稽古テキスト1(以下の三人のセリフのうちの一つを選んで担当)

 M 松任谷由実「リフレインが叫んでいる」
 霞ヶ浦、海軍兵学校、飛行場。
 今まさに特攻に飛びたたんとする三人の若者


穂積 上官殿! 自分は死ぬ事は怖くはありません。ただ本当に自分達が死ねば、日本は戦争に勝てるんでありますか? 本当に自分達が死ねば、この美しい日本を救うことができるんでありますか? 本当に自分達が死ねば、父や母や妹達は、幸せになれるんでありますか? (役者名)行きます!

  SE 飛行機離陸音

杉山 母上、僕は今、母上の事を考えています。想い返せばあなたには、迷惑のかけっぱなしでありました。不甲斐ない、だらしない息子ではありましたが、あなたに対してなにもしてあげられなかった事を残念にまた口惜しく思っております。母上、幼くして父をなくした自分にとって、あなたはただ一人の心の支えでありました。母さん、行きます。笑って送って下さい。(役者名)25歳極めて健康、行きます。

  SE 飛行機離陸音

上官殿、本当に長い間お世話になりました。自分は一番機に乗って出撃いたします。これでようやくお国のために尽くすことができて、なにも思い残す事はありません。日本の勝利を靖国神社からお祈り申し上げています。海軍少佐(役者名)、身長六尺五寸、体重十七貫五百、行きます!

  SE 飛行機離陸音



稽古テキスト2

夏枝 では、行って参ります。少佐殿、敬礼して送ってくれませんか。

山崎 なにっ。

夏枝 海軍特殊任務条項第八項により、私はたった今から大佐となっているはずです。あなたの作戦には従いますが、位は私の方が上です。敬礼しなさい。

山崎 なんだと。

夏枝 敬礼はどうした、山崎少佐。

山崎 失礼しました、大佐殿。

夏枝 よろしい。お会いしたかったですわ。あなたに無礼な事を言い、お別れを決意したのは、私一人では守りきれなかったからです。姉達はあなたの家の井戸に毒まで入れようとしました。私達は許されぬ一族です。いくらあなたを愛しく思い、毎夜、夢にまで見るほど恋焦がれていても、けして添い遂げられぬ運命でした。あなたと別れるのは身を引き裂かれるよりもつろうございました。・・・船はできましたの?

山崎 いえ、まだです。

夏枝 「大和」でしたよね。うらやましいですわ。あなたにあんなに大事にされて。まだ私を愛してくれていますか。

山崎 ・・・

夏枝 答えなさい山崎

山崎 それは命令でありますか。

夏枝 えっ。

山崎 それは命令ですかとお聞きしたのであります。大佐殿。命令ならば、お答えする義務もありますが。

夏枝 命令です。

山崎 ・・・愛しています。一日たりともあなたのことを忘れた事は、ありません。

夏枝 ありがとう。行きます。ヒトラーの容態は一刻を争うはずです。

山崎 ヒトラーを、せめてアメリカが対独戦に参戦するまで生き延びさせてもらいます。もしヒトラーがもちそうでしたら、ナチスドイツの仕業として、アメリカの要人を二、三人ぶっ殺して下さい。アメリカにも口実を作ってやりたいんです。対独戦に参加するための大儀名文を作ってやりたいのです。

夏枝 わかりました。

山崎 しくじらないで下さい。

夏枝 我が一族を見くびらないで下さい。しくじることなどありえません。それともなにか殺し方に指定がありますか。

山崎 なにがおかしいのですか。

夏枝 いえ、男にはしくじったなと思ったんです。自分自身がおかしかったんです。

山崎 どういう意味ですか。

夏枝 近頃の男は、女の扱い方を知らなくて、困ったもんだと言ったんです。

山崎 なんだと!

夏枝 抱いていただけませんか。私はまだ生娘ですのよ。

山崎 ・・・

夏枝 私は卑しい泣き女です。戯れに抱いていただければいいのです。あの時もそう言ったはずです。戯れに愛してくれればいいのです。でも、あなたはいつも怖いぐらい本気でした。

山崎 妻と誓った女を、なぜ戯れに抱ける。愛する事を戯れなどにできるはずがない。

夏枝 さあ、お願いです。抱いてくれませんか。私怖いんです。淋しいんです。

山崎 それも命令でありますか。

夏枝 なに!

山崎 命令ですかと聞いているんです。

夏枝 命令です。

山崎 ・・・(近づき、抱こうと手を伸ばす)

夏枝 いえ、失礼しました。あの・・・もし私が異国の地で淋しさに負けて、他の方を好きになったとしても、けしてお怒りにならないで下さいね。本当に愛しているのは、あなたなのですから。

山崎 ・・・

夏枝 私はいつ戻れるのでしょうか。

山崎 それはまた連絡します。

夏枝 あなたがおいいつけになったことはなんでもします。ですから、必ず呼び戻して下さいね。

山崎 はい。

  去る。