイオハザードって何よ。ゲームじゃないの? |
今平 | だから、ここ以外にウィルスを |
塚本 | 無駄ですよ。この人に説明する必要、ないです。 |
藤井 | なんだよ。説明しろよ。オレもちょっとわけわかんねーんだけど。 |
大島 | 私はこれが実験だとするなら、まだ実行されていないと思いますよ、ウィルス。 |
塚本 | いや、当局では、彼らに関する情報をある程度は把握していましたから、可能性は高いと思います。少なくとも、その技術はあるかもしれません。 |
大島 | その情報、ほんとうに信用できるんですか。情報源は厚生省ですか、通産ですか。どっちにしても、それほどの情報は得ていないはずです。 |
塚本 | どうしてそんなことが言えるんですか |
大島 | 見ましたから。セキュリティ甘いんですよ。特にパスワードの管理は中小企業レベルですよ。 |
塚本 | 本当に重要な情報はネットワークに載せていません。 |
大島 | 恐ろしいこと言うなよ。 |
塚本 | それが私達のやりかたです。あなたがたは知らないほうがいいことだってあるのです。ものごとを理解しているのは我々だけです。だから、指示にしたがってください。いや、私はあなたがたのためを思っていっているのですよ。 |
安伊子 | こいつ、むかつくなあ。 |
塚本 | あなたに好かれたいとは思いません。 |
安伊子 | ふざけんなよ。(と、ナイフを構える) |
塚本 | どうしてすぐ、そういうことをするんですか。そこから何か生まれてくるんですか。お願いですから私の指示に従ってください。私を信じてください。私はね、この髪ですから、省内でも浮いてるんです。カルト対策室なんて、官僚にとっちゃ左遷も同じなんですよ。でも、私は希望して就任しました。カルトに入れこむ人たちの悲鳴が聞こえたんです。今時の若い子たちの行き場のない閉塞状況をちゃんと見てきたんです。パラパラだって踊れるんですよ私は。ちゃっちゃっちゃちゃっちゃみっきまうすー。ねー。だけど、同僚たちは全くやる気ないし、カルトの人たちを軽蔑してますから、何も理解できません。あいつら、さいてーです。でも、どうしてみなさんは彼等を支持するんですか。既得権益を守ることしか考えないじじいたちをどうして支持するのですか。彼等にはなんにもわかっちゃいないのに。ガキと一緒に考えることが、ほんとうに重要なんですよ。私はね、それでしか世の中を変えることはできないって信じてるんです。だから官僚の道を選んだんです。なのに、どうして理解してくれないんですか。じじいの言うことは聞いて、なぜ私の言うことを聞いてくれないんですか。あなたがたは、じじいと心中するつも |
安伊子 | 世の中はそう言う風にできてるんでしょ。常識じゃないの。 |
塚本 | (安伊子に襲いかかり、刺しながら)何が常識だよ。ふざけるな。何が常識だよ。そんな常識ってあるかよ。それじゃ、なんにも良くならないじゃないかよ。 |
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| 安伊子、布施に助けを求める |
| 布施、今平の後ろに逃げる |
| はずみで、今平がつきとばされる |
| 安伊子、塚本の腕をつかむ |
| 塚本、安伊子の腕を取り、エレベーターの中に誘導する |
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塚本 | あなたが悪いんです。 |
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| エレベーター閉まる |
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布施 | これって、完全に死体運搬機になってるな。もともとそういうもんじゃないのか。地獄に通じてるって。あ、近所か。 |
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| 沈黙 |
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町田 | エレベーターにこだわりすぎてるんじゃないかって思うんですけど・・・ |
今平 | どういうこと? |
町田 | 他の部屋なんですけど、たぶん、トラップの仕組みはこうです。さっき、あっちとあっちで人が久しぶりに亡くなりましたよね。で、それを見に行った人には何も起こらなかった。たぶん、素数とか使ってる人が考えたトラップですから、しきい値でシステムを組んでるんだと思います。つまり、トラップが作動したときを0とし、そこから人の出入りごとに数字が増えていき、たぶん上着の数字ですけど、で、ある設定値を超えたらトラップが作動するという・・・ |
今平 | なるほどね。じゃ、今はあっちとあっちの部屋は安全だってことね。 |
町田 | だと思います。さっき、大勢が部屋を調べてたくさん出入りしててもトラップは作動しなかったんで、この人数なら、ほとんど安全だと思います。 |
布施 | いまさらトラップのことはわかっても、脱出には繋がらないよな。 |
町田 | それは・・・ |
大島 | じゃ、オレ、あっち見てくるよ。 |
藤井 | オレも。 |
町田 | あ、じゃ、私も |
今平 | 私はここにいます。死体、見たくない。 |
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| 舞台に今平と布施だけが残る |
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今平 | 行ってみないの |
布施 | オレは死体は見たから。 |
今平 | あ、思い出した。ちょっと、さっきのあれ、どういうこと。 |
布施 | なんだよ。 |
今平 | さっきよ。あの官僚がナイフ振りまわしてたとき、私を盾にしたでしょ。 |
布施 | あれか。 |
今平 | それで突き飛ばしたでしょ。死ぬとこだったじゃない。 |
布施 | 別に。どっちみち、死ぬんだから。 |
今平 | やめてよ。私、ぜったい生き残るんだから。死なないよ。 |
布施 | ばっかじゃねーの。もう、10人も死んでんだよ。見ただろ。殺してんだよ。お前だって見殺しにしてんだろうが。 |
今平 | しょうがないでしょ。 |
布施 | みんな、見殺しだもんな。ひでーよなあ。 |
今平 | だって・・・ |
布施 | 気にすることねーよ。こんな状況じゃ、誰だって・・・ |
今平 | うん・・・ |
布施 | さっきは悪かったな。 |
今平 | うん・・・ |
布施 | あの・・・やるか。 |
今平 | えっ? |
布施 | だって、きっともうすぐ死ぬんだぜ |
今平 | 何言ってんの |
布施 | ってゆうか、やらせろよ。 |
今平 | いやよ |
布施 | 無理すんなって。(とびかかる)(腕を押さえ)やらせろよ。 |
今平 | やめてよ。 |
布施 | もう、おしまいなんだよ。 |
今平 | だから? |
布施 | だって、このまま死ぬなんて・・・ |
今平 | だけどさ |
布施 | だめかよ。 |
今平 | だってさ |
布施 | だめ? |
今平 | (だまって布施の手を握り、身体に当てる) |
布施 | (恐る恐る手を胸に) |
今平 | (なんかやる) |
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| その時、大島登場 |
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大島 | 次、オレな。 |
布施 | 何言ってんだよ |
大島 | 別にいいだろ。 |
布施 | うるせーよ。 |
大島 | なんでだよ。オレだって |
今平 | 別にいいよ。 |
大島 | ほらみろ。そういう女なんだよ。 |
布施 | うるせえって言ってんだろ。 |
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| 布施、大島に殴りかかる |
| が、大島はナイフを持っていた |
| 布施、大島から離れると、身体にナイフが刺さっている |
| 動揺する今平 |
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今平 | なんでよ。(崩れ落ちる) |
大島 | おい、お前(布施)、手伝ってやるよ。 |
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| 大島、布施をEVに連れていく |
| EVに消える布施 |
| 振り向き今平と対峙する大島 |
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大島 | さてと・・・ |
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| 関田と町田が戻ってくる |
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関田 | 今のあれ、消防士の人 |
大島 | そう。なんかもう、だめだね。(今平に)あい、あっち行こう |
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| 今平、歩いていく。追う、大島 |
| 残される関田・町田 |
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町田 | 助かるよね |
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| 沈黙 |
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町田 | 助かるよね |
関田 | 助かるよ |
町田 | でも、なんか、今までとは同じようには生きていけない |
関田 | いいんじゃない。今までと同じじゃなくて |
町田 | うん。まあ、そんなに好きじゃなかったから |
関田 | なに? みんな嫌いだあって。社会が間違ってるって? |
町田 | じゃなくて、いままでの自分が嫌いだったから |
関田 | あ、そう。こんなことあって、それで今度から自分が好きになれんだ |
町田 | 前よりは、ね。 |
関田 | そうかなあ。 |
町田 | ダメですか |
関田 | わかんない。ま、助かってみないと。 |
町田 | 助かりますよね。 |
関田 | 正直に言っていい? |
町田 | だめ。 |
関田 | 助からないよ。 |
町田 | 助かりますよ。 |
関田 | そう信じたいってだけでしょ |
町田 | そんなんじゃ |
関田 | どっからそんなこと言えるのよ。根拠ないでしょ。現実を見てよ。 |
町田 | でも。 |
関田 | 嫌いなのよ。あなたたちって、どうして現実を見ないの。私は現実を生きてるのよ。子供だからって甘えるんじゃないのよ。先生はね、現実ってやつを教えたいの。わかる? 学校と社会は全然違うんだからね。 |
町田 | わたしは・・・ |
関田 | そうやって、すぐ落ち込むんだから |
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| 藤井、登場して(ナイフを持っている) |
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藤井 | あんたさあ、こんなとこで何言ってんだよ。 |
関田 | こんなとこもどんなとこも、私は私よ |
藤井 | ばっかじゃねーの。説教してる場合かよ。 |
関田 | あなたには何も言ってないでしょ。 |
藤井 | (町田に)ぜったい、助かるから。 |
町田 | うん |
藤井 | オレは死なないよ。 |
関田 | そうね。あんた一人だけ、死なないでしょうね。生き残るんでしょ。 |
藤井 | 生き残るよ。 |
関田 | そして、他のみんなは死んじゃうんでしょ。 |
藤井 | 知らないよ。生きたいって思うと生き残るんじゃないの。 |
関田 | ばかみたい。 |
藤井 | 馬鹿って言うなよ。先生だろ。 |
関田 | バカはバカでしょ。 |
藤井 | 言うなってーの。 |
関田 | 興奮して刺さないでよ。 |
藤井 | だったら、離れてろ |
関田 | (離れて)わかったわよ |
藤井 | 先生、ぼく、イジメられてるんです。 |
関田 | あ、そう。 |
藤井 | なんとかしろよ(と近づく)。 |
関田 | イジメはなくならないのよ。 |
藤井 | なにもできないのかよ。 |
関田 | なにもできないよ。 |
藤井 | なにもできない人は、助からないんだよ。 |
関田 | どういう意味よ |
藤井 | あそこ、出口だから(とEVを指す) |
関田 | なに言ってんのよ |
藤井 | あそこ出口だから。 |
関田 | 違うでしょ。 |
藤井 | あそこ出口だから。 |
関田 | 死んじゃうでしょ。 |
藤井 | 出口だから。 |
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| 関田、立ちあがり、EVへ |
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藤井 | そこ、出口だから |
関田 | もういいよ。(町田に)助からないよ。 |
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| 関田、EVに入る、と大きな音がして、静寂 |
| みんな戻ってくる |
| 残っているのは、町田、今平、藤井、大島、塚本、大森の6人 |
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今平 | いまの音 |
藤井 | 先生 |
今平 | あの先生、どうしちゃったの |
藤井 | 死んだ |
今平 | なんでよ。(町田に)なんでよ |
町田 | 助からないって |
今平 | それは・・・ |
藤井 | オレは助かるよ |
塚本 | 自分だけ助かる方法じゃなくて、みんなが |
藤井 | みんなが助かる方法は、ないよ |
塚本 | そんなあ |
藤井 | なんかわかったのか |
塚本 | いや。 |
藤井 | オレは発見したよ。 |
塚本 | なにを? |
藤井 | さっきさ、アレ(EV)の中で動いてるのって一つだけだったんで、 |
大島 | なに? |
藤井 | ほら。アレに乗った人がこうつぶされるの、見ただろ。 |
大島 | で? |
藤井 | それが一本のドリルみたいのが回転してた |
大島 | だから? |
藤井 | だったらさ、例えば全員でいっぺんに乗れば、一人ぐらい生き残れるかもなって思ったんだけど。 |
塚本 | おいおい。ムチャするなよ。強行突破か。それぐらいしかキミの頭じゃ考えられないのか。 |
藤井 | いや。俺はそれで行けると思う。 |
塚本 | そんなことしたら、ほんとに助かるのは一人ぐらいになっちゃうだろ。ばかだなあ。 |
藤井 | そうだよ。 |
塚本 | どういうことだよ。 |
藤井 | 一人だけ真ん中にいて、その周りに5人がいて |
塚本 | やめろよ。 |
藤井 | その身体が盾になってなってくれるんだよ。肉体があればいいんだから、別にそれは生きていなくてもいいんで |
塚本 | 誰がそんなことやるんだよ。 |
藤井 | だから、乗るときに生きてなくても、肉体さえあればいいんだよ。みんな入れちゃって失敗したなあ。残しておけば良かった。まあ、まだ5つあるし・・・。 |
塚本 | ばかなこと言ってんじゃないよ。 |
藤井 | あんた、市民の盾になるのがシゴトじゃないの。 |
塚本 | ふざけるな |
藤井 | いいよ、もう。 |
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| と、今平に近づく |
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藤井 | 俺さ、腕力しかないだろ。勉強できないのコンプレックスでさ、大工ぐらいにしかなれないの、すごく恥ずかしかったんだよ。でもさ、大工って面白いんだよ。家って今、プラモデルみたいに作るんだぜ。工場でパーツを作ってさ、それを順番に運んで、接着剤でくっつけるんだよ。俺、大工好きだよ。頭悪くても、腕力あれば楽しく生きていけるんだよ。だから、俺、決めたんだ。どんなときも、腕力で生きていくって。それで、バカにしたやつらを見返してやるって。今だったらあいつらに絶対負けないのにな。俺は負けないんだよ。絶対に。だから、俺は生き残るんだよ。 |
塚本 | やめろよ。 |
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| と、塚本、藤井を止めようとして今平の前に立つ |
| ナイフが塚本に刺さる |
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塚本 | オレ、今、彼女をかばったのか |
藤井 | なんだよ。褒めてほしいのか。 |
塚本 | いや、柄じゃないことしたなって思って |
藤井 | いいんじゃないの。 |
塚本 | それに今、俺、「やめろよ」って言ったよな。みんな見殺しだったろ。最初からずっと見殺しだったもんな、みんな。初めて止めたのが、俺だなんて、笑っちゃうよ。 |
藤井 | 最初で最後、だろ。 |
塚本 | このナイフ(刺さっている)、渡さないよ。 |
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| と、EVのとこにいく |
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塚本 | 中に入っちゃうよ(とドアの前で倒れる)。こっちくれば・・・。(息耐える) |
藤井 | ムダなんだよなあ(と、別のナイフを出す)。あっちの部屋にいっぱいあるんだから。 |
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| と、今平を切る |
| 倒れる今平 |
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藤井 | 歩けるだろ |
大島 | くそっ |
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| 大島、ナイフの部屋に走る |
| 藤井が追う |
| 隣りの部屋の映像になる(別撮り)。壁際に追い詰められる大島 |
| 藤井、近づき、刺す |
| 藤井、笑う(アップ) |
| と、突然、藤井、苦痛に顔が歪む |
| 振り向くと、誰かに刺されている |
| 刺しているのは大森 |
| 藤井、振り返り、大森を刺す |
| 大森は血だらけになりながら笑う |
| 三人、倒れる |
| 横たわる三人の画があって、FO |
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今平 | (苦しい)なんか、やだなあ。 |
町田 | しっかりして |
今平 | ひどいめにあった |
町田 | だいじょうぶ? |
今平 | だめ |
町田 | 頑張って |
今平 | 助からないよ |
町田 | 助かるよ |
今平 | 私、盾になってもいいけど、あそこまで運べる? |
町田 | たぶん、だめ |
今平 | あいつ、戻ってくるかな |
町田 | ・・・ |
今平 | 向こうでトラップにかかってるといいね |
町田 | 一緒に助かろうよ |
今平 | わたしは、別にいいな。 |
町田 | いやよ |
今平 | もう、限界 |
町田 | 助かるってば。 |
今平 | けっこう、いい男いたのに、なんか、ついてないなあ(死ぬ) |
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| 町田、立ちあがる |
| エレベーターが開くと、逆光 |
| 一人、歩いていく |
| おしまい |
| Ver.1.42 2000.6.20. 13:00 |
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